決別




《96点!! GREAT!!!》




「…………はぁ?」


「え?」

「きゅ、きゅうじゅう……」

「???」


「いくらこんな歌でも、この採点は……」

「96……」

「え〜あれで?」



その採点結果は、明らかに“間違い”だった。

それでも——出たものは仕方ない。


“奇跡”だ。そう捉えるしかないんだから。



「ッざけんな!! こんなもんありえるわけねーだろうが」



それでも――叫ぶのが翔馬。

こんな意味不明な点数、否定しないほうがおかしい。



「でも、出てるよ」

「……チッ。何かやったろ、お前」


「やってないよ」

「ふざけんな!」


「やってないって」

「ざけんなってんだろ!」



初めてだ、こんなにムキになっている翔馬は。

血管は浮き出て、瞳孔が開いている。


そうか。

翔馬のことだから、あの三人には“俺が確実に脱ぐ”と伝えてたはずだ。

それが今、こうなってしまった。



「た、確かに96点ですよ」

「……せやな。カラオケにイカサマなんて出来るわけないで……?」

「」ジー



そんな彼を見つめる、鈴宮さん達三人。

援護するように声を掛けてくれる。


ものすごくナイスだ。



「つまんな〜戻ろ〜美咲」

「うん……良かった」

「もう良いか? 僕は戻るからな翔馬。歌える時間が減ってしまう」



更に、真由と泰斗からは、明らかに“失望”の目。



「も~マジなんだったのこの茶番~」

「……ちょっと真由!」

「全く……あんな歌を二度も聞かされると耳が腐る」

「ッ」

「こ、怖いよ美咲~」



その後カラオケルームから出ていく三人。



「……ッ」



それを向けられていた、翔馬が立ち尽くす。



「「「……」」」



静寂。

一分か十秒か、長い長いそれが場を支配して。




「……翔馬」



思わず声を掛ける。

今までに見たことの無い、“無音”の彼に。



「しょ――」

「陽、このオレをハメるのは気持ちよかったか?」


「え」

「テメェは何かと“利用”出来たからオレ達の中に入れてやってた。ゴミでも価値があったからな」


「……っ」

「でもお前は、今日“それ”以下になった。もう見てるだけで不快だぜ、なぁ」



ジリジリと、近付く翔馬。

胸ぐらを掴まれ睨み付けられる。



「ぐっ……」

「カスが――調子に乗りやがって」



そう吐き捨てて。

俺を投げ捨てるように手を離して。

翔馬はドアを開ける。





「――二度と“俺ら”に近付くな、害虫野郎」






そのゾッとする声が、カラオケルームに木霊した。






「……」



立ち尽くす。


まるで、嵐のような出来事だった。

それが過ぎ去った後は、嘘の様に静かだ。



「害虫、か……」



去り際の彼を思い出す。

アレだけの事をやったんだ、当然か。


……初めて、翔馬に楯突いたかもしれない。

やってしまったら、逆に今までしてなかったのかが疑問になる。


ゴミ以下が虫なのはさておき、どこか俺は清々すがすがしい気分だった。



「……」



そしてもう、後戻りなんて出来ない事も分かっている。

俺は――あのグループには戻れない。


それでも最後は。

唯一優しくしてくれていた、彼女に会わなければならない。


カラオケ代も、払わないといけないから。



「ごめんね騒がしくして」



放られた身体を起こし、彼女達に声を掛けて。

そのまま俺はドアを開ける。


単純な翔馬のことだ、もうこの部屋に来る事はない。

完全に怒りの矛先は俺に向いている。

言い方は少し悪いが、もう柳さんの事は眼中にないだろう。



「それじゃ」



ドアノブを捻れば、誰も居ない廊下が目に入った。


そのまま俺は歩いて行く。

携帯を取り出し、階段へ歩く。



「……」



この先、どうなるかなんて分からない。

翔馬の言う通りで、一時の感情に身を任せたバカは俺なのかもしれない。


一人は嫌だ。

孤独は苦痛だ。

“あんな”グループでも、一緒に居られるだけで良かった。


それでもあの時、行動していなかったら。


きっと、俺は本当に“ゴミ以下”に成り下がるんだ――



――ガチャッ



「!」



あちこちの部屋、歌声が漏れて聞こえてくるこの廊下。


後ろ。微かにドアが開かれる音がして。

振り返った時には、既に右腕に暖かい感触があった。



「待っ、て」



そこに居たのは、柳さんだった。

無表情なのは相変わらず。だけれど息は絶え絶えで、必死な様子。


……この距離でそんな息切れる? とは言えない血気迫る顔。



「な、なにを――」

「教えて、もらってない」



俺の腕を掴んだまま。

いつも閉じられている、その口は開かれた。




「種明かし、して」



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