第14話

涼「めい、頼む。教えてくれ。もう一人のターゲットって、誰のことなんだ?」


めい「だから、それは言えないんだって。これ以上は、その質問なしね」


涼「いや、僕は、めいが答えるまで何回でも聞く」


めい「えー、しつこいなー。何でそんなに必死になってんのさ」


涼「それは…」


めい「もしかして、自分がターゲットかもって思ってるの?まー、仕方ないか。ただ、言っておくけど、私は何も知らないからね。この計画立てたのは私じゃないから」


一織「だったら、どうしてめいさんは大雅さんがターゲットだってことを知っていたのですか?」


めい「どうして?そんなの、教えてもらったからに決まってるでしょ?」


一織「教えてもらった、ということは、めいさんは最初からこの事件が起こることを知っていたんですか?」


めい「そりゃそうでしょ。ターゲットのことも知ってたんだから」


めいさんは、呆れた表情になっていました。二人に一気に質問責めされたせいでしょう。しかも、何回も同じ質問に答えると考えると、呆れるのは案外普通なことなのかもしれません。そして、彼女は立ち上がって、こう言いました。


めい「もう質問はない?ないんだったら、もう解散でいいよね?」


涼「解散!?」


めい「うわっ、何、そんなにでかい声出して」


涼「いや、なんでもない」


めい「なんでもないわけないでしょ。何かあるなら言って?」


涼「………」


めい「あ、分かった!もしかしてさ、犯人私だと思ってるんでしょ」


涼「は!?」


めい「だから、もう一人のターゲットを聞いて、被害者を減らそうってことでしょ?だったら無駄よ。そんなんで止まるほどの弱い覚悟じゃないもの」


涼「そういうわけじゃないんだ!僕は、ただ…」


めい「涼、そんなにしつこかったらモテないよ?でも、もし止めたいんだったら、私を拘束でもしたら?そうすれば、殺人を防げるかもね」


涼「分かったよ。悪いが、少し我慢してくれ」


そう言うと、涼さんは部屋を出ました。倉庫にでも向かったのでしょう。その間に、めいさんは色々と話をしてくれました。


めい「キミも大変だねー。まだ高校生なんでしょ?それなのに、事件解決できるなんてすごいねー」


一織「いえ、そんなことはないと思いますよ。ただ、親が探偵なので、その影響です」


めい「へー。じゃあさ、ちっちゃいころから、何回も事件にあってんの?」


一織「そういうのは、小さなころはなかったですね。親も、私が関わることを避けていましたし」


めい「そうなんだね。でも、すごいよ。私さ、ドラマとか見てて憧れてんの。主人公が、『お前が犯人だ!』って追い詰めるの。一回でいいから、生で聞いてみたいなー」


一織「…つまり、犯人はあなたではないと?」


めい「それはどうかな。まだ、そのことは言えないから」


伊丹 めいという人物は、どんな人なのでしょうか。話せば話すほど、ますます分からなくなってきます。


その時でした。突然、大きな音がなり始めました。ジリリリリ、と、不安を掻き立てる音でした。恐怖心を煽られる感覚でした。


その音はすぐに止みました。そして、その後すぐに、涼さんが戻ってきました。


一織「涼さん!何ですか今の音は!?」


涼「ん!?何だ何だ!?」


めい「あー、ほら、落ち着いて、一織ちゃん」


涼「今の音は、間違えて緊急ベルってのを鳴らしただけだけど…」


なーんだ、間違いかー。良かったー。安心したところで、涼さんはめいさんを拘束し始めました。倉庫から持ってきたであろう縄で、椅子に縛っていきました。


そして、そこまでされても余裕そうな表情のめいさんが、私たちに言いました。


めい「一回、他の人たちと話してきたら?」


その通りにして、階段を降りました。そのころには、とっくに雨は止んでいました。


いえ、嘘です。涼さんは降りましたし、雨も止んでいましたが、私は自分の部屋に戻りました。課題が終わりそうにない、などと適当なことを言って(提出に間に合わなかったのはまた別の話)。


実は、この事件において、気になっていたことがあるのです。めいさんのことです。やたらと、情報を隠そうとしていました。考えすぎというのもあるとは思いますが、探偵の悪い癖が出てます。真相にたどり着きたくて仕方がありません。


そして、考えるだけ無駄だと割り切って、部屋を出ようとしたとき、恐怖は、再び姿を表しました。


ジリリリリ、という無機質な音が、耳を痛めつけるように鳴りました。それも、かなり長い間のことでした。


慌てた私は、階段の方へ向かいました。あんなところに一人でいるのは、とても恐ろしかったのです。しかし、出ることは不可能でした。シャッターのようなものが、道を塞いでいたのです。


大人しく部屋に戻ろうとしたとき、たったひとつだけ、開いているドアがあることに気がつきました。もしかしたら、誰かいるかもしれない。そう思い、部屋に行きましたが、誰もいませんでした。


そこにあったものは、至って普通なものでしたが、そこに、ラベルもない、空のペットボトルがありました。しかも、ゴミ箱にはラベルはありませんでした。これが何なのか、すぐには分かりませんでしたが、ようやく意味を理解したとき、信じたくないと思いました。しかし、どれだけ嫌だとしても、現実は受け止める必要があります。私は、そういう役目があるのです。


そして、部屋に戻ってしばらくしてから、ベルの音は消えました。やがて、隠されていた狂気は私たちの目の前に現れました。悲鳴を聞きつけました。急いで階段を降りました。そして、この目にしっかりと刻みつけました。小柄な体のすぐそばに、木くずと血が飛び散っていました。


伊丹 めいさんは、階段の踊り場で、死体と成り果てていました。

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