第8話

今日は香子姉のお兄さんとお食事会なのですが・・・

事の経緯は焼肉店の帰り道に香子姉に兄を紹介したいと言われ今日の流れとなる。

何でも香子姉のお兄さんも柔道選手で、調整の時に私を見て一目惚れしたらしい。

何それですけど彼氏が居たことで諦めていたが、別れたと聞いて紹介して欲しいと詰め寄られたらしい。

そして、今、正に香子姉と緊張しまくっているガッチリ体型の男性が私の前に座っている。


谷口たにぐちままま・・・正彦まさひこと申します」

「お兄ちゃん滅茶苦茶どもってたよ」

「う、五月蠅うるさい・・・」


ニッコリと微笑ながらどもりを誤魔化そうとする好青年の谷口たにぐち正彦あまさひこさん。

何だかこの人面白いわ~つい「クスクス」と笑ってしまった。

彼は顔を真っ赤にして体を縮こまらせているが何ともその様子が可愛らしい。


「こう見えて中々強いからね」

「中々とはなんだ中々とは」

「え~じゃあ其れなりに?」

「もういい!!」


まぁこの人も何気に有名人なのは知っている。

だって現役最強と言われる柔道選手でオリンピックとかでは必ず取り上げられる有名姉弟なので元から知っていたし、面識だけはあった。

改めて紹介されるのもおかしな話ではあるが、お付き合いを念頭にのご紹介とのことだとか。

それにしても、何で私に一目惚れしたのか?

言っては何であるが、私は美人と言うより可愛い系?自分で言うものではないが、そんな感じの私なので、こんな有名人なら選り取り見取りだろうし、以前に女優さんと恋仲とか報道されていたような・・・

とりあえず聞いてみることとした。


「何で私に一目惚れされたんです?」

「え・・・香子・・・そこまで話したのか?」

「勿論でしょ!!」


何かTVで見るイメージと違うけど、あれはキャラを作っている場合も多いので、今、実際に目の前にいるのが素の彼なのだろう。


「え~と・・・可愛いのに強いとか最強じゃないですか!!」

「え?強いですかね?」

「え?強いでしょ!!香子ハッキリ言って女ゴリラですよ?」

「ちょっと、お兄ちゃん私に失礼よ!!」

「おう、すまんすまん、それで、そんな小さくて可愛いのに香子と互角に戦うとか最高です!!」


おふっ、何だろう急に恥ずかしくなってきた。

元カレなんて「武道とか女の子に似合わない」とかしか言わなかったので凄く嬉し恥ずかしいんですけど~

私の顔が一気に真っ赤に染まったことで香子姉がターゲットを私に変えたようだ。


「華の顔がリンゴになったね」

「う、香子姉揶揄からかわないでよ」

「え~揶揄からかってないよ~事実を有りのままに伝えてる、だ、け」

「うぅ・・・」


チラリと香子姉の方を見ると、横の正彦さんがホッコリと私を見ている。

それを見ていると何となく落ち着いてきた。

正彦さんは俗にいう武道女子大好きの人で、自分と同じ価値観を共有できる人で、尚且つ可愛い子がタイプなのだそうだ。

彼の価値観とは「武を極める」らしい。

だから私かとある意味納得してしまった。

柔道だけでなく、今後は格闘家として総合とかにも出たいと抱負を語ってくれた。

谷口たにぐち正彦あまさひこは脱力してニンマリと笑顔を作る。

妹ははなさんを送っていったので今は一人物思ものおもいにふけっている。

妹の調整パートナーとして知っている武神たけみはなさんは昔から知っていた。

容姿はドストライク、考え方も香子っから聞く感じだと俺と同じ価値観を共有できそうな人だった。

彼氏が居ると聞き落胆してしまったのは本当に今考えると懐かしい事である。

別れたという情報を聞き、即座に香子に土下座してお願いした。

「今度、華が傲慢Arroganceの試合に出るからお祝いするんだけど、軍資金出してくれるんなら紹介をしてあげる」と言われて、即座に幾らでも出すと申し出た。

ニンマリと笑いながら「じゃあ紹介してあげる」と言った香子は本当に直ぐ紹介してくれた。

多分、兄思いの妹だ。

こっそりと「次からはお兄ちゃんが直接誘うのよ」と言ってはなさんを送っていった。


香子姉より「どうだった?」と聞かれたので「分からない」と答えたが顔が真っ赤で目を泳がせたので私の気持ちは香子姉に丸分かりかもしれない。

正彦さんは凄く私のタイプの男性だと思えた。

容姿はイケメンで柔道で鍛えたガッシリ体型、考え方も私と同じ方向を向いている。

何より、「可愛いのに強い」と言ってくれたことが凄く嬉しかった。

お付き合いすることを決めたのでこれからもっと彼の事を知っていこう。


座枯すわがれ祐平ゆうへいは驚いていた。

はなが今度、傲慢Arroganceのリングに立つらしい。

対戦相手は上崎かみさき阿音あおと選手、音奈ねなのお姉さんだ。

音奈から試合のチケットがあるので一緒に見に行こうと言われた。

正直言えば格闘技は嫌いだ。

小さい時に華に付き合って合気道を習っていたが、俺には才能が無かった。

俺と違い才能のある華を見ていると自分の才能の無さに打ちひしがれる毎日であった。

自分の才能がそこに無いことを知った俺は勉強して高学歴を目指した。

努力の結果、今の大学に通っているので報われたのであろう。

大好きな華が武道にのめり込んでいく様を見る度に華を武道に取られたような気がして何時も辞めるように言っていたと思う。

それを聞かない華をうとましく感じたのは何時頃からだろうか?

結局はその不満から二股して今に至るのであるが、未だに華の事が忘れられない。

多分、あのまま華と付き合っていても必ず武道を辞めさせていたと思う。

音奈ねなの薦めもあり一緒に試合を見に行くこととなったが、正直言えば今の華を見るのが怖い。

自分の好きな事を精一杯努力し輝いている華を見て俺は自分を保てるだろうか?

俺の暗い気持ちだけが深く深く落ちる様に黒く染まっていく。

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