第6話

上崎かみさき音奈ねなは思考する。

最近、祐平ゆうへいの様子がおかしいので聞いてみると、幼馴染の彼女から別れを告げられたらしい。

私はこのチャンス到来とうらい歓喜かんきした。

彼の事をなぐさめてなぐさめて私のとりこにしていく予定である。

彼は「まだ別れていない」と言うがそれは彼だけの主張であって元彼女さんの中では終わった出来事である。

元彼女さんには彼をゆずってくれたことに感謝をささげたい気持ちである。

今はまだ元彼女にとらわれているが近い内に私の完全なものにしてあげる。


いや~別れて以降は格闘技に全力投球出来て以前よりも技の切れも増したような気がする。

問題は、中々にマッチメークが上手くいっていないことであろう。

会長も「5連勝の内容が強烈過ぎた」と言っている。

もう少し上位ランカーになれば話は別なのかもしれないが、対戦相手もハイリスクローリターンの試合はしたくないので敬遠されても仕方が無いな~と私自身も思う。

会長も試合間隔が余りにも空くのは良くないので試合を入れたい様であるが、上手くいっていないので色々と考えてはいるようだが、まだ実行に移せていない。

そんな事を香子姉と朱里あかりさんとの夕食会の席で愚痴ぐちると良いアドバイスをくれた。


「そうね~試合を組んでもらえないのは痛いわね」

香子かこさんはあのオファー来てないですか?」

「あのって?」

傲慢Arroganceの異種格闘技戦に出てみないかってやつですよ」

「あ~何かそんなの来てるとか来てないとか?」


なんでも傲慢Arroganceと言う異種格闘技戦いしゅかくとうぎせんをメインに大晦日おおみそかなどに格闘技イベントをしている団体があり、そこより試合のオファーが来ていた話を朱里あかりさんがしてきた。

このイベントは可成り大きいイベントで、大晦日に紅白の裏で放映されるほどの人気コンテンツらしい。

何で私が知らないかって?大晦日おおみそかは毎年の様に合気道の年越し寒稽古かんげえこに参加してTVとか見ている時間は無かったのです。

何でもこのイベントは、有名な選手同士で戦わせることを売りとしているので、世界上位レベルの2人に話はよく来るようであるが、アマチュアな2人には出る気が無いらしく、何時もは気にしないのであるが、今回は私の件で思い出したようである。


「あれって新人発掘しんじんはっくつ的な試合も組まれるよね?」

「あ~予選会あって勝ち上がると本戦に出れるらしいね」


本戦とは大晦日の試合を指し、その試合に出ることで格闘技者としての知名度が一気に上がることとなるらしい。

勿論、名前が元から売れている人間にとってはそこまでの話ではないが、マイナー武術や各格闘技のランカー程度なら魅力的に感じる程の知名度上昇するとのこと。

基本的には人気選手とのマッチメークが成され、その新人さんはませ犬的なポジになりがちとの話であるが、下剋上上等げこくじょうじょうとうの内容で勝てば一気にスターダムらしい。

予選会は著名人ちょめいじんの2人以上の推薦すいせんが必要で、目の前で美味しそうに焼肉を頬張ほおばる2人はその推薦人すいせんにんに成り得るらしい。


「出るなら推薦するよ」

「右に同じく」


どうやら推薦してくれるようなので会長と一度話すこととしよう。


会長に話すと、直ぐに予選出場できるなら出したいとのことで2人にメッセージを送っておいた。

予選会は2試合戦いその中から選考で、2名の出場枠を争う事となる。

TV的に映えるかなども考慮する様なので、やっぱりそういう事も重要となるのだな~と変に感心してしまった。


時は立ち、2試合の選考試合が行われたのであるが、私はこの2試合も秒殺した。

会長からは「せる試合しないとだめじゃん」と言われたが、相手が隙だらけで良いのが1発入って倒れたから仕方ないじゃん!!

後は、私より大柄な選手を倒したビジュアル的な効果と秒殺と言うインパクトを信じて結果を待つしかないだろう・・・

香子姉に結果連絡したら、「推薦状に兎に角強いから見てとしか書いて無いから大丈夫だよ」という言葉を頂いた。

朱里あかりさんにも連絡し秒殺してしまったことを伝えると「よくやった」と褒められた。

人事を尽くして天命を待つの心境である。


今回の選考は大荒れした。

武神ぶしんはな選手の実力は柔道最強女子とレスリング最強女子の推薦に偽りなく強かった。

いや、強過ぎてショウビズ的には面白味が無いと言う者と逆にこんなインパクトがある選手は見た事無いと推す者に真っ二つに分かれた。

武神選手は総合格闘技の選手と言う事ではあるが、今後の格闘技界に旋風を起こす存在に成り得るポテンシャルを十分に備える一級品の選手であることは試合内容からも解る。

しかし、プロレスと同じく傲慢Arroganceも魅せる試合をすることでTVの視聴率を稼ぐという目的がある以上、秒殺してしまうと視聴率的にどうなるか予想できない所である。

しかし、それも上位ランカーにも同じことが出来るかと言われれば分からないし、判断の難しい所である。


上崎かみさき音奈ねなは自分の思惑と違い祐平ゆうへいが元カノの事を引き摺り未だに完全に自分の物にならないことうれいていた。

彼の元カノの事を調べると格闘技をしていて、現在、傲慢Arroganceの選考会に参加しているところまで情報を掴めた。

そして彼女はこれはチャンスと思った。

彼女の姉、上崎かみさき阿音あおとは空手家として有名で、傲慢Arroganceの上位ランカーなのである。

自分を溺愛できあいしている姉に頼んで元カノを痛め付けて貰う事を彼女は画策した。

早速、姉の阿音あおとに電話にて連絡を取り、姉は妹の願いを受諾した。


妹を溺愛できあいする上崎かみさき阿音あおとは考える。

丁度良いことに、今回の対戦カードは私が選んでいいこととなった。

何でも武神ぶしんはな選手と言う無名の新人が今回の新人発掘の選考会で目覚ましい活躍をしたが、強過ぎてTV的には如何かという話となったが、今後の格闘技界で突出してくるのは間違いないだろうから先に唾を付けておきたい思惑もあり、今回の対戦予定上位ランカーに選んでもらう事となったようである。

私的に非常の都合の良い話であった。

タイミング的に凄く良いことで神の采配と感じた彼女は早速大会事務局へと武神選手と対戦する旨を伝えた。

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