23.罪は消えない。たとえ何があろうとも

12時追記:予約投稿のミス(作者側の操作間違い)で、明日分の投稿を本来休日である本日行ってしまったため、代わりに明日分の投稿を休止とさせていただきます。


次回更新は来週月曜日となります。その点ご承知願えると幸いです。

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 ……実を言うと、俺は一つだけユキナに嘘をついていた。





 かつて俺に【呪い】をかけた親友──アルフレッド・ウェアフリードは自殺した、とそういう風にユキナに言ったが、これは嘘だ。


 より正確には、





「──俺が、フレッドを殺した」





 ……このことを語るには、まず俺と彼の生い立ちを語らなければならない。


 以前にも言った通り、俺とアルフレッドは、貴族系の家門出身だった。


 そして古くからの貴族というのはだいたいが魔導師だ。


 古の時代、まだ人類が魔獣という脅威に怯えて暮らさなければいけなかったその時代に、魔導師というのは人々を魔獣から守ることと引き換えに、朝貢を受けていたのが、いつしか統治も担うようになり……結果この世界に貴族という階級が生まれた。


 とはいえ、今の時代では貴族も世俗化し、魔導師家門と貴族家門で完全に分かれるなど時代が下るごとに貴族家門は魔導師としての才能を失くしていっている。


 ただ、古の時代に魔導師であった貴族家門は、そうであるからこそ現代でも魔導師としての才能を有することを一種の名誉として扱っていた。


 帝国の貴族社会では、魔導師としての才能がある、というそれだけで一目置かれるのだ。


 それが、さらに突出した才能であったのならば、なおさらに。


 かくいう俺、ハル・アリエルはまさにそんな才能のある魔導師であり、同年代ではほぼ敵う者がいない、と言えるほどに卓越した魔導師としての才能を持っていた。


 唯一、アルフレッドを除いては。


 彼だけは、俺に追随するほどに突出した魔導師としての才能を有していた。下手をすれば転生者としてある程度の〝ズル〟がある俺なんかよりもずっと才能豊かだったと言える。


 いわば、俺にとって魔導師としての競争相手。互いに才能を切磋琢磨する存在として、また同じ貴族系家門の出身者として仲良くなるのは必然で。


 俺は心の底から、アルフレッドを親友だと思っていたし、少なくともある時まではアルフレッドもそうだったと思う。


 そんな俺とアルフレッドに差がついたのは、俺が十三歳のころ。


 単なる腕試し程度に受けた魔導一種の試験に俺が受かってしまってからだ。


 俺としては単純に魔法が自由に使えるようになればそれでいいと思っていた。


 だからわかっていなかった俺のその行動がアルフレッドを追い詰めたことに。


 魔導一種を俺が得て以来、俺とアルフレッドの間に大きな差が生まれた。魔法の才能そのものは俺と彼の間にそこまでの違いはない。


 あるとすれば、それは精神性の差。転生者である俺は、純粋な十代の青少年であるアルフレッドよりも冷静に物事へ対処できて……それゆえに、精神性が大きくかかわる魔法の制御が上手かったというそれだけにすぎない。


 でも、その差だけが俺とアルフレッドを決定的に別れさせた。


 俺が魔導一種を得て、さらに猟兵としても活躍する傍らで、俺と比べられたアルフレッドは追い詰められていく。


 特にあたりが強かったのは彼の両親だ。


 もともと俺の家に対してある種の劣等感を抱いていたウェアフリード家は、俺と同じぐらいの才能があると思っていた自身の息子に大きな──大きすぎる期待をかけた。


 感情の制御もままならない十代の少年に、過大な精神的負荷をかければ、当然精神の均衡は崩れてしまう。


 それは魔法の才能では決して俺に負けないアルフレッドをして彼自身の魔法力を不安定にさせ、あとから受けた魔導一種の試験に何度も落ちるという結果を生み出した。


 試験に落ちて、身の丈を知るのならば、それでいい。もともと時間をかけて魔法の訓練を積んでいけばいずれは受かるだけの才能がアルフレッドにはあったのだ。


 だが、貴族家門として過去の栄光に縋ったアルフレッドの両親はそれすらも許さず、落ちる息子を責め、さらに無茶な魔法の訓練を積むように要求。


 アルフレッドは自分の私生活すらも犠牲にして魔法の訓練に打ち込んだが、そんな無茶な訓練が功を奏するわけもなく。むしろ彼の才能を棄損する羽目に。


 追い詰められた彼は精神の均衡を崩していった。


 そんなアルフレッドに止めを刺したのが──俺だ。


『アルフレッド。実を言うとな、俺って転生者なんだ』


 俺はある日、無邪気にもそれを口にしてしまった。


 アルフレッドが追い詰められているなんて俺は知らなかったのだ。あるいは俺は俺と言う存在が周囲へどういう影響を与えるのかに無頓着だったともいえる。


 結果、俺は彼の保たれていた唯一の心の均衡を崩してしまった。


『転生者、だって……?』


『は、はは。なんだよ、それ』


『異世界から転生してきた? もとは大人だった? それってさあ、僕と根本的に違う存在だってこと?』


『つまり、それってズルってことだろ? 君はずっと僕を下に見ていたってわけだ! ずっとずっとずっと……‼』





『──この、!』





 それを最後に、彼と言葉を交わすことはなかった。


 次にアルフレッドと出会ったのは学校。


 親から奪い、その親を撃ち殺して、挙句学校の同級生達すら手にかけようとした銃乱射を引き起こそうとした犯罪者として、だ。


『やあ、卑怯者。君の大切なものをぶち壊しに来たよ‼』


 俺を差してそう告げたアルフレッドは自動小銃を構えた。家庭用ゆえに連射機能がないとはいえ、無力な少年少女に向けられれば、絶対にただでは済まないのは明らか。


 選択肢はなかった。


 だから俺はそれを選んだ。


『──え』


 魔法の防壁をアルフレッドの周囲に展開した。


 周辺へ、銃弾がばらまかれないため【防壁クレイドル】をアルフレッドの周囲全周から頭上にかけてまで展開し、覆う。


 次にしたのは電撃の魔法だ。


 警察官が暴徒を鎮圧するのにも使う低致死性の鎮圧用術式。


 俺の狙いとしては、それを撃ち放つことでアルフレッドを気絶させ、安全に確保することだった。そうすれば少なくとも命は助かると、そう思っていたのだ。


 結論から言うと、それは失敗する。


 俺が放った電撃を受け、アルフレッドは俺の意図したとおり気絶した。


 ただ、俺は焦りすぎていたのだ。本来なら、わざと銃弾を撃ち放たせ、弾倉を空にしてから電撃魔法を放つべきだった。俺の魔法力ならば、それができたはずなのに。


 それをしなかったから、だから、あいつを殺したのは、俺なんだ。


『──はは──』


 電撃魔法は正しくアルフレッドの体に直撃した。それは彼の意識を一瞬で奪うと同時に筋肉の収縮を引き起こし、引き金に賭けていた指を引き絞らせた。


 引かれた引き金は、正しくその機構を動作させ、内部に魔力を充填。銃弾の尻につけられた小型魔石を叩き、そこに宿った魔力を吸引して、銃身の中で事象改変を発生させる。


 結果、弾丸は加速され、無数の弾丸が無差別に撃ち放たれた。その大部分は俺が展開した【防壁】に吸収され、その運動力を失うこととなったが。


 だが気絶したことで倒れこんでいたアルフレッドの腕はさがり、銃口は地面を向く。


 跳弾。


 俺が【防壁】を展開させていたなかった地面へ向かって銃弾が放たれたことにより、銃弾はその運動力を失うことなく、跳ね返り、倒れこむアルフレッドに牙をむいた。


『あ──あ』


 出血多量。内蔵機能の大半の喪失。アルフレッドは腹部を容赦なく抉られ、誰が見てもわかるほどの致命傷だ。


 手遅れだった。もはや病院に連れて行く時間すらない。


『人殺し』


 その言葉を最後に、アルフレッドが──俺の、親友だった少年が死んだ。


 ここで、不運だったのは、アルフレッドに呪術への高い適性があったことだろう。


 あるいは、だからこそというべきか。アルフレッドが正しく才能を発揮できなかったのは、彼自身の適性に資する魔法を知らなかった故なのかもしれない。


 だけど、彼はそのことへ最後に気づけた。だから、彼は──





 ──俺へ【呪い】をかけることができた。





     ☆





「だから俺は■■■なんだ」


 飲食店の席に座りながら、俺は遠くを見やる。


 窓の外では夕日が落ちていた。黄昏時。もう間もなく夜の時間だ。


「興味深い話ね。聞いていて面白かったわ」


 目の前からかけられる声。見やればそこには十代半ばの見た目をした少女が座っていた。


 ユキナによく似た銀色の髪を結びもせず腰元まで伸ばし、その下でどこか超然とした表情を浮かべるその少女の姿をした


 それを俺は静かに見やる。


「……シエラ・ユリフィスさんでしたっけ?」


「シエラでいいわよ。あなたに敬われるような存在じゃないわ」


 さらりとそう言ってくるシエラに、しかし俺は皮肉を込めた笑みを浮かべた。


「ご冗談を。そんな態度はとれませんよ」


 俺のその言葉に、しかしシエラは余裕の笑みで、


「そんな怖い顔をしないで、今日はちょっとお話をしに来ただけなの。ハル・アリエル君」


 それとも、


「マグヌス・レインフォードと、そう呼んだほうがいいかしら?」


 シエラの言葉に俺は目を細めた。










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