第23話 寝床

 

「お風呂気持ちいいね!」

「うん」


 たぶん顔が赤くなっている。その紅潮を隠すのが大変だ。いくらタオルを巻いてるとはいえ、奈由香とのお風呂だ。照れない方がおかしい。


「雄太もっとしっかり浸かってよ」


 そうは言われても、これ以上沈んだら奈由香の足に俺の足が当たってしまうんだよ。流石に男女だ。無視することはできない。


「うぅ」

「もしかして、私の足が当たるのを気にしてるってこと?」

「まあそれはありますけど」

「べうに大丈夫だってほら」


 と、奈由香は足を俺の足に当てた。


「やめてください!」


 まあ、嫌じゃないけど。なんか恥ずかしい。


「えー、いいじゃん」

「恥ずかしい」


 足が当たるたびにドキドキする。奈由香の足は柔らかくて、いい触感だ、だが、そんなことを考えてしまっては、ただの変態だ。何とか雑念を取り払わなければ、


「あー雄太おちょくるの楽しい」

「まさかおちょくるためにおふろ一緒に入ったなんてことは……」

「流石にないわよ!」


 流石になかった。


「でも、楽しいなあ。雄太が男じゃなかったら、もっと大胆なことが出来るのに」

「例えば?」

「胸もますとか?」

「女子同士でもやらないでしょ。知らないですけど!」


 大胆のレベルが違う気がする。更衣室とかでやってるのかもしれないけど、少なくとも俺はそんな光景見たことがない。


「でもたまにやってる子いるよ。私はやったことないけど」

「ないのかよ!」

「あ、でも、そうだ! 雄太性転換してくれない?」

「どういうことですか!?」

「性転換と言うのは。手術を受けるってことだよ」

「知ってますよそれは」


 それを言った意図が気になるんだよ!


「そしたら雄太も女になれるじゃん」

「心は別ですけどねえ」

「ふふ」


 そんなことを話していたらあっという間に時間がたった。と言うかだいぶのぼせてきた。


「それにしても。雄太だいぶ気にしなくなってきたじゃん」

「そうだな」


 もう奈由香の足と完全に接触している。だが、もうだいぶ慣れたようでもうテレは感じない。いやまあまだ感じていたらおかしいのだが。


「雄太はさあ。私のことどうなの?」

「え?」


 予想外の質問が来た。



「それってどういう意味なんだ?」


 とりあえず聞き返す。時間が欲しいし、そもそも質問の意味が友達としてなのか分からないし。


「友達としてってのもあるし、もしかしたら異性としての質問かもしれない」


 ますます分からない。


「えっと」


 分からないけど言うんだ。異性として好きだって。


「好きです……」


 あともう一声だ。頑張れ俺。


「どっちで?」


 いうんだ……言うんだ。異性としてと言うんだ!


「友達として」


 逃げてしまった。好きですって言えたのに辛すぎる。勇気よどこに行ったんだ。


「そう、私も好き!」


 それはどっちの意味なんだろう。だけどとりあえず……


「くっつきに行かないでくださいよ! 今ほぼ裸なんですよ!」


 このまま抱きつかれたら胸が当たってしまう。そしたら今度こそ平常ではいられない。


「えー、ケチなんだから」

「どっちがですか!?」


 そしてそのままお風呂を上がった。だが、まだ後悔の念が残っている。


 友達としてを付け加えてしまったことだ。


 異性として好きと言えばそれで終わる話なのにだ(受け入れてもらえるかどうかは分からないが)


「雄太。ありがとうね」

「え?」

「雄太とのお風呂楽しかったから」

「そういう事ですか」

「一緒に入るって言った後に、あれ、異性だから断られるかもって思ったんだ。受け入れてもらえてよかった」

「それにしては積極的だった気がしますけどね」

「雄太がなかなか肩まででつからないからさ」


「さてと、これからどうする?」


 と、奈由香が言った。


「私としてはもう夜遅いから寝ころびながら何かやるとかでいいと思うんだけど」

「俺もそれでいいと思います」

「じゃあ決定?」

「私もそれでいいと思うわ。絵里は?」

「うん」

「じゃあねましょう!」


 とは言ったものの、布団が用意できてないから、布団を敷くこととなった。


「雄太は私の隣ね!」

「そう言えば俺ここで寝てもいいんですか? 別の部屋に行った方がいいとかは……」


 女子三対男子一はなんとなくまずい。


「なんで? もう一緒にお風呂入ってる時点ででしょ。それにそう言うってもしかして私を襲おうとしてるの?」

「するわけないじゃないですか!?」

「へー私って魅力ないんだ」

「え? ちょ」


 それに対して奈由香はごめんと言うジェスチャーをした。


「もう。やっぱり今日すごく異性ネタをぶっこんできますよね」

「そうよ奈由香。普段そう言うこと言わないじゃない」


 麗華が俺の話に乗っかってきた。


「そうは言われても、お泊り会だよ。そう言うの言わなきゃ損じゃん」

「奈由香……」

「え、ちょっと麗華? 幻滅しないで!」

「……」

「れいかー!」


 微笑ましい光景だな。


「私はそういうネタしても大丈夫よ」


 ……そんな中下村さんが奈由香にそう言った。


「そういう問題じゃない気がするんだけど」

「でも絵里はさ、男じゃないじゃん。だからそういう話できなくない?」

「奈由香、だったら私……男だったら良いの?」

「でも男にはならないじゃん」

「……」


 あれ、気まずい空気?


「大丈夫や、絵里には絵里の良いところがあるから。それに女じゃなかったら、ハグも気軽にはできないでしょ」

「……うん!」


 良かった丸く治ったようだ。でも奈由香普通に俺に抱きついてた気がするんだけど。まあ、うん。別に良いか。


「じゃあ寝転びましょ!」


 そして俺たちは寝転ぶ。


「あ、でもただ寝転ぶのはつまらないよね。小説よも!」

「えー!」


 と、麗華が奈由香の提案に断りを入れた。


「なんでよ!」

「だって小説って言っても所詮ラノベでしょ、それに面白くないじゃん。別のやつやろうよ。それか二人で読んでよ」


 ものすごい剣幕で断っている。そこまで小説を読むのが嫌なのか。


「えーじゃあアニメ?」

「そっちの方がいい」

「わかった。今は小説の気分なんだけどなあ」


 と、奈由香はテレビのリモコンをオンにした。


「今日は四番広川のサヨナラタイムリーで……」


 と、ニュースの内容を碌に聞かないで録画の画面を押した。


「どれがいい?」


 そこには多種多様なアニメがあった。


「これとかは?」


 それはラブコメだった。タイトルには「君とみる花火は一人で見るより美しい」というタイトルだった。


「ラブコメ? バトル物のほうがよくない?」


 麗華が苦言を言う。


「でも、ラブコメも結構いいわよ。見てて楽しいし」

「まあそれはわかるけど。私だって人のイチャイチャ見るの楽しいし。でも、なんかアニメのラブコメって作られているって感じがするんだよね。こう、都合よすぎ! ていう感じがして」

「そうかなあ。別に都合いいのは創作の中だしいいんじゃない? それにそんなこと言ったらバトル物のアニメだって、都合のいい絆の力とかで勝つじゃん。まあ私は別にどっちも好きだけど」


 なんか論争が始まっている。俺はどうすれば……


「私はラブコメも好きだよ」


 下村さんが奈由香の味方をした。


「絵里は私の味方だもんね。じゃあこれで雄太が加わればこっちの勝ちか」

「別に雄太がラブコメが好きって決まったわけじゃないでしょ」

「じゃあ雄太決めて!」


 決定権は俺にわたったようだ。どうしよう。別に俺にはこだわりなんてないんだけど。


「うーん」


 考えていると二人とも俺を見てくる。どっち選んでも敵が出来ちゃうじゃん。


「まあラブコメで」


 奈由香の期待は裏切れない。


「えー雄太なんでよ!」

「ごめん麗華」


 素直に謝っておく。


「雄太……謝られたら素直に責められないんだけど」

「じゃあ責めないでくださいね」


 とりあえずこの場は……丸く収まったかな。


「じゃあ早速見ましょうか」


 と、物語が始まった。

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