契約結婚生活が幸せすぎて毎日夫に感謝していたら夫からプロポーズされました

黒猫かりん@「訳あり伯爵様」コミカライズ

第1話 わたしたち、契約結婚しました





 妻はマリー。

 平均より少し高い背丈、そこそこの顔立ち、ミルクティー色の髪に蜂蜜色の瞳の教師である。


 夫はケビン。

 男性としてはそこそこの背丈に、そこそこの顔立ち、金髪碧眼の宮廷官僚である。


 初めて会ったのは朝の河原ジョギングのとき。

 当時マリーは29歳、ケビンは33歳であった。

 仕事が楽しくて仕方がないお年頃である。


 二人は半年ほど毎朝会釈し、そのうちにたまにベンチで話をする仲になった。


「ほう、教師をされている。素敵なお仕事です」

「ありがとうございます。ケビン様は宮廷官僚でしたか。すごいですね」

「いえいえ。ほんの少し事務が得意なだけなんですよ」


 平民のマリーと、伯爵家の出だが三男のため爵位を持たず、やはり平民のケビン。


 二人は話をするうちに惹かれあって――とは、ならなかった。


「おはようございます、ケビンさん」

「おはようございます、マリーさん」


 挨拶をし、たまにベンチに座って茶飲み話をする二人の関係は、ただの友人のままだった。

 しかもその状態が、なんと5年間(!)続いたのだ。



 マリーが34歳、ケビンが38歳になったある日。

 ケビンはマリーに初めて愚痴を言った。


「実は、親が結婚しろとうるさくて」

「あらまあ、私もです」

「奇遇ですね」


 二人は、結婚に関する悩みを吐き出した。

 朝のジョギング仲間という気軽さ。職場や結婚した友人には言いづらい悩みを、思う存分吐露した。

 吐き出してみると、面白いことに、悩みの種は同じところにあった。


「どうやったら彼氏ってできるんですか?」

「人を好きになるってなんなんでしょうね」


 そんな二人は、お互いの発言に「分かる分かる」と共感しながら、ふと、思った。


((この人と形だけでも結婚してしまえば、楽になるのでは……))


「あの……」

「その……」


 同時に話し始めた二人は、お互いにどうぞどうぞと譲り合い、なんとかマリーが「契約結婚」と呟いたところで、ケビンが「乗った!」と食いついた。


 そして二人は結婚した。


 式は挙げずに花嫁衣装の写真だけ撮った。

 もちろん白い結婚だ。


 ケビンが38歳、マリーが34歳の春の出来事である。



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