第47話:ドラゴン④

 彩は少女と別れて優香との合流地点に向けて移動する。何か信号を発しているチームがあれば寄るつもりだが、特に見つからない。


 少し離れたところでは電気だの炎だの激しい見た目の魔法が空に向けて放たれたり、もしくは空から炎を吐かれたりしている。遠くでは機関銃のような銃声も鳴り響く。


 そして件のドラゴンと言えば、山の中腹に鎮座しており、気だるそうにしながらも時折炎を吐いている。

 その余波は街にまで流れていて、時たま流れ弾のように横の通りを炎の濁流が通っていく。


「暑いわね……」


 燃えている建物が多く、初夏というのも相まってかなり暑い。


 考えたくなくて無視していたが、辺り一帯は火事どころじゃなく燃えている。


 こんなこの世の終わりのような光景は異世界でも見たことがない。建物の中じゃなくても窒息しそうだ。


 合流地点に近づいていくと、思ったより手前で無線に感があった。


『彩さん、聞こえますか?』


 少しノイズが混じっているが、十分聞き分けできる程度だ。


「聞こえるわよ、どうぞ」


『合流地点が燃えていたり潰れていたりしたのでその手前にいます。グリッドE3にいます』


 彩は急いで地図を確認する。最初に予定していた合流地点より手前だ。方向は一緒だから、修正の必要はなさそうだ。


「こっちは……F5にいるわ。そっちから見えるんじゃない?」


 ここはもう市街地の端っこで、背の低い住宅しかない。そして向こうは山の手前側で少し高い位置にいるので見えるかもしれない。


『んーっと……あれ、かなぁ? 見えますか?』


 そういうと山の入り口からチラチラと光の反射が見える。カノープスと同じ手だ。


「見えてるわ。じゃあそこに向かえばいいのね、愛しのお姫様」


*****


 優香と彩が合流した地点は、森の手前と言ったところで、名も知らない草が生い茂っていたが木々は少なかった。


「お疲れ様です。首尾はどうでしたか?」

「お疲れ。治癒魔法一回使ったけど、まだいける。あんたのおかげで、一人救えたのはよかったわ」


 優香は頷いた。


「よかったです……こちらは避難救助にまわっていたチームの撤退に、カノープス3についてもらいました」


 今更ながらに咲希がいないことに気づく。


「なるほど……じゃあこれからはチーム・サンドグラスの出番ってわけね。……で、どんな策があるの?」


 優香はここまで、あのドラゴンを倒す前提で話していた。だから優香に何か考えがあるのだろうと、当然彩は思っていた。


「……すみません。わかりません。ただ、どうにかしないといけないので、まずはどうにかして近づきます」

「策、ない。了解。マジか」


 兎にも角にも、近づかないといけない。どのみち、策があっても近づいてどうにかする類になるはずなので、当面のやることは変わらない。


 優香は改めて、地形を把握するように山とドラゴンを見渡す。


 ドラゴンとの距離は1キロから2キロの間程度。


 山は大きく燃えているが、要所要所の木々を自衛隊が砲撃して薙ぎ倒したおかげで、燃え移りはある程度抑えられている。


 おそらく感応系の能力者が人の有無を確かめてから砲撃しているのだろう。


 そうじゃないと流石にここまで大胆な砲撃はできない。だから、山に近づいたら自衛隊の砲撃を喰らいました、という事態はないと考える。


 ドラゴンに接近するにはどうするべきか考える。1キロを二人だけで接近している時にワイバーンに見つかりたくない。


 ワイバーンは倒せてもドラゴンの気を引いたら終わりだ。


 街中ならたかが1キロだが、ここは山で森だ。足場が悪すぎる。


「幸い——と言っていいかわからないけど、正面チームはかなり気を引いてくれてるわね」


 ドラゴンを見ると、正面からやってくる委員会の混成チームを鬱陶しく感じているのか、そちらの方向に度々炎を吐いている。


 その度に防御魔法のような壁が2、3現れて炎を弾く。チームは少しずつ近づいているようだが、上から襲ってくる大量のワイバーンにも手を取られて進みは遅い。ジリ貧になっている。


「優香があたしを抱えて跳んでさっさと移動するってのはどう?」


 彩が提案する。優香はサイコキネシスを使えるので、自分を跳ばすこともできる。


「うーーーん…………それでいいならそれでいいですけど……」

「どういう意味よ?」

「いえ……」


 よく意味がわからない彩だったが、抱えられて跳ぶことに特に思うところはなかった。


 彩が所属するスノードロップで言えば、彩以外の全員が魔法にしろ超能力にしろ筋肉にしろ、跳躍することができる。


 スノードロップ1くるみスノードロップ3真希のどちらかに抱えられて跳ぶことが多いが、どちらにせよ問題が起きたことはない。


 まぁ抱っこされるので体が触れ合うとか、顔の距離が近いとか、概算の体重がバレるとかそう言った気恥ずかしさがないわけでもないが、命を張る現場でそんな乙女心を発揮するわけにもいかない。


 どうしてそんなに気にするのかと彩は考えたが、そういう体の触れ合いを気にするタイプなのかと納得した。優香はそういうのが苦手そうではある。


「まぁ……彩さんがいいなら跳びましょう。あの正面チームがどれだけ保つかもわかりませんし……」


 実際のところ、優香が体の触れ合いが苦手という考察は間違っていない。パーソナルスペースがかなり広いタイプだ。


 しかし優香が渋った理由に関しては彩は間違っていた。その理由を身をもって知ることになる。

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