第10話 例の美少女
3時間目終了後の休み時間。3時間目は数学であり、特に目立つことはなかった。
数学は大貴の大の苦手科目なため、活躍する場が皆無だった。
今は適当にラノベでも借りようと思い、図書室に向かう途中だ。
「ちょっといい? 確か多月君だよね? 」
もう少しで図書室に着きそうな所で、後ろから声を掛けられる。
「確かに多月は俺だけど? 」
自身の顔を指差しながら、大貴は振り返る。
そこには体育の前に教室の鍵を渡してくれた美少女が立っていた。
黒髪ボブヘアに紺色の瞳、女子にしては高い身長に豊満な胸が特徴的だ。
彼女の名前は中山美桜。学年でもトップレベルで人気な女子だ。非常に男子から人気が高く、何度も告白を受けている。噂だとサッカー部のエースのイケメンや野球部のエースなどからも告白を受けたらしい。だが、なぜか全てを断っているらしい。
「良かった。間違ってなかったんだ」
ほっと、美桜は安堵したような息を吐く。大貴の名字が合っているか不安だったのだろう。
「用件を聞く前に。ここで話すのも何だから、図書室の中で話さない? 」
図書室の入り口を指差し、大貴は場所の移動の提案をする。
「多月君が、そっちの方がいいなら」
特に拒否感を示さない美桜。用件が満たせるなら場所は選ばないようだ。
「俺としても、そっちの方が助かるかな。図書室で適当に本を借りる予定だし。…ほら休み時間もあまり長くないからさ。早く行かない? 」
大貴が歩を進める直後に、美桜も反応して後を追う。大貴の後に、美桜が図書室に入室する。
大貴が適当にイスに座り、美桜は大貴に向かい合う形で座る。2人の間には机が有る形だ。
「借りたい本が有るんでしょ? 先に探さなくていいの? 」
「う~ん。まあ、図書室を出る直前でもいいかな。その前に君からの用件が気になるから」
「そう…。あ、ごめんね。自己紹介がまだだったね。私は中山美桜。一応、多月君とは同じクラスだよ」
「うん。それは知ってる。正直言うと名前までは知らなかったけど」
「え? 私のこと知らなかったの? 」
両目を大きく見開く美桜。顔には驚きが走る。
「いや、顔は知ってたよ。でも名前までは知らなかったよ」
嘘を付かず、大貴は正直に答える。
「…そう。…そうなんだ。そんな人も同級生に居るんだ」
最後の方は非常に小さく、大貴は聞き取れなかった。ボソボソと美桜が呟いたことしか分からなかった。
「それで? 用件は何かな? 」
このままでは話が進まないと感じ、大貴は美桜に催促する。休み時間も限られているのだ。
また、授業に遅刻でもしたら、悪い意味で目立ってしまう。そうすれば、陽キャに再び目を付けられる可能性が有る。それは避けたい。
「あ、そうだった! いきなりなんだけど。私にバスケを教えてくれないかな? 」
真剣な目で大貴を見つめる美桜。
「ちょっと待ってね。…。まず聞きたいことが有るんだけど。どうして俺なの? 俺はバスケ部に所属していない帰宅部だよ? 」
「それは…。今日の1時間目の体育で多月君がすごかったから」
美桜は大貴から目を逸らす。
「それなら田嶋君もすごかったと思うよ。彼はバスケ部のエースでも有るし」
大貴は当然の疑問を口にする。帰宅部の大貴にバスケを教わりたい理由が不明だ。
「田嶋君は能力任せのプレイに感じたから。教えて貰って私には正直効果が無いと思ったから。私、すごい運動音痴だから。逆に多月君は運動神経に頼った感じのプレイだと思わなかったから」
大貴の疑問に、美桜は理由を添えて説明する。
(なるほどね。確かに俺のプレイは能力に頼ってないわな。運動神経が優れているようには映らなかったわけか)
胸中で1人で納得する。
「陰でクラスメイトの女子達から運動神経が悪くてバカにされてるの。それが悔しいの。周囲の私に対する評価を変えたい! だから、お願い!! 多月君!!! 」
両手を合わせながら、美桜は軽く頭を下げる。表情や行動から真剣さがひしひしと伝わる。
「う~~ん」
腕を組み、美桜の要望に即座に答えられず、大貴は頭を悩ませた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます