第5話 体育の内容がまさかの……

 あの後、朝食を食べ、学校の準備を済ませ、大貴は愛李と一緒に学校に登校した。


 愛李の通う地元の県立中学の方が大貴の通う松下高校よりも自宅から近いため、2人は途中で別れる形となる。


 愛李と別れから5分ほど進むと、松下高校の正門が見えて来る。松下高校は県でも中堅レベルの進学校だ。一応、偏差値は50を超えている。だが、入学してから勉強を頑張る生徒が一部なため、国立進学数はあまり高くない。


「高校も卒業して以来だな。超久しぶりに学校内に足を踏み入れるよ」


 感動すら覚えながら、大貴は松下高校の正門に差し掛かる。


 そのまま脳内に残る記憶を辿りながら、大貴は昇降口に到着する。


 昇降口には、大貴と同じ制服を着た生徒達が、靴箱を開けては上靴に履き替えていた。その作業を終えると、生徒達は皆が同じように廊下を進む。

「そうだったな。校舎内では上靴を履く決まりがあったな。しかも真っ白の。小学生かよみたいな」


 今まで忘れていた情報を入手し、自然と不満のようなツッコミを口にし、大貴は昇降口の靴箱を開け、白を基調としたスニーカーから上靴に履き替える。


 そのまま昇降口に身を置く生徒達と同じように、大貴は廊下を進み、1階の男子更衣室に向かう。1時間目の授業は体育なため、敢えて教室には行かない。


 引き戸を開き男子更衣室に入室すると、何人かの男子生徒達が制服から体操服に着替えていた。ほとんどの男子生徒達は雑談しながら、既に体操服に着替え終わっていた。


 一方、大貴は特に周囲を気にした様子も無く、空いてるロッカーの近くの床にリュックサックを置き、中から体操服のシャツとズボンを取り出す。


リュックサックを直し、空いてるロッカーに適当に仕舞う。


 そして、テキパキとブレザーやカッターシャツといった制服を脱ぎ、すべて丁寧に畳む。その後、制服に皺が寄らないように、綺麗にロッカーに仕舞う。


(高校時代の体操服か。懐かしいな。本当に遊び心の無い体操服だったよな)


 白基調の体操服のシャツと青の短パンを素早く身体を通し、大貴は着替えを終える。


(体育の授業の場所は何処なんだろう? 運動場か、それとも体育館かな? )


 本日タイムスリップしたため、大貴は体育の授業の内容を把握していない。前回の授業で何をしたかを知らないのだ。


 少し困っていると、着替えを終えた仲良さげに雑談する3人の男子生徒達が、体育館シューズの袋を背中に背負いながら更衣室の出口に向かう素振りを見せる。


(なるほど。体育館だな)


 体育の授業が体育館で行われることを確信し、男子更衣室を退出してから直接体育館に向かわず、大貴は近くの階段を利用する。体育館シューズを所属するクラスの教室に取りに行くためだ。


「え~と。俺が高校2年生の頃のクラスは確か2年5組だったはず」


 自身の持つ記憶を辿りながら、大貴は2階に到着する。


 2階の階段のすぐ近所に2年5組の教室は有った。


 1人の女子生徒が教室の鍵を閉めようとする最中だった。


 その女子生徒は肩に掛かるほどの黒髪モブヘアに紺色の瞳をした美少女であった。何処か見た覚えのある女子生徒であった。


「ごめん! ちょっと教室に忘れ物しちゃったから、鍵を貸してもらっていいかな? 」


 申し訳なさそうに、大貴は両手を合わせて軽く謝る。


「いいよ。私の代わりにカギ閉めはお願いね」


 快い態度で大貴に接し、ニコッと笑みを浮かべてから、美少女はカギを手渡す。


「ありがとう」


 しっかりお礼を伝え、大貴は教室の戸を引いて入る。


 自身のロッカーの場所まで足を運び、大貴は長い紐付きの袋を手に取る。袋を開封し、体育館シューズが入っていることを確認し、再び閉じる。


「よし。後は体育館に向かうだけだな」


 教室を退出し、大貴はカギを施錠する。


 施錠できてることを確かめてから、大貴は駆け足で体育館に向けて移動した。


 しばらく足を動かすと、正門近くに居を構える体育館に辿り着く。


既に多くの男女の生徒達が、体育館に居た。多くの男女の生徒達が、授業が始まるまでの時間を潰すように、雑談を楽しんでいた。


 そんな生徒達の声で騒がしい体育館に、上靴から体育館シューズに履き替えて、大貴が館内に足を踏み入れる。


 館内に入ったことで、中の様子がより鮮明に認識できる。


 体育館内には男女に生徒意外にも、カゴに入ったビブスが有った。その上、多くのバスケットボールの入ったボールかごも有った。


「まさかのバスケか…」


 嫌そうに目を細め、大貴はため息を吐くようにボソッと呟いた。


 そう大貴にはバスケで良いイメージが無かった。中学時代はバスケ部だったが、3年間ベンチ入りすら叶わなかったのだから。

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