第33話 水回り掃除の達人 その7後編
ボボボンボ ボンボボ キキキキュボキュボキュ ボンボンボン ボボボボンキュキュキュキュキュッキュッ ボボボキュボキュキュキュ……
すごい。
いつまでもミスなく叩き続けるトー。
トーの手元は【バチツチ】の"バチ"モードと"ツチ"モードが目まぐるしく入れ替わっている。多分だけど。
凄まじい速度で振っていて、僕の目には"ツチ"モードしか見えないのだが、なんとなくチラチラと"ツチ"が消えてる気がする。知らんけど。
赤と青のスライム達の飛翔も間断なく、続いている。その飛びかかってくる〈フテイケイ〉を受け止めるトーの肉体の美しさが映える。
どっしりと構えられた下半身。躍動する上半身。上腕の筋肉が引き絞られ、放たれる。それを高速で繰り返し、動作の度に汗が飛び散り、光る。
途中から〈不の付く災〉退治ではなく、さながらトーのソロ演奏会の様相を呈してきた。その見事な音とリズムに聞き入ってしまう。
トーも楽しくなっているのか、口もとには笑みを浮かべている。あれだけ叩ければそりゃあ楽しいだろうなあ。
そこに切羽詰まった、でもちょっと情けない声が響いた。
「アカン、忙し過ぎるで」
「にいちゃん、なんとか頑張ろや」
ゴシンとユタン二人の"スライム排出係"が音を上げそうになる。聞き惚れていて正直忘れてた。
「ごめんごめん手伝うよ」
四人がかりでトーの刻むリズムに合わせてスライムを筒に送る。こっちも楽しくなってきたぞ。
ボボボボンキュキュキュキュキュッキュッ ボボボキュボキュキュキュ……
「エイサホイサエイサホイサ」
「掛け声がおっさんくさくない?」
「HEY,YO HEY,YO」
「その若者感もどうかと思うよ」
ありゃ前世の年齢が出てしまったか。
そうして、長い、長い間スライム達の〈不化〉を解き続けていき…… ついに、筒から出なくなった。
「ハアッ、ハアッ、やっと、終わり、かなあ?」
「ハッ、フウ。いや、まだのようだ」
流入口の奥から、ギュム、ギュムとゴムがこすれるような音が響いて来ている。そして、筒が揺れ始め…… これまでの〈不定形〉より一回り大きい赤いスライムが飛び出してきた。
高く跳んだそいつはトーの頭を越えて、僕たちの方に来そうになる。
「うわわっ」
「させない!」
トーが跳躍し、下からそいつを狙う。勢いよく迫り、両手とも"ツチ"モードにした【バチツチ】をアイスホッケーのシュート前のように体の斜め後ろ方向に構える。
「『
ここは地下だが、月に向かって打つように、上昇しながら下からハンマーを振り抜いた。赤いスライムが二つの打撃面で捉えられ…… ボォン! という音と共に花火のように合体前の透明スライムをまき散らした。
そのままトーは地面に降り立つ。ブンと【バチツチ】を振ってつぶやいた。
「完璧だ」
その時、どこからともなく紙吹雪のような光が舞い、ファンファーレが鳴り響いた。え? なに、なに?
そして空中に筆文字が浮かび上がる。あ、これドレサースエフェクトか。
『
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