第31話 水回り掃除の達人 その7前編

 しょうもないコントをしていたが、僕達とスライム達を隔てている『円柱ピラー』の壁がミシッミシッと音を立てた。


 全員目を合わせる。ヤバい、思ったよりも時間がないかも。


「じゃあいくよ!」


 流入口を塞いでいる《枠》の隙間から赤いスライムが見える。この蓋を取れば勢いよく飛び出してくることは確実だ。


「3,2,1,0!」


 ブルルルルルと赤いスライムを先頭に五匹ほどが飛び出し、放物線を描いてトーに向かっていく。まずはこれくらいの数でいったんスライムの連なりを切る。事前の打ち合わせどおりにすかさずオリカが風を放つ。


「『ウインドブロウ』」


 筒の中へ向けて風を吹き付け、スライムの流入を防ぎとめる。そして僕が再び《枠》を重ねて接合して蓋をする。


 トーを目掛けて飛んでいる五匹のスライムたちは先頭から赤、青、青、赤、青の順番だ。


「ハアッ!!」


 トーは【バチツチ】のうち右手を対青用の“バチ”に左手を対赤用の“ツチ”にして、迎え撃つ。


 赤 、青 、青 、赤 、青。

 打 、打 、打 、打 、打。

 ボン、キュ、キュ、ボン、キュ。


 トーが両手をふるい、合体スライムたちを打ち付けると、気持ちいい音を立てて透明で小さい合体前の個体に分けられた。おおー〈不可〉解除成功だ。


「やった! トーちゃんさすがっ!」


「ひとまず成功だ。だが時間がたっぷりあるわけではない。おかあさん、ヒデン、次を頼む!」


「「オッケー!」」


 初手がうまくいって、希望が出てきたので、自然と声も明るく大きくなる。だが、やはり油断はほどほどにすべきだった。


 もう一度、筒の蓋を取り払う。今度は青、青、青、赤、赤、赤、青 、赤 、青 、赤と続けて出てくる。


「オリカ! 出しすぎじゃない?!」


「それが、さっきより勢いが強くって、『ウインドブロウ』! 風を打ってるのに止められないの! この~、おりゃあ!! 『ウインドブロウ』!」


 オリカが気合を入れて技を放つと、ここでようやく風で押しとどめることに成功した。急いで《枠》の蓋を作る。


「はあっ、はあっ。やばい。しんどい」


 まだ序盤だというのに余裕がなくなっている。


「トー! 今回数が多いよ!」


「問題ない! ハアッ!」


 青 、青 、青 、赤 、赤 、赤 、青 、赤 、青 、赤 、赤 、赤 、青。

 打 、打 、打 、打 、打 、打 、打 、打 、打 、打 、打 、打 、打。

 キュ、キュ、キュ、ボン、ボン、ボン、キュ、ボン、キュ、ボン、ボン、ボン、キュ。


 トーは、目まぐるしく変わる色の順番を見極め、正確に打ち付けていく。最初の三つ青色が続くところなどは、間隔が非常に短かった。


 それに対して、右右右の三連打ではなく、左手の”ツチ”を”バチ”に変えて、右、左、右を叩きこむことで対応していた。すげー。


「次を頼む!」


「今度はヤバイかも。止められなかったらごめんね」


「何とかする! おかあさん、ヒデン、私を信じろ! こい!」


 両手を広げ、トーが吠える。


「分かった! 信じる。いくぞ! 『消去イレース』」


 ブルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル。次々とガトリングガンの弾のように連続してスライムが射出される。


「『ウインドブロウ』! ごめん。駄目だ。止まらない……」


「それでもできるだけ打ち続けよう! 勢いだけでも緩められれば……」


 少しでも速度を抑えようとして、僕も手でスライムたちに触りながら、オリカに声をかける。


「それもそうね。頑張る!」


 オリカがやる気を取り戻した。これでいい、僕も最善を尽くして頑張れるだけ頑張ろう。後は彼女が頼りだ。僕とオリカが叫ぶ。


「「トー!」ちゃん!」


「フウウウ、ハッ!」


 【バチツチ】を振りかぶるトー。連続で飛び行くスライム。水路の日常を取り戻すための大奮戦が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る