第24話 なろうワークでの出会い その2

「それで見てもらいたい依頼はこの辺のやつなんだけど〜」


 ホリィが大きなファイルを開いて、いくつかの依頼を示した。SDGsのみんなで覗き込み内容を確認する。


「急ぎのやつはないんだね。じゃあいつも通り"不対免許"が必要な、この"地下水路掃除人になろう"と"麦収穫人になろう"は請け負うよ。後はその日その日で」


 二つの依頼は文字にすると"(不)地下水路掃除人になろう"と"(不)麦収穫人になろう"と書いてある。頭にある"(不)"は"不対免許"が必要なことを表しているのだろう。


「それで十分だよ。助かるー。ありがとうねっ」


「どういたしまして。私達も家を買うためには稼がないといけないからね、いろいろ依頼見せてよ。そうだ! 依頼と言えばヒカグチ村の依頼で〈不束者フツツカモノ〉に会ったんだ」


「ええっ?! 大丈夫だった?! どんなヤツだった? 討伐隊必要?! 詳しく聞かせて!」


 さっきまで和気あいあいとした感じだったのに、ホリィさんが急に慌て出したぞ。やっぱり〈不束者フツツカモノ〉が出るってのは大変なことなんだな。


「大丈夫、ヒデンでんの能力でもう倒したよ。どんなヤツだったかって言うと、"火を吹く、背の高さが十メートルある大きな鳥"だね。ヒデンでん、〈不要品〉持ってる?」


「ああ、あるよ………… これだ」


 カバンから"不燃物"と書かれた赤い珠を出した。普段は何個もの《枠》で包んでカバンの中に入れてある。その《枠》を消して取り出した。


「おおー。さっきから驚かされてばかりだ。すごいね。この大きさなら討伐に対する報酬も出せるよ。報告書を書くから話を聞かせてもらってもいい?」


「いいよー。ただ他に〈不束者フツツカモノ〉を見た人はいないと思うから、証明は出来ないよ?」


「それなら、この〈不要品〉をしばらく預からせてもらえる? これを見せて報告すれば納得してもらえると思う。拾ったり、盗んだりしたんじゃないかと言う人もいるかもしれないけど、SDGsの名前を出せば大丈夫でしょ。〈不要品〉は報酬を支払う時に返すよ」


「うん。それでいいよ。よろしくね」


 その時、こちらに向かって大きな声が響いた。


「おいおい、"スーパーダイナマイトガールズ"じゃんか。久しぶりだな。元気にしてたのかあ?」


 真っ赤な髪をした、見るからに男勝りな女性が大股で近づいてくる。


 はっきりとした太めの眉、やや釣り上がった力のある目、喋ると大きく開く口。この人もかなりの美人だ。


 肩よりも下に伸びたボリュームのある髪は、ところどころ炎が立ち上がるように上をむいており、その勝ち気そうな風貌をさらに際立たせている。


 だが、それ以上に目を引くのは"この人こそスーパーダイナマイトと形容されるのにふさわしい"と言ってしまいたくなるような体つきだ。いやもう、ぶりんぶりん。


 僕も男の子なので、ついその胸部に目がいってしまう。


 と、わき腹をツンとつつかれた。うひゃあ、弱いんだよそこ。思わず身をよじる。誰にやられたのかはわかっているがそちらは見ずに、近づいてくる人の顔に視線を移す。


「おお? 見ない顔だな」


「ふっふっふっ、仮入団中のヒデン君だよ。〈不束者〉を倒し、トーちゃんと引き分ける実力者。うちのチームもヒヒヒちゃんに負けないように、パワーアップしていかないと」


「ヒヒヒって呼ぶな! それより、こいつだ。お前がワタシに嘘をつくメリットはないし、本当に相当の実力者のようだな。知り合いになれてラッキーだ」


 そう言うと、僕の方に向き直った。


「初めまして、ヒズルヒス=ヒドルだ。聞いての通りこいつにはヒヒヒと呼ばれているがな。ソロワーカーでやっている」


 握手を求めてきたので、握り返す。ワイルドな風貌に似つかわしい、野性的だが蠱惑的なジャコウのような芳香が鼻をくすぐってきた。


「初めまして、ヒデン=オーツです。オリカにはヒデンでんって呼ばれてます」


「ワタシより、ましなあだ名だな」


「"ヒヒヒ"はさすがに同情します」


 そして、ヒズルヒスが机の上の"不燃物の珠"を見て、手に取った。


「コレがその倒した〈不束者〉の〈不要品〉か? 書いてあるのは "不燃物" か。ワタシの【フレイムワーク】でも燃やせないか試してみたかったところだな」


「【フレームワーク】? 同じ名前?」


「何が同じなんだ?」


「あっ、えーと」


 しまった。自分の偽装している《ドレス》名と同じ名前を聞いて反応しちゃったけど、能力の推察につながるかもしれないからごまかさないと、えーとえーと。


「その感じだと《ドレス》の名前が同じなのか? 同じような感性ってことだな、嬉しいねえ。そういうヤツは好ましい、ワタシと組まないか?」


 どう言おうか焦っているとオリカが間に入ってくれた。


「残念、ヒヒヒちゃん。今のはヒデンでんの聞き間違いだよ」


 聞き間違い?


「ヒヒヒちゃんの《ドレス》は【フレ"イ"ムワーク】でしょ? ヒデンでんのは違うよ」


 オリカが"イ"を強調してくれたので、事情がわかった。僕が"フレーム"と"フレイム"を聞き間違えたんだ。


「ほう? どう違うんだ?」


「それはちょっと教えられないなー」


「あん? 《ドレス》の名前くらいはいいだろ。能力は聞かねえよ。そんな誤魔化し方で納得すると思ってんのか?」


 ヒズルヒスとオリカが鋭い視線を交わす。視線の中央に火花が見えそうな、ただならぬ雰囲気だ。


 ふう、自分で蒔いた種だ、仕方がない。


「【フレームワーク】です」


「なんだって?」


「だから、僕の《ドレス》の名前、【フレームワーク】って言うんですよ」


「【フレイムワーク】? やっぱり同じじゃねえか! どういうことだよ!」


 こっちも聞き間違いしちゃってるよ! ややこしいな!


「いやいや、よく聞いてくださいね。ヒズルヒスさんのは【フレ"イ"ムワーク】で僕は【フレームワーク】なんです。炎の意味の"フレイム"とメガネのふちにあたる"フレーム"の違いです」


 おでこのメガネを外して、ヒズルヒスに見せながら説明する。


「お、おお。そうか。あー、それは分かった。 が……」


 ヒズルヒスは勘違いに気付いて、恥ずかしそうに頭をかく。


「どうやったらメガネで〈不束者〉を倒せるんだ?」


「それは企業秘密です」


「ケチ」


「可愛く言っても駄目です」


「チェッ、引っかかるヤツは、引っかかるんだがなあ。まあでも、《ドレス》の名前は似てるし、なんか気に入った。オリカに飽きたら声かけてくれよ」


「ヒヒヒちゃん?」


「おお、怖。取らねーよ。今日のところは久しぶりに見かけたから様子を見に来ただけだ。ここで退散するよ。じゃあな」


 そう言って振り返ると、ヒズルヒスは近づいてきた時と同じように大股で歩いて行ってしまった。


 新しい出会いは新しい冒険への序章になるかな? 楽しみだ。

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