第16話 仲間に誘われ次の町へ その1

 翌朝、ミマツ広場で大ミマツを囲っていた《枠》を消した。


 ちなみに《枠》の中に溜まった酸素のない空気はオリカの風を使って、吸わないようにコントロールしてもらった。


 焦げた場所については火種が残っていたら厄介なので、申し訳ないけど切らせてもらって、穴を掘って埋めた。


 ヒクイドリたちとはミマツ広場で別れた。これからも達者で暮らせよ。


 その後、ヒクイドリの群れから逃げたルートを逆にたどりながら、木に架けた《枠》を消して回って行った。


「ふう、これで最後かな。何か忘れてるような気がするけど……」


「遠くから、ほんとにかすかなんですけど…… 何かの鳴き声聞こえませんか?」


「あっ」


 最初に僕に飛びかかってきたやつ!


 弱々しい鳴き声のする方にいくと、ニワトリほどの大きさの一匹のヒクイドリが《枠》に拘束されて木に縛り付けれられていた。僕を見つけるとキューンと鳴き、懇願するような眼を向けてくる。


「ごめんごめん。『消去イレース』」


 《枠》を消すとパタパタと僕の足の周りにまとわりついてきた。


「これで本当に最後かな。悪かったね、こっちも必死だったんだよ。じゃあね」


 そのヒクイドリはその後、僕らを先導するかのように先頭に立って進んでくれた。


「カグッ!」


「ありがたいけど、来た道だから大体は覚えてるんだよね」


「お詫びのつもりとかですかね」


「そういうことならきちんと受け取っておきますか。頼むぞ。えーと…… "カグ"」


「カグッ!」


「また、単純な名前じゃのぉ」


「真髄は無駄を削ぎ落とした先にあるのだよ」


 街道に出たところでカグとは別れた。


「ありがとうな。また会おう」


「カグッ!」

 

 そこからは順調に街道を進み、無事に家に帰り着いた。神頼みが効いたかな? 色々あったけど、面白い仕事だったな。



《》 《》 《》 《》 《》



 帰ったその日の夕食はとても豪華だった。やっぱり約十日ぶりの帰宅なのでリツも張り切ったようだ。


 夕食の話題はもっぱら今回の岩塩採掘の道中に起こったことについてだった。〈不燃物〉とのやり合いの話では、無事にオミを救い出せたことに対してリツにお礼を言われた。


「お礼なんていいよ。今回はこの三人がいて、みんながみんなそれぞれ役割を百%以上に果たしたから、全員が無事に帰って来れたんだ。そういうことでお互い様だよ」


「それでも、私にとって大事な人が無事でしたから。本当にありがとうございます」


 その言葉を聞いて、僕とオリカは目を合わせたあと、同じ言葉を返した。


「「ごちそうさま」です」



《》 《》 《》 《》 《》



「ふわぁぁぁ。よく寝た」


 朝が来た。オリカとは今日でお別れだ。ここ数日は楽しかったし、寂しくなるなあ。


 そう言えば僕が《裸族》だと明かしたあと、何か考え込んでいたな。


 僕はオリカの態度や人柄を見て、《裸族》だという事がバレても問題ないと思った。だけど、オミやリツはどう思うか確認はしておいたほうがいいかな。


 そんなことを考えながら顔を洗ってリビングに入る。すでに三人は朝食の途中のようだ。


「おはようございます」


「ヒデンさん、おはようございます。オミさん、リツさん、さっきの話をヒデンさんにしますね。ヒデンさん、うちに来てもらえませんか?」


「????」


 どういうこと?


「もうちぃと説明せんと分からんのんじゃないんか?」


「あ、えーと、私三人のガールズチームで仕事してるんですよ。ヒデンさんにそのチームに入ってほしくて。そのお誘いです」


 チームへのお誘い?


 だけどガールズチームって。


「理由を聞いてもいいですか? ガールズチームって…… 一応僕は男ですよ?」


「知ってますよ〜。でも《着力きりょく》がないので、《ドレス》はなくて、風や土を操ることもできないですよね」


「そうです。でも《枠》で体を拘束して動けなくするとかはできちゃいますし、自分で言うのもなんですけどそこまで信用して大丈夫ですか?」


「《枠》で風や水を防げますか?」


 "僕が《枠》と思える形状を生成する"という制約上、どうしても真ん中は空洞になる。全面をカバーする形状は《枠》とイメージできないので作れない。"盾"を作っても真ん中に穴が開いているものになってしまうわけだ。


「多分ムリですね……」


「それならチームメイトは安全と言っていいでしょう。それを見越してのお願いになります。今、チームとしては守りの硬い人が欲しいんです」


 あー、それで僕の《枠》についてぶつぶつ言ってたのか。


「そうなると《着力きりょく》の高い、防御能力の凄い人が一番の候補になります。そういう人は男の人になりがちなんです。自意識過剰かもしれないんですが、女性ばかりのうちのチームに私たちの技が通じないかもしれない男の人を入れちゃうのはちょっと…… って思ってて」


 まあ、そういう心配も出るよね。


「ヒデンさんは"《枠》を作る"という守りに優れた能力を持っています。それこそ〈不束者ふつつかもの〉である〈不燃物〉を抑えられるくらいの」


 お、あれ高ポイントだったか。


「でも私達をどうこうする力はないってことで…… えーと……」


「なるほどね。いいですよ」


「もちろん《着力きりょく》がないってことは秘密にしますし、なんとか…… えっ?!」


 面白そうだ。就職先がガールズチームってことを抜きにしても、別の町を見るのもいいだろうな。


「ワクワクする方を選ばさせてもらうよ。いいよね、オミ、リツ」


「好きにすりゃあええ、おみゃぁの人生じゃ」


「元の二人暮らしに戻るので、いいですよ」


 リツはニッコリと柔らかく笑ってそう言った。でもなんか背後に"ようやくですね"みたいな雰囲気を感じる。


 あれ?  ひょっとして、僕来てから邪魔だったりした?


「やった! 嬉しいです! ヒデンさんなら今回の依頼で、人柄もいいことがわかってますし、よろしくお願いします!」


 ピョンと飛び跳ねながら言ってくれる。そんなに喜んでくれるとは思わなかったな。


 これからどんなところに行くんだろうか。楽しみだ!

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