ドレス&フレーム 〜前世で枠にはまってたおかげで開花した《枠創造》能力でワクワク異世界暮らしを楽しんでます~

乃日眞仁

1章 ワクワク新生活の始まり

第1話 舞台は『ドレサース』

 僕は自分の周りをきょろきょろと見渡しながら、歩いていた。こちらに転生?転移?して来ていくらか日数は経っているが初めて来る場所だし、物珍しいものがいっぱいだ。


 基本的には地球と同じようなものだけど、地球のものより大きい生物や植物もいるかな。


 お、あの蝶なんか羽広げたら俺の胸くらいないか? 色もレインボーできれいだなあ。うわあ、なんだこのニオイ。あっちのカラフルなでかい花からか?


 そんな風に好奇心を刺激されながら歩いていると、僕たちのパーティを先導している、先頭の男が腕を横に上げて、"止まれ"のジェスチャーをした。


「なんかおるのぉ。《ドレス》着とこぉか」


 ずんぐりマッチョで無精髭のオヤジ、オミ=オーツが何かの気配があることを僕たちに知らせて、自らのドレス名を怒鳴った。


「ドレッシング! 【ラガーシャツ】!」


 その声に呼応して、左手の甲に重金属の鈍い光沢を備えた手甲が現れる。続いて両肩が淡く光り、中世の戦士がつけるような肩当てが出現した。


 首まわりには俺がいた元の世界の"ラガーシャツ”のような襟が付いている。ちなみに襟は立ててある状態だ。これについては本人曰く「オシャレ」らしい。さらに手首まで覆うアームカバーと右手の手甲が現れる。


 オミの《ドレス》は腕や肩回りだけで、下半身は普通のズボンに皮の腰巻だけの軽装だ。見るからに"脳筋"なこの《ドレス》の能力は〈筋力アップ〉だ。それに加えて〈土を操る力〉も持っている。


 僕の転生したこの『ドレサース』に住む人々は《着力きりょく》という力を内在していて、その《着力きりょく》を使って発現させる固有の衣装、それが《ドレス》だ。


 《ドレス》を身につけると魔法や超能力のような《力》を使うことができる。


 日本の人には魔法少女や特撮ヒーローみたいな感じと言えばわかりやすいかな。かなり個人差があってヒーローに並ぶほど強い人はごく少数だけどね。


 そして、『ドレサース』には、悪の化身や悪の組織みたいな敵はいないけど、自然発生する〈厄介な災害獣〉はいる。人々は《ドレス》能力でその〈災害獣〉たちに対抗している。


 〈災害獣〉を見つけたのかもしれない。


 《ドレス》を着用した前衛のオミの注意に従い、後衛の僕たちも打ち合わせ通りに《ドレス》を発動させる。


 僕の隣にいる女性、オリカ=パインウェイブが肩まで伸ばしたグリーンゴールドの髪を可憐にきらめかせて、自分のドレス名を呼ぶ。


「ドレッシング!! 【ナイチンゲール】!!」


 左手首に髪色と同じグリーンゴールドの腕輪が現れる。さらに、短パンにレギンスという山ガールを連想させる軽装の彼女に、上空から光の粒が降りかかり、全身がまばゆく光った。


 光が収まると白いマーメイドシルエットのワンピース姿に変化していた。柔らかい黄緑色をした植物のつるのような意匠がついている。


 こちらには地球では有名だった看護師のナイチンゲールはいない。ただ、地球と同じく「ナイチンゲール」という小鳥はいる。


 ヨナキウグイスとも言われるスズメ目ヒタキ科の小鳥で、可愛く可憐なイメージが彼女によく合っていると思う。体型がよくわかるその《ドレス》を横目でチラ見してしまうのは許してほしい。


 彼女の《ドレス》はオミと違って全身をカバーしている。彼女の《着力きりょく》が多いためだ。見た目に反して防御力は高く、〈風を操る力〉と〈治癒能力〉を持つ。


 《ドレス》を着用し終えたオリカが言う。


「確かに少し先に何かいますね。結構大きいみたいです」


 オリカの【ナイチンゲール】には風を感知する能力もあり、動物の呼吸や動きによって生じる風で索敵を行う。【ナイチンゲール】を着れば索敵範囲はオミより広いが、長時間の着用は負担になるため、通常の索敵はオミの長年の勘と気配を読む力に頼っていた。


「ドレッシング!! 【フレームワーク】!!!」


 僕は《ドレス》の名前っぽく自分の能力を叫んだ。


 "《ドレス》っぽい"というのは僕の能力は《ドレス》ではないからだ。転生にあたって《着力きりょく》がもらえなかったからなんだけど…… そんなことある? 普通転生先に合わせた力、例えば魔力とかもらえるんもんじゃないの?


 まあ、愚痴ってもはじまらないので、結局は別のことわりの能力を頑張って身に着けることにした。ただ、とてつもない苦労を強いられたけど。あれはしんどかった……


 僕は身体・両腕・両足が横縞、いわゆるボーダー柄になるように、短い筒を生成し、体にぴったりとフィットさせた。全身ボーダー柄なのはダサいので、ズボンは能力で生成した筒と似たような色のものを履いている。


 生成した短い筒は《枠》だ。なんとなく僕が「これは枠だな」と思うことができれば、作ることができる。額縁や窓枠、刺繡用の布留めの枠みたいな感じの《枠》なら作れる。


 逆に《枠》とは思えないもの、例えば単なる球状のボールとか板状の直方体は生成できない。条件はあいまいだけど、そういうものみたいなので納得するしかない。


 僕が生成した《枠》は軽く、硬い。地球上の物質と比べるとカーボン素材よりも軽くて硬いくらいだ。


 この"《枠》を生成する"のが僕の能力だ。物質を作り出せるのはある意味チートなので、なんとかうまく使いこなしたいところだが、まだ経験が足りない。


 おっと、今はオミが察知した"何か"に注意だ。


 三人とも警戒態勢を整えて、慎重に足を進める。そして木々の少ない広場のような場所の手前で足を止めた。


「もうすぐですね」


「おお、普通の獣じゃったらええんじゃがのぉ」


 僕以外の二人には相手の位置や大きさがある程度わかるみたいだけど、今の距離では僕にはまだわからない。


 そのうち、木の間からのっそりと、軽自動車くらいの大きさはありそうな巨大なイノシシが出てきた。これはデカいぞ! 襲われたらそれこそ車に轢かれたのと同じ勢いでふっとばされそうだ。


 イノシシがこちらを向くと、離れた距離でもはっきりとその双眸が見えた。赤く光っている。額には漢字の"不"のような模様も確認できる。隣の文字は遠くて見にくいけど"猪"かな?


 そいつは僕たちに気付くと顔を上げて肉食動物のような吠え声をあげた。


 ゴオオオオオオオ!


「いけん! 〈不化〉しとる! 〈不猪ふちょ〉じゃ!」


「あれが〈不化〉ってやつか!」


 あらかじめ説明は受けていたが、初めて遭遇する〈災害獣〉だ。


 〈不化〉というのは、この世界特有の状態異常で、〈不化〉してしまった獣は、凶暴性が増し、普段はおとなしい草食動物でも、なぜか人間を敵視して襲い掛かってくるものが多いらしい。


 なるほどこちらを見るイノシシからは、僕でもわかるとんでもない敵意を感じる。


「ワシが止める! 攻撃は頼まぁ!」


「任せてください!」


 オミとオリカの二人が役割を決めたと同時に巨大イノシシが鋭いキバを向けて突進してきた。重低音の間隔の短い足音が、迫りくる獣のエネルギーの凄さを伝えてくる。


 ドッド! ドッド! ドッド! ドッド!


 オミが両腕を広げて獣の前に仁王立ちで立ちふさがり、気合を入れて叫ぶ。


「おどりゃああ!」


 突っ込んできた獣の頭に合わせてオミも頭を下げ、肩で突進を受け止める。ちょうどラクビーでスクラムを組んだ時の格好だ。


「うおおおおおお!」


 突進を止めようと叫んで力を込めるが、獣の勢いのほうが強い。両足で地面に線を引きながら後退していく。足裏と地面の摩擦で立てられるザザザという音が長く続き、後衛の僕らのところまで下がってきた。


「うわわわわっ!」


 危ない! そう思って、身構えた時にオミが叫んだ。


「『土丘つちおか』!」


 僕らにぶつかる寸前でオミが〈土を操る能力〉を使った技名を怒鳴る。すると、両足の後方の土がググっと畑のうねのように長く盛り上がった。それを足場にして力を込めて踏ん張り、それ以上の後退を防止する。


「『ウインドサイズ風の鎌』!」


 それを見てオリカが〈風を操る能力〉を使った技名を叫んだ。その力によって、イノシシの周りに真空の刃が無数に現れる。


 《着力きりょく》によって視認されるようになった刃がイノシシに向かって飛ばされた。だが、一メートル以上の大きさの刃を五十以上受けても、イノシシに大きなダメージを負った様子はない。


「すみません!! 皮が硬くて私の力では少しずつしかダメージを与えられなさそうです!!」


「んんん、殴るの手伝いたいんじゃが、こんなぁを止めとかんといけんしのぉ。時間はかかってもええけえそのまま続けてくれぇ」


 イノシシとの押し合いが均衡しているため、力を抜けずに踏ん張りながらオミが言う。


「わかりました!」


 そこまで見てはっとした。いかんいかん、初めて見る〈災害獣〉に驚いて、動きを止めてしまってた。戦闘行為に自信はないけど、二人を手伝おう!


「大丈夫? 僕も手伝うよ!」


「おお、おみゃぁの能力で足止めできるか?」


「やってみる。足を《枠》で囲うのはどうかな?」


「えっしゃ、たちまちそれやってみてくれぇや」


 僕の提案に対して、オミから許可が出たので《枠》作りのために、精神を集中させる。


 よし! この能力でやってやるぞっ!

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