第20話

 ウルハちゃんがいよいよ能力を使うらしい。

 そのために私ができること。

 それはたった一つだけ。ウルハちゃんの援護だ。


 上手くできるかは分からない。

 今まではずっとひとりぼっちだった。

 だからチームワークが大事なのに、失敗しちゃうかもしれない。


 急に不安がよぎり始める。

 嫌な感覚を自分で作り出し、繭の中に閉じ籠ろうとする。

 しかしウルハちゃんは気にしていない。それどころかニヤけた笑みを浮かべる。


「大丈夫だよ。私は輝きたいから前に出るんじゃないよ。いざとなったら、アスムが私を踏み台にして!」

「そう言うことじゃないんだけど……」


 私はグッと唇を噛む。

 しかしウルハちゃんには妙に伝わらない。

 もどかしい気持ちを抑え込みつつ、私はウルハちゃんを信じて相槌を打った。


「それじゃあ任せるよ」

「やった! それじゃあみんな、私の翼を見ててね!」


 コメントにそう告げた。

 翼? もしかして空が飛べるのかな。

 私は期待を込めて想像すると、軽くジャンプをしながら、ウルハちゃんはレイピアを引っ提げ、果敢にジャンガーキャットに攻め込んだ。


「せーのっ!」

「えっ、ここから駆け出すの。あっ!」


 私はウルハちゃんを心配した。

 それもそのはず作戦の単純だったから。

 レイピアを突き出すの、ジャンガーキャットに向かって行く。もはや真っ向勝負の構えで、不安しかない。


「ンニャゴ!」


 案の定ジャンガーキャットに気付かれる。

 一瞬で標的にされると、鋭い爪を展開。前脚を一気に振り下ろす。


「ウルハ!」


 私は咄嗟に叫んだ。これで注意が向けば良かった。

 だけど全然ダメ。ジャンガーキャットの視線はウルハちゃんにしかない。

 しかも残念だがレイピアじゃ受け止められない。

 苦渋を舐めながら、私は駆け出していた。急いで助けないと悲惨な目に遭うと見えたからだ。


 嫌な感じがする。なのに何でこんなに温かいのか。自分の能力で捉えた状況がおかしく、私は頭を悩ます。

 しかし体は勝手に動いていて、ウルハちゃんを助けに行っていた。

 だけど遅かった。ウルハちゃんの姿が見えなくなる。


「ウ、ウルハ?」


 突然姿を消した。

 ペチン! と言う音が鈍く響き、ウルハちゃんの姿を消した。

 まさか本当に……コメント欄も慌てふためく中、突然風が頬を撫でた。


「えっ?」


 おかしなことだった。何故か風が巻かれ、草原の草の上に黒い影がある。

 私は顔を上げた。

 すると空に一つの塊が浮かぶ。その姿は大きくて、二翼の純白が広がっていた。


「あれは……ウルハ?」


 そこにいたのは間違いなくウルハだった。

 何と当たってしまった。本当に空を飛んでいる。

 純白の翼で風を掴み、巧みに体を浮かせていた。

 その姿はまるで天使。いや、天使の中でも神々しかった。


 レイピアを握っていた。

 その視線は眼下を見ている。

 ジャンガーキャットは睨みを飛ばす。


「ニャーゴ!


 完全に怒っていた。威嚇が鋭く、今にも飛び掛かる勢い。

 しかし距離がある。天高く浮かぶウルハちゃんには届く気配もない。

 おまけにジャンプしようにもできない。喰らった攻撃が今になって大きく効いてきて、動けないでいた。


「動けないなら好都合だよね!」


 ウルハちゃんは翼をはためかせると、急降下を始めた。

 風を切り、翼で受け流す。

 とてつもないGが全身を包み込むが、それすらも気にせずにレイピアを突き付けた。


「そりゃそりゃそりゃそりゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ウルハちゃんは繊細で丁寧。

 とにかく一撃一撃を丁寧に打ち込んでいく。

 ジャンガーキャットは真上からの攻撃を当然ながら避けることができない。


 私はそんなウルハちゃんの攻撃の苛烈さ見て興醒めした。

 これは本当に私の出番はない。

 刀から手を離し、呆然とスマホを眺める。


 そこにはたくさんのコメントが投下されていた。

 しかもさっきよりも滝のように流れる。

 目で追うだけで精一杯で、私はその中にあるコメントを幾つか抜粋した。



:ウルハさん、凄い!

:カッコいい!

:完全に羽目○しだ

:何にもさせてない

:アスムさん必要だったのかな?

:一人で倒せちゃうんだ。凄い、流石はウルハさん!

etc……



 私も同感だった。

 この状況、この結果。明らかに私の居る意味がない。

 私は完全に傍観者の立ち位置を取っていて、ウルハちゃんの派手な活躍を見守る。

 何かあれば助けに入る。それが意味私のやるべきことだ。

 だけど何かが起きそうな予感は……少ししかしないが、まだ油断はできない中でも、私は勝ちを確信していた。

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