【悲報】豆腐メンタルで底辺配信者な私が、偶然クラスメイトの人気配信者をモンスターから助けたらバズってしまった

水定ゆう

一章 豆腐メンタルの邂逅

第1話

「はぁー、やっぱり伸びないよね」


 私、アスムは酷く悩んでいた。

 もちろん悩む原因も分かっていた。

 だけどその原因を解決できないで、がむしゃらに淡々と日々を過ごしていた。


 視線を落とせばスマホがある。

 ポケットから飛び出したスマホの画面には、私の開設したチャンネルのアナリティクス(分析結果)が表示されていた。


 μTubeは今では世界的な地位を確立し、もはや知らない人はいない動画投稿サイト。

 数年前から私は動画投稿や配信をしていた。

 けれど未だ花開くことはなく、登録者数も視聴率も伸び悩む、いわゆる底辺配信者の道をひたすら歩んでいた。


 もちろんこうなった原因には心当たりがある。

 ただあるだけじゃない。大アリだった。



:今日もつまんねー

:なんで見てるんだろ

:なんかしてよ!

:なんもできないんだろw

:仮面取ってよ! ちゃんと喋ってよ!

:ダンジョン来てんのに、モンスターと鉢合わせしないとかなんなんだよ

etc……



 心無い一言、アンチコメントが大量に溢れていた。

 けれどアスムはそれを全無視。一切コメントを見ないし、見ている余裕もなかった。

 だってここはダンジョンだから。

 ダンジョンでまともな配信をしようという人の方がどうかしている。


「でも仕方ないよね。私、なにもしてないもん」


 私は自力で気が付いていた。

 ダンジョンに配信のため・・・・・潜り始めて一ヶ月。

 ここまでほとんど成果は上げていない。


 もちろん常にカメラを回し、配信をしているわけじゃない。

 だけどカメラドローンの画角で、配信をしている間は色んな方向に意識を向けないといけないから、まともにモンスターと戦うこともなく、淡々とした探索になっていた。

 仮面越しに溜息が漏れる。


「って、溜息なんて付いてたら、ますます同接が減っちゃうよね」


 私はチラッとスマホを確認した。

 同接数は十八人。結構いる。

 けれど人気配信者の人達に比べたら随分と少なく、やっぱりいきなり配信をしてもやって来てくれる人はいないらしい。


「SNSで告知したいけど、フォロワーは少ないもんね。しかもこんななにも起きない配信を告知しても、きっとつまらないって言われちゃうよ」


 私はもう一回溜息を吐いた。今度はさっきよりも大きかった。

 心が折れそう。いや、ふやけそうになる。

 そう、何を隠そう私は超が付くほどの豆腐メンタルで、自分に自信がないのだ。


 それじゃあ、なんでそんな私が配信をしているのか。

 それはもちろんお金を稼ぐ……ためじゃない。

 自分に自信を付けて、豆腐メンタルを卒業したいから。そのためには誰でも始められる配信が一番手頃で荒療法だから良いと思ったけれど、早速この一ヶ月で挫けそうになっていた。


 だって面白いこともしないから人の目も留まらない。

 もちろん私が悪いのは分かっていた。だけど何をしたら良いのか分からず、とにかく豆腐で慎重派な私にはこれくらいの足掻きしかできないのだ。


「あっ、また減った……」


 トボトボ暗い洞窟の中を歩いていると、再びスマホに目をやった。

 二人も同接数が減っている。

 いっそのことコメントを表示……しようとしたけど、ボタンを押す勇気がない。指が震え、カメラドローンの画角から外れるように視線を落とした。


「ううっ、頑張れ私。頑張って……あれ?」


 その瞬間、全身を柔らかくて温かい感覚が駆けた。

 ピタッと止まって周囲を見回す。右側、ずっと奥の暗闇に進むと良さそうだ。



:おいおい急に止まったぞ

:また何かあるのか

:顔分からんから何考えてるか分かんねー

:モンスターの戦闘来たか!

:どうして止まるんだよ。動けよw

:この奥に何かあるのかな?

etc……



 コメントも突然のアスムの行動に動揺が隠せない。

 何かあると期待しているようだが当然気が付くはずもない。


「行ってみよう」


 私は暗闇に向かって歩き始めた。

 この先にはきっと良いものがある。なんとなく分かる。それが私の得た能力だ・・・・・・・




 あれから三十分くらい歩き回るった。

 とにかく何処までも続く一本道。

 私はカメラドローンを引き連れ歩きていくと、ふと視線が止まった。


「えっと、多分こっちをもう少し行って……あれ、なんだろ」


 目の前に浮かぶのは小さな宝箱。

 近付いてみると、なかなか装飾の細かい代物。

 私はゆっくり手を伸ばすと、モンスターの反撃を警戒。もしもミミックならただでは済まない。


「触っても……大丈夫だね」


 宝箱に触れた。すると指先から温かい。

 これなら間違いなく開けても良い。

 私は宝箱の蓋を開けた。すると中には金色のメダルが一つ入っている。


「あった」


 私は淡々と呟いた。

 メダルを手にするとキラリと光り、カメラドローンの画角に収まる。

 するとコメント欄が沸いた。


:マジかよ!

:これだから良いんだよ

:偽物?

:いやいや本物だろ!

:ダンジョンで手に入るものは資産価値エグいからなー

:生きて持って帰れたらマジで何十万ってレベルじゃねえよwww

etc……



 しかし当の本人、アスム自身はいつも通りの反応だった。

 綺麗なメダル。としか思わないでポーチの中に仕舞うと、Uターンして帰る。

 特にモンスターとも接敵しない。特に面白いこともしない。そんな私の配信は今日も底辺だけど、話題のダンジョン配信者の中では、少しだけ有名かもしれない。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 【あとがき】


 カクヨムコンが始まってしばらく経ちましたが、新作を投稿しました。

 ストックはあまり用意していませんが、投稿分までお付き合いいただけると幸いです。

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