第12話 迎えに来た男


 不審な顔をして私を見る黒髪イケメン。エルダー様程じゃないけど。

「その、今のは?」

「私の魔法です」

「ステラ嬢は魔法が出来ないと聞いていたが」

「自然魔法なら出来るの」

「自然魔法?」


 自然現象を引き起こす。自然に呼びかけて助けてもらう。この地上の自然現象を自分に有利に利用することが出来る。


「という魔法らしいけど、まだ勉強中でよく分からないわ」

「そうか、希少魔法なのだろう。迷惑をかけたようだな、申し訳なかった」

 律儀に謝罪する男は公爵家で見た。その前にも見たような、領地で、この顔がいたような。

 クルクルの黒い髪で、暗い目で、少し拗ねた顔をしていた。だから私は引っ張り回した。

「あなた、誰? もしかして、ダリル……?」


「そうだ。俺はギルモア公爵にステラ様を連れ戻すように命じられた、ダリル・ブルーデネルだ」

 お父様が私を──?


 お父様は私を捨ててメラニーを取ったのではなかったのか。私を蔑ろにしたとか、ひどい扱いをしたとかいう事はなかったが、彼はいつも忙しくて普通に話も相談もしたことが無かった。別に嫌いとか、そんなことはなくて、そんなものだと思っていた。

 お忙しいけれど私は何不自由したことはなくて、まるでエルダー様みたいだわ。私、ファザコンだったのかしら。


「ええと、確か二番目のお兄様の?」

「ああ、彼とは異父兄弟になる」

「じゃあ、私とも兄妹よね」

「まあ、改めて言う程、濃い繋がりがある訳じゃないが」

「血は繋がっていないわねえ」

 彼は父の二番目の奥様の連れ子だと聞いた事がある。


「昔のステラは、そんな髪で瞳の色だったな」

 彼は少し眩しそうに目を細めた。

「元気に水辺を走っていた」

 お母様は分け隔てなく三人の兄と私を領地に連れて行った。公爵家を継ぐのは私。彼らは私を補佐し助けてくれる存在だとお母様は言ってらっしゃったけれど、私は捨てられたし、どうなるのかしらね。



「ヘレスコット王国に帰るのなら護衛するが──」

「ダリル義兄様ひとりで?」

「ああ、俺は無事に森に着き、ステラ嬢を無事に見つけ出し、無事にヘレスコット王国の、公爵の許まで連れ帰るよう命じられた」

『無事に』を三回も言うの?


「だが先程の奴らは俺の手に余る。ステラ嬢の命の保証は出来ない」

「どういう事かしら」

「新手がいた。奴らはこの国の者とは違う」

 そして私の前に片膝をつき胸に手を当てて誓いの言葉を言うのだ。

「俺は、ここから先は、ステラ嬢の護衛として側に仕え、盾となって守る」

 うわっ、いきなりどうしたんだ──。


「このまま、ステラ嬢を連れて森を出て、奴らを相手に無事に王都に行けるとは思えんのだ」

「帰らなくてもいいの?」

「この任務に期限は付けられていないから、死んでいなければその内どうにかなるかもしれん」

 つまり安全策を取るために、王国の公爵の許まで帰るのを後回しにするって事かしら。私にしたら帰りたいとか思っていないし、無事な方がいい。


 根暗な男は暗い瞳のままで私を見る。この男が言うと、なるようになるという話もお先真っ暗に聞こえるのよ。変だわね。



「お嬢様、小屋に戻られてはいかがでしょうか」

 側に控えていたアンが話の切れ目で提案した。

「そうね、その前にここをお掃除しておかないと、洗い流すわね」

「はーい」


 小屋の結界から外れた戦闘場所は、樹木も葉っぱも地面も赤黒く染まっているが死体は見当たらない。風で一緒に飛ばしたんだろうか。


「雨よ降れ降れー、ここらを綺麗に流してー」

「風よ吹け吹けー、汚れを払ってー」


 ダリルはそのまま血で汚れた場所に立って雨を受け、風を受けている。

「ちょっと、濡れるでしょ」

 ステラの魔法を避けもせず、びちょびちょに濡れて、風に吹かれている。変わった奴である。まあ根暗で変わり者だった。



 その時、私の魔法と違うヒュンという音がした。

「おや、お客さんかい」

 エルダー様が来たのだ。後ろにコケちゃんが控えている。

「親の目を盗んで逢引きとはいけない子だ」

 えっ、誤解されてる。

「あ、違いますよ。義兄のダリルです。私の護衛になるそうなの」

「ふうん?」

 エルダー様は用心深く義兄を見ながら、私を腕の中に庇う。

(うわああぁぁーー! この体勢、嬉し過ぎる!)


 義兄の目付きの悪い顔が余計に悪くなった。

「何だ、そいつは!?」

「私を助けて下さったエルダー様よ」

 神の腕の中で嬉しそうな私。義兄は神を睨みつけ、神はふふんと笑っている。そんなお顔は神には似つかわしくないと思うし、義兄は私の子分だから苛めないで欲しいと思うの。



 私の義兄は一緒に洗ったので少し綺麗になったが、お風呂に入って貰った方がいいか。いや、その前に怪我を治さなきゃ。平然としているからすっかり忘れていた。


「あれ? 怪我は?」

 確か腕を斬られていたよね。

「軽い怪我だ。もう治った」

「えー?」

「俺は魔族だからな」

「へ? そうなの?」

 何と義兄は魔族だという。魔族は怪我の治りが早いのか。


 この森に来てからステラには、エルフのパパと獣人の召使と魔族で義兄の護衛が出来てしまった。なかなかバラエティー豊かで楽しいと思ってしまうステラは、何処に向かって行くのか。

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