外れ者共は今を生きる

春夏 フユ

第一章 3人は物語を始める

第1話 始まりは突然を好む

 この世界では、【魔法】を使える。


 この世界には、【魔物】が蔓延っている。


 この世界では、【冒険者】と呼ばれる人々が【ギルド】という窓口を通して、【クエスト】という依頼をこなして貰う報酬で生きている。


 これは、そんな世界で生きる、外れ者共の話。


ーーーーーーーーーーーー


 俺の名前はクロイ。

 見た目の特徴は黒髪黒目で母親に『ハイライトが若干無い目をしている』と言われたことがある18歳、トレードマークは右目の下にある泣きぼくろだ。

 頭に巻き付けているスカーフは髪を整えて無くすのが面倒な自分の大きなはねっ毛寝癖を無理やり抑えるためだが、髪の色と完全に同化している真っ黒なのでパッと見じゃ誰もスカーフに気付けない。


 そして職業は、所謂様々なクエストを受けることで今を生きる冒険者っていうのををやっている。


 そんな俺だが、ギルドの隣にある酒場へと入ったところで・・・・


 「そろそろツケを払ってください、クロイさん」


 と言われたのが現在。


 扉の前で待ち構えていて、俺の入店直後開口一番にそんな事を言ってきたのはこの酒場のお姉さんだ。


 柿色の髪を衛生面を考えてショートにしているが、しっかりと似合っていて大人の女性の美しさを醸し出しており、少し小柄だが力強さを感じる身体は威厳すら感じれる。

 顔は常に意識しているのかシミ1つ見当たらず見るだけでスベスベ肌なのが分かり、本当に三十路なのか疑うレベル。

 そして普段は常に可愛らしさと美しさを高水準で両立している元気な笑みで接客対応しているその顔は、少し苛立っているようで笑顔が若干消えていた。


 このお姉さんはこの酒場・・・・通称【エン酒場】を1人で切り盛りしてるお姉さんだ。


 子供の頃から良くしてもらっていたのだが未だに俺含め誰も本名を知らない、だから皆にお姉さんと呼ばれている。

 だが、例え昔から可愛がってもらっていたとしても入店してすぐに失礼な事を行ってくるので俺は言い返してやる事にした。


 「お願いしますもう少し待ってください良いクエストがないんです勘弁してください」


 怒涛の勢いで俺は高速ペコペコをして言葉を紡いでいく。


 ふ、言い返してやったぜ。


 ・・・・あ、お姉さんの表情が可哀想なものを見る目に変わってる。


 「はぁ・・・ 良いクエスト云々は関係ありません。 割に合わないクエストだろうがなんだろうが稼いできて早くツケを払ってください。 それまでは出禁とさせていただきます」


 「えぇ! そんな事をして罪悪感は感じないのか!」


 「それは貴方に言いたいことです! 既に最初のツケ滞納から3ヶ月経ってますよ! 罪悪感を感じてちゃんと稼いできてください!」


 次の瞬間、入口を背に立っていた俺はお姉さんに蹴り飛ばされ追い出された。

 さすが冒険者達の集うギルドの真隣にある酒場だ、荒事には慣れてるってか。


 しかし、この酒場は食べ物が安くて多いから、基本的に通年貧乏な俺の生命ラインである。

 つまるところ、出禁はかなりまずい。


 大急ぎでクエストを受けてツケを払わねば!


 ・・・・だが、しかし。


 「俺はソロの冒険者な上に、使える魔法はアレだけだから戦闘系は無理だし・・・・良い採集クエスト無いかなぁ」


 癖である独り言を呟きながら、俺は直ぐにギルドに入って〔クエストディスプレイ〕を見る。


 〔クエストディスプレイ〕とは、魔力で動く機械、通称〔魔機械〕の1つでありギルドに大量に設置されてるタブレット型の道具だ。

 このクエストディスプレイに表示されている依頼をタップすることで俺達冒険者は受注して、こなしていく。


 さて、大量にあるクエストディスプレイの内の1つの前にある椅子に腰掛け、受けたいクエストの条件を入力していく。


 「えーっと、何々? [ポワポワ花を50本採集] [報酬 50エヌ]か。 これで良いか。 ポワポワ花は近場の森に割と生えてるからな。 そんじゃ受注っと」


 ちなみにポワポワ花とはポワポワ毒という毒を持っている花だ。

 その毒は肌で触る分には良いが、体内に摂取するとなんかポワポワするらしい。

 致死性はないし摂取するような状況に陥るビジョンが見えないから大丈夫だろう。


 俺は受注のボタンを押して、早速ポワポワ花がある街から徒歩10分の【赤みがかった森】へと向かった。


ーーーーーーーーーーーー


 今現在いる場所、【赤みがかった森】。

 【赤みがかった森】という名前だが、この森には赤い要素が多いわけでは無い。

 むしろ緑に溢れて平和そのもので、夜にならない限り危険な魔物は出てこない。

 なんでこんな名前なんだろう?


 ・・・・そんなわけなので1時間ほどで順調にポワポワ花が集まり、残り半分ってところになった。


 この調子なら夜までには楽勝で帰れる、そう思っていたら複数人の会話している声が聞こえてきた。


 「・・・役立たず・・・」


 「・・・・いらない・・・」


 「ダメダメ・・・・」


 「・・ごめんなさい」


 少し遠いせいで所々しか聞こえないがなんか不快な感じがする会話だと感じた。

 俺は母譲りの強い好奇心の赴くままに声の元に向かう。

 

 そこに居たのは、格好から判別するに・・・・・4人の冒険者達だった。


 「あーあ! 全く! 本当に使えねぇ奴だな!」


 1人目は見せびらかすかのように高そうな宝石を鎧に付けまくってる男、角度の問題で顔が見えない。


 「本当よね。 あんたクソ雑魚じゃない。 魔人としての能力に期待してたのに」


 2人目はやけに露出の多い服を着た褐色肌の女・・・ん? 今魔人って言ったか?


 「やっぱり魔人はダメだね〜 絶対に期待を裏切るんだから〜」


 3人目は対照的にブカブカな服を着たかなり背の低い女・・・やっぱり魔人って言ってるな。


 「ご、ごめんなさい」


 皆から責められている4人目はくすんだ青色のフードを深々と被っている。

 他全員と違い、角度的には普通に見える筈だが、フードで顔が見えなくなっている。

 かなり地味な印象の幸薄そうな少女だ。


 「さっきからごめんなさいごめんなさいって、それしか喋れないわけ?」


 「ちょ〜っと顔が可愛いからって調〜子のってんじゃねぇよ〜!」


 「そ、そんな事は」


 「え〜? 私が間違ってるっていうの〜?生意気〜」


 嫌な感じだ。

 そう思っていると、宝石見せびらかし男がアクションを起こした。


 「はぁ。 もういいわ。 お前今すぐ脱退ね」


 「・・・・・ぇ」


 「何驚いてんのよ。 当然でしょ?」


 「で、でも一時的とはいえ、パーティを組んでるんですからギルドで手続きしないと脱退出来ないんじゃ・・・・」


 そうその通り。

 そもそも【パーティ】とは冒険者が組むチームの事だが、ちゃんとギルドで手続きしないとなれないのだ。

 一見面倒くさそうだが、手続きを踏む分便利になり、自動で報酬が分配されるようになる。


 当然脱退にも手続きが必要で、何故脱退するのかなどを紙にまとめてーーー


 「あぁ、オレ達そもそもオマエとパーティ組む手続きなんてやってねぇよ?」


 「・・・・え?」


 おっと、これは・・・?


 「そ、そちらでやってくれるって、言ったのは」


 「いやいや。 そんなん嘘に決まってるっしょ。 ていうかこんな簡単に人信用しちゃダメだよ?」


 「そうそう〜 こっちで手続きやっとくから〜って言ったら簡単に信用しちゃって、ギルドカードあっさり貸してくれた時はトントン拍子すぎて笑いそうになっちゃったわ〜」


 ギルドカードとは冒険者がギルドに所属する時に貰うカードで個人情報が登録されているめっっっちゃ大事な物。

 普通人に渡すものでは無い。

 無いのだが・・・・どうやらあの幸薄そうな子は渡してしまったようである。


 「最初からオマエみたいな奴とパーティなんて組むつもり無かったんだよ。 これが目当てだっただけ」


 そう言って宝石見せびらかし男は親指と人差し指で輪っかを、いわゆるお金を意味するポーズを作る。


 「愚図の割には結構溜め込んでたわね。 ちゃんと私達が有効活用しといてあげる」


 ギルドカードには、ギルドバンク・・・・つまり銀行にお金を預けたり引き出す機能がある。

 ・・・それを易々と渡すとはあの幸薄い子、普通に頭悪くないか?


 「そ、そんな」


 「で、どうせならこのクエストで働いてもらって報酬もらってトンズラするつもりだったのに・・・・オマエ全然役にたたねぇなぁ!」


 宝石見せびらかし男が声を張り上げると幸薄そうな少女が体をビクッと震わせる。


 「そうよ。 あんた魔人の癖に弱すぎ」


 「魔人は戦闘しか能がないのにそれも無理とか終わってるね〜」


 他の女達の追撃罵倒で幸薄そうな少女は恐怖で更に体を震わせ、俯いてしまう。


 「もういいわ。 このクエストは失敗したら罰金あるんだけど、オマエの名義で受けといてあるから。 オマエが責任とって借金でもして払っときな」


 「じゃ、帰りましょ」


 「さんせ〜い。 罰金の支払い頑張ってね〜」


 そう言って、胸糞悪トリオは帰って行った。

 去った後に取り残されポツンとしばらく立っていた少女は体と同じく、声も震えていた。


 「は、ははは。 1文無し、かぁ。 嬉しかったのになぁ。 パーティ組まないかって言われて、嬉しかったのに。 ・・・・騙され、てたんだなぁ」


 ・・・・そこに座り込んだまま力無く笑うその幸薄い子を見て、俺はーー


 「なぁ。 そこの傷心中プラスお金がスッカラカンの君」


 思わず話しかけていた。

 その子は俺に背後から話しかけられて再びビクッと体を震わせた後、恐る恐るといった様子でこちらを見る。


 「俺、今ポワポワ花っていう植物採集するクエストなんだけど夜までに終わらなそうだから・・・・えっと、手伝ってくんね? 報酬は半分こでいいからさ」


 いつの間にかそう言葉に出していた。


 ・・・・この時はまさかこれが始まりだったとは思いもしなかった。


 いや、本当はもうとっくのとうに始まってたのかもしれない。


 ただ、気づいてないだけだったのかもしれない。


 だって、始まりは突然を好むから。

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