新しい生活

 目を覚ますと、保健室ではなかった。見たことがない天井。畳の匂いがする和室で、柔らかな布団に寝ていた。


「ここは……」


「お休みになれましたか」


 すぐそばで声がした。


 見ると、淳弥が少し離れたところで正座をしてこちらを見ている。


「ここは、今後先生に生活していただく女子寮の部屋です。失礼ながら、一香と一緒に先生をお連れしました」


 そして丁寧に頭を下げた。


「申し訳ありません。自分が無神経だということはわかっているんですが、どうにも気を使うということができなくて。ただでさえ気が参っていたところに、あんなことを言ってしまうなんて。一香にもこってりしぼられました」


「あっ……ごめんなさい……」


 慌てて体を起こした。


「あ……」


 感触に違和感を抱き、よくよく自分を見ると浴衣を着ていた。


「お召し物は一香に用意させました」


「あ……ありがとう」


 浴衣など着たのはいつぶりだろう。慣れない格好を見られて、少し恥ずかしい。


「すいません、一香が余計な気を利かせて、どうせなら和風だろうと……お気に召しませんでしたか」


「いえ、全然大丈夫です!ただその、慣れなくて」


 襟元が涼しい。


「……それより、その、おばあちゃんのことなんですけど」


「はい」


「聞かせてもらえますか」


 淳弥は返事をせずに俯いた。


「どうしました?」


「……いえ。俺も詳しくは知らないのです。それに、もう少し落ち着いてからのほうがいいのではないでしょうか」


 淳弥は少し落ち込んでいるように見えた。結衣子は自分が教え子に気を使われていることに気付いた。


「そうですね。ありがとう」


 努めて静かに声をかけた。


「伊賀崎くんはすごいね。私、びっくりしました」


 淳弥は自嘲するかのように小さく笑った。


「そうでしょう。守るためとは言え、人を殺した。きっと驚かれたでしょう」


「あ、ごめんなさい。そういう意味じゃないの」


 結衣子は慌てて布団から出て、座り直した。

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