第2話 友達の残念彼女。

 どうして俺はこんなにも押しに弱いのだろう……


 少し考えてみたらわかることだった。あれだけの大荷物。


 計画的じゃないわけがない。つまり帰る気なんてサラサラない。


 しかも家に入るなり着替えがしたいと、脱衣所を貸したまではいいが、待てど暮らせど水無月は出てこない。


 耳を澄ませば水の音。


 どうしよう。友達の彼女がうちでシャワー浴びてる。


 あの、うち脱衣所も浴室もカギないんだけど。危険とか思わないのか。


 俺は男だしその気になれば大変なことになる。 


 みに行って噛まれたなんてことがあるように、舐めてて、舐められたなんてこともある。ちなみに下ネタだ。


 俺が人畜無害だと思ってるのか。思春期男子をなめたら大変なことになる。シャンプーの匂いでどんぶり3杯はいける。


 それにしてもどうしよう。


 神楽坂に「お前の彼女、うちでシャワー浴びてるけど。ちなみに今日両親がいなくて、泊まるって」なんて言えるか。


 シャワーの段階で、もう何かあったとみなされないか。事後のシャワーだと思わないか。いや、事後ってなに⁉ 証拠隠滅いんめつのシャワー……


 証拠ってなにの⁉


 いや何より水無月が体にバスタオル巻いただけで出てきたらどうしたらいい。マズい妄想が暴走し始めた。


 ハッキリ言って思春期妄想童貞男子だ。そっち系の妄想行為に歯止めは効かない。


 そもそも俺に彼女がいて、水無月は友達の彼女なんだから、平気なんて理論成立するだろうか? いやしない!


 めちゃくちゃ動揺してるのか、なぜか付加ふか疑問文……


 確かに、歯止めにはなる。だけど思春期男子。歯止め1つでなんとか出来るか疑問しかない。


 童貞と密室になるということはすなわち、戦場に身を置くことと同じ。覚悟がないものは戦場を去れ!


 覚悟なきものは、童貞宅でシャワーを浴びるべからず。薄着なんてもってのほか。ミニスカなんてもう逮捕してもいいだろ。法の裁きを受けさせろ。


 ドア1枚で生の女子の裸が……見たくないわけない。


「優斗〜〜ごめん、先にシャワー頂いたよ(笑)」


 ほこほこと湯気をまといながら、パジャマ姿にバスタオルで髪を拭きながら水無月は現れた。残念ながら吐血しそう。まさに、童貞キラーな姿。


「いや、水無月。お前ここはバスタオル1枚だろ……」


「え~~なに、なに、優斗のえっち~~(笑)」


 帰って欲しいような、もうここに住んで欲しいような複雑な気分だ。いや、友達の彼女。俺にも彼女いるから。


 いや、もう好きになりそうだ。


 童貞こじらせたらここまでなのか。それ程湯上がり正義なのか……


「ねぇ、入っちゃいなよ。台所使っていい? なんか簡単なのなら作れるよ? 友達の彼女の手料理なんて滅多に食べれないよ〜〜惚れちゃダメよ、ダメダメ(笑)」


 あぁ……もう4泊して欲しい! いや、ダメだ。友達の彼女。ここは1度撤退して熱いシャワーを浴びてひとり作戦会議だ。


 ***


 ――とはいうものの……ホンの数分前までここで水無月が全裸でシャワーを浴びてた事実に思いがいたると、理性が吹っ飛びそう。


 いつもはなんの変哲もない風呂場の腰掛けも、水無月が生尻で座ったかもと思うと、王座のように見えてきた。


 ん……? いや、これはさすがにマズい。見たことないシャンプーとリンス、コンディショナーからボディソープのボトルが並んでる。


 住む気か? 今の俺に断れるか?


 待てよ……このボディソープで水無月は……


 はっ……このスポンジで水無月はあんなとこやこんなとこ……ヤバい脳が痛い。過剰すぎる血液が脳に送り込まれて、ズキズキする。


 冷静になろう。いま水無月は俺のために料理を作ってくれている。彼女は友達神楽坂の彼女で俺には今日家の用事をしてる白鳥芽衣がいる。


 無心になろう。そう1から5まで繰り返し、繰り返し呪文のように数え続けた先は悟りの境地だ。


 考えればわかるハズだ。いまここで欲望に負けて水無月に変なこと、エッチなことしたら、本人はもちろん友人も彼女も失う。


 いや、噂が広がれば学校での居場所も失う。


 そ、そうだ。


 ここは冷静になるためにも芽衣に『まいん』でメッセージを送って、どれほど俺のありふれた日常がとおといものが再認識してだな、抑止よくし力にしよう。


 内容は……なんでもいい。とりあえず俺をエロな衝動に駆り立てないように、芽衣との関わりを思い出させてくれ。


『いま、何してるの?』


 こんな感じ。そろそろ戻らないと長過ぎると、してないか疑われたくない。


 いや、逆にしとけば心穏やかでいられたかも。もう遅いけど。


 頭を乾かしながらリビングに戻ると何か煙い。ん…摩天楼まてんろうか? ここはニューヨークかマンハッタンか。


 いや、換気扇かんきせん回ってません。めちゃくちゃファイアーなんですけど……


 タマゴ焼きにフランベいりますか? ブランディーなんてどうしたんだ……


「み、水無月。これは」


「えっ? あっ、フランベ」 


「いや、火柱上がってる。前髪焦げちゃうけど……」


「もう、優斗大げさ〜〜いつも……これどうやって消したらいい?」


「いつもやってんでしょ」


「あっ、ごめん! 料理できる系女子に憧れて……メンゴメンゴ」


「憧れるのはいいけど、なんでいきなりフランベなの」


「なにいってんの! 料理は火力でしょ」


 タマゴ焼きに火力必要だろうか。いるかもだけど、ここまでの火力……もう過剰防衛の範囲なんだけど……


「あっ……すみだ」


「炭だね」


 ようやく火を消してはしで持ち上げた元タマゴ。箸で持つだけで炭になって散っていった。もうタマゴだった面影もない。


「聞いていい?」


「聞かないで」


「なんで颯爽さっそうと料理出来る風にしたの?」


「聞かないでって言ったのに……だって」


「だってなに」


「だってはだって! だってさ、大地とか言うんだよ『お前は残念彼女だなぁ』だって! なに、残念彼女って! いや、確かにタマゴさんには悪いなぁって思うよ? でもさぁ、フランベは女の浪漫ろまんなの! 私は可能な限りフランベしたい!」


 とりあえず、前髪は無事みたいだし、火事にもなってない。ちょっと焦げ臭いだけ。


 おかげで変な気がなくなったから、逆に感謝。


「えっと……俺、なんか作ろうか」


「いや、私するよ。泊めてもらうのに何にもしないワケにはいかないでしょ? それともなに? 私の料理の腕に疑問でも?」


 一瞬躊躇ちゅうちょしたけど、これ以上は家が全焼しかねない。


おおむね……」


おおむね⁉ へっ? じゃじゃじゃじゃあ、誰が料理作るの? 優斗? 君さぁ、料理甘く見てない? まぁ、志しやよしということで、料理を作るチャンスをあげるわ。そうね……チャーハン! チャーハンだって甘く見ないこと! チャーハンを見ればその人の腕がどれくらいかわかるわ!」




 数分後……


「うまっ! 優斗、めちゃくちゃ美味しいじゃない! えっ、なに、シェフなの? 優斗って属性シェフなの? なに、このパラパラチャーハン! もう私胃袋にぎられた感じなんですけど〜〜入籍待ったなしなんだけど〜〜!」


 両親は忙しい上に夜勤とかあったりで、自分で作る機会が多い。


 面倒くさいのでチャーハンとか日持ちするカレーとか、まぁまぁ作る。


 水無月は味見のつもりだったみたいだけど、立ったまま食べきって、おかわりを要求した。


 頬っぺたを膨らませて食べる姿に、高校のトップカーストという肩書はない。肩をバシバシ叩いてきて、うれしそうに笑う。


 このまま無事に朝を迎えれればと思うのだけど、世の中そんなに甘くなかった。


 俺は言わずと知れた童貞だし、気付かなかったけど、水無月は名うてのドジっ子みたいだ。


 そんな訳でふたりの夜はふけていった。


 □□□作者よりのお願い□□□


 読み進めていただきありがとうございます!


「次回投稿が楽しみ!」


「今夜どうなるの⁉」


「水無月かわいい!」


 そんな感想を持ってもらえましたら、迷わず☆評価お願いします!


 ☆評価はウェブ小説を書いていく唯一の燃料になります!


 ☆評価方法はこのままスクロールして【☆で称える】を+ボタン3回プッシュと超簡単!


 読者さまの☆評価が作品を打ち切りせず、完結まで導く最大の鍵です!

 よろしくお願いします!


 ブックマーク、毎話ごとの応援、大変励みになります!

 よろしくお願いします!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る