第6話 きゅう

 魔法陣から現れた白いモフモフが魔法陣の中心にちょこんと座っている。

 ハムスターを丸くしたようなその見た目は生き物よりもぬいぐるみに近い。


「モンスターじゃないですよね? 当たり、ですか?」

「今までこんなことは無かった。当たりってあるのか?」


「きゅううううううう!!」


「な、泣き出した!」

「何で泣いているのか意味不明、あ、浮かんだ!」

「魔力を全く感じない! 羽も無いのになんで浮いているんだ!」

「きゅう!」


 モフモフが俺に抱き着いた。

 そしてすりすりと顔を押し付ける。

 撫でると滑らかなモフモフで触り心地が良く温かい。


「何で泣いてるんだ? 何か困った事があるとかか?」

「きゅうう!」

「……アキラに、会いたかった、のかもしれません」


「会った記憶は無いけど……クラック、会った記憶はあるか?」

『無いが、雄々しい瞳と気高い心を感じる、飼えばいい』

「……雄々しい瞳と気高い心? 可愛くてさみしがり屋に見えるぞ?」


 そもそも、オスかメスかも分からない。


『細かい事を気にするな。飼えばいい』

「飼えばいいって、お前モフモフが好きなのか?」

「え? え? クラック君は何て言ったんですか?」


 俺がやり取りを説明するとメイは笑い出した。


「ふ、ふふふふ、アキラと一緒で犬とかそういうのが好きなだけですよ」


 俺はモフモフを両手で抱いて瞳を見つめた。


「飼ってもいいのか?」

「きゅう♪」


 モフモフはこくりと頷いた。


「言葉が分かるのか?」

「きゅう♪」


 またこくりと頷いた。


「……名前はきゅうでいいか?」

「きゅう♪」


 更に頷く。


「何か言われれば反射的に頷く説が浮上した」

「きゅう」


 きゅうが横に体を振った。

 全身で違うと表現しているように見える。


「一緒に居たくない?」

『貴様! 何という事を言うんだ! 人の心は無いのか!』

「クラックが怒り出した!」

「きゅきゅう!」


 きゅうが横に体を振った。

 ロックバンドのように激しく体を振る。

 可愛い。


「でも、モンスターと戦うと危ないぞ」


 きゅうがふわりと浮かび上がった。

 前後左右4方向に素早く動き、その後は8方向に動いたかと思えば不規則に飛び回った。

 素早い!

 速いから大丈夫だと、そう言いたいのだろう。


「でも、ラッキーパンチもあるぞ。当たったら危ない」


 きゅうの体が光って勢いよく木にぶつかった。

 木がメキメキと音を立てたがきゅうは無事に飛び回る。


「きゅきゅう♪」

「防御も任せろと、そういう事か?」

「きゅう♪」


 きゅうがこくりと頷いた。


「す、凄いです! ナデナデしたいです!」


 メイがきゅうをなでなでするとなすがまま撫でられる。

 だが、メイの事を気にしていないようだ。


 今度は俺がなでなでをすると気持ちよさそうに目をとろんとさせ俺に寄りかかった。


「……反応が、全然違います」

「……気のせいだ」

「でも、これは凄いですよ。クラック君の次はきゅう、写真を撮りましょう!」


 メイはシュタっと俺の横に移動すると俺が手に持ったきゅうを無言で俺とメイの間に引き寄せた。

 メイの顔が近い。

 きゅうと2人がぎゅっと寄って写真を撮る。


 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!


 手に持った俺の腕を少しだけ傾ける。


 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!


「写真を送るのはいいんだけど、傾けてそんなに変わるか?」


 距離が滅茶苦茶近い。


「……もう少し傾けます」


 俺の手を少しだけ傾けた。


「きゅうがあくびをしました! シャッターチャンス!」


 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!


「……ミッション終了です! ……絶対にこっちに来るみたいです」

「きゅうが、可愛すぎたか」

『きゅうは気高く雄々しい』


 こいつ、きゅうの事を気に入っているな。

 さっきは異様に怒ってたし。

 魂の片割れか……


 気高く雄々しい=可愛いからペットにしたいと同じじゃないか?


「きゅう、きゅう」

「ん? どうした?」

「……パーティーを組みたい、そう言っているように見えます」

「手を組んでみるか」


 2人で手を重ねると上にきゅうが乗った。


「乗った!」


「「パーティーを組む!」」

「きゅう!」


「きゅうが、パーティーに入った!」

「やっぱりです」

「メイ、凄い! よく分かったな!」

「えへへへ、それほどでも、ありますかね☆」

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