異世界グルメレポート
椿叶
人魚の鱗ドロップス
人魚の鱗ドロップス。そう書かれた袋が店先に並べられている。あたしがその袋を摘まみ上げると、店主がにこりと笑った。
「ほんとに人魚の鱗なの?」
「それは食べてみてからのお楽しみさ」
なんだそりゃ。あたしは魚を捌くときのことを思い出した。鱗は脆くて、すぐに割れてしまう。触ったら溶けるなんてことはないし、うっかり食べたときは口の中に残る。鱗は鱗で飴は飴だ。
「良いから食べてごらん。一枚あげるから」
摘まんだ鱗は、陽光に照らすと青空の色を透かせる。触ってもべたべたしないけれど、鱗みたいに割れたりはしない。躊躇いながら口に運ぶと、舌の上でじゅわりと溶け始めた。なぁにこれ。
泡みたいに消えていく甘い味。しゅわしゅわと弾けていく潮の香り。それらはすぐに口の中からなくなってしまって、寂しさだけが残った。
「一袋くれる?」
「あいよ」
歩きながら人魚の鱗ドロップスを開けて、一枚口に入れる。今度は懐かしい味がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます