③やりすぎで行き過ぎな

 デートはとっても楽しかったわ。

 たくさんおめかしして、一緒に街を見て回る。前からたくさん想像していたものを全部やろうとしたわ!


 きっとグラッドは困惑するだろうから、ワタシが引っ張って行こうとしたの。

 そしたらグラッドってば、自分からワタシの手を繋いでくれたのよ。驚いて一瞬足が止まってしまったわ。


 まさか途中でお願いしようとしてたのに、向こうから最初にされてしまうなんて不意打ちよね。だからお返しにずっと離さないでいたわ、ずっとこうしていたいって気持ちを伝えるためにね。


 ただ、あのスペシャルハートドリンクは予想以上の代物だったわね……。

 ロベリーが事前に勧めてくれた物だったのだけど、グラッドじゃなくても照れちゃうわよアレは!

 何故か二回も飲んじゃったし……。でもでも、飲んでいる間はずっとグラッドの顔が近くにあったのは良かったわ。同じ物を一緒に飲むなんて行為も斬新で……い、一種の間接チューなわけだしね!?


 えへへ……グラッドと|(間接的に)チューしちゃったわ。

 今度はちゃんとしたいわねッ。


 お昼寝した時にこっそりトライしようとしたけど、失敗しちゃったわ。

 あんなに気持ちよさそうに寝ているのを邪魔したくなかったんですもの。せめて寝ている時だけでも、あなたが苦しみから解き放たれますように。





 ワタシの知らないところで、お兄様とグラッドが戦った。

 手合わせという名目らしいけど、それにしては激しすぎるのよね。だから戦ったでいいと思うの。


 何か真剣に話したい時、あるいは相手に気持ちをぶつける時。お兄様とグラッドは戦うわ。


 今回もそう。

 お兄様はグラッドに問いかけたの。


 色々言ってたらしいけど、つまるところはたったひとつ。


『いつまで、人間に戻れるかもわからない旅を続けるつもりだ?』


 お兄様はグラッドの旅にとても協力しているわ。

 口にする以上に、呪いを解く手がかりをグラッドとは別の方向から探している。それはあの人が呪いの話を打ち明けた時からずっと続いている。


 でも、そんなお兄様だからこそ心配もしているの。


 一体グラッドは、いつまで終わりの見えない旅を続けるのか。

 本当に呪いを解く方法はあるのか。


 もし、あらゆる手段を用いてもソレが見つからなかった場合。

 グラッドはどうなってしまうのか。

 

 彼はとても強いわ。

 真の意味で不死身であるあの人は、誰にも倒されない。

 けれどソレは肉体の話。


 肉体がどれだけ不滅だとしても、心は人間なの。

 百年も生きるのも希有な人間なの。


 本来、百年以上も旅を続けてられる精神的構造をしていない。

 それでずっと旅をしているのがスゴイの。とてもスゴイことなの。


 お兄様はそれがわかっている。

 だから、自分から言い出しはしないけど……グラッドが望むならこの城で、この場所で、一緒に暮らしてもいいって思ってる。


 少なくとも吸血鬼なら、人間よりもずっと寿命の長いワタシ達ならば。

 

 グラッドが見送ってきた人間達のように、すぐにお別れをするなんてことはないのだから。




「ルビィ様……本当にこのお召し物でよろしいのですか?」

「ええ。ちょ、ちょっと予想よりもスケスケだけど……これぐらいじゃないと意味がないもの」


「ダスカービル様に見られたら卒倒されますよ?」

「その時は目つぶしか、物理的に記憶を失わせるしかないわね……」


 お風呂から上がった後。

 ワタシは普段絶対に着ないような極薄のナイトローブに身を包んでいた。

 前々からロベリーと相談していた時に出た最終手段。か、身体を使ってグラッドを引きとめるを実行するために。


「一計を案じておいてアレですが。ここまでしなくても良いのでは……別の機会にすることだって出来ますし」

「ダメよ! だって、グラッドはもうすぐ居なくなっちゃうもの! また旅に出ちゃうんだから!」

「それは……」


 お兄様に告げていた言葉を、ワタシはその場にいた者から既に耳にしていた。

 なら、もう一刻の猶予もない。


 少しでも早く、どれだけ強引だとしても、ワタシは行動を起こさなければならない。

 そうしないと、グラッドがあのまま行っちゃう!


「ロベリー、何かアドバイスがあったら言ってちょうだい。ワタシなんでもやるから」

「る、ルビィ様がそ、そこまで……。わかりました、私でよければ幾らでも助言をいたします!」


「ありがとう、ロベリー」


 とは言っても、その場で念入りに打ち合わせした結果は。


 逃げられる前に迫るだけ。

 あとは抱きついてさえしまえば、グラッド様も所詮は男。


 理性なんか明後日の方向に吹き飛んで、ケダモノのように襲ってきます。そうなればこっちのもの、既成事実の完成。あとは煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。


 そんな、内心では『多分そうはならない……』と思うようなものだった。


 けど、それでもいい。

 ワタシがあの人に気持ちを伝えられる切っ掛けになるなら、それで良かったのだから。

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