お姫様との戯れ③-③:chu♪ーっとね

「あとは……サンドイッチがあるな」

「ワタシも同じ物を食べるわ。グラッドが頼んだ物を二人分で注文しましょ」

「じゃあそれで。あ、そこの店員さん。注文をしたいんだが」


 手近な女性店員を呼び止めて、欲しい物を口にしていく。


「このオススメサンドイッチを二人分と、スペシャルハートドリンクを頼めるか」

「はい! オススメサンドイッチふたつとスペシャルハートドリンクですね! このドリンクは二種類ありますが、どちらにされますか?」


「二種類をひとつずつ頼む」

「あら、おひとつずつですか? ありがとうございます、お二人はとっても仲良しさんなんですね!」

「……仲良し?」

「はい、それどころかラブラブに違いありません!」


 両手でハートマークを作った店員が満面の笑みで離れていく。

 一方で、謎のドリンクを頼んだだけで仲良しだのラブラブだの言われたオレは困惑していた。


「この辺の土地には二つのドリンクを頼むと仲良し扱いとか、そういう謂れがあるのか?」

「聴いたことないけど?」


 ルビィの反応からすると、オレの予想は違うようだ。

 その土地や文化によって不思議な謂れというものはザラにあるので、その一種かと思ったんだが。


 そして、その後テーブルに運ばれてきた物を目の当たりにして、オレは「うお!?」と驚くしかなかった。


「お待たせしました~。こちらご注文のスペシャルハートドリンク(赤)になりまーす!」


 でかい容器はテーブルに乗っただけで、ドーンと迫力がある。透明な容器は中身のジュース(?)で綺麗な赤色となり、果実やクリームで彩られたソレはドリンクというよりデザートだろう。


 そして何より変に感じたのは、くるくるクネクネと歪曲しているストローらしき物が二本刺さっていることだった。


「……なんで二本刺さってるんだ?」


「当店自慢のスペシャルハートドリンクは、お二人様で楽しむお飲み物になっておりますので」

「二人で楽しむ……? だから量が多いのか?」


「量が少なければ、せっかくの時間が短くなってしまいます」

「んんっ? つまりどういう――」

「ありがとう店員さん、もうお仕事に戻っていいわよ。引きとめてごめんね」


 割り込んできたルビィの言葉にうなずき、店員は「ごゆっくり~」と言い残して席を離れていく。

 

「で、なんなんだコレは」

「お二人様で楽しむ飲み物よ。もっと正確にはカップル用ね、これを二人で……い、一緒に飲むの!」


 一瞬恥ずかしそうに詰まったのは聞き間違いだろうか。

 というか一緒に飲むとは?


「ツッコミどころが多いが、まずどうやって飲むんだ?」

「もー、グラッドってば鈍感すぎない!? ストローが二本あるんだからそれで飲むに決まってるでしょ。それぞれが自分のストローを咥えて、ちゅ~~って」


「はぁッ!?」


 まったく頭に浮かんでいなかった飲み方を聞かされたショックで、つい大声で反応してしまい、周囲の視線がこっちを向くのを感じるがそれどころじゃない。


「おまっ、なんだその飲み方は!? 誰だよそんなとんでもなく恥ずかしいのを発案したのは!!」

「この店のメニューなんだから、この店の人でしょ。そんなことより、ほら。喉渇いちゃったからはやく飲みましょ♪」


「それを注文したのはルビィだからな。全部飲んでいいぞ」

「それじゃ意味ないの! グラッドと一緒に飲むからいいんじゃない」

「いや、しかしだな……」


 余りにも恥ずかしすぎる。

 他に誰もいないとかならまだしも、店内にはたくさんのお客も店員もいるわけで。人目が気になりすぎる。


「むしろココで飲まない方が目立つわよ。あー、あの男、可愛い女の子があんなにお願いしてるのに叶えてあげないなんてサイテーって思われちゃうわよ?」

「ぐっ!」


 それはそれで嫌だ。


「今日のデートはワタシのやりたい事を全部叶えてくれるんじゃなかったの? それとも、ワタシとこのドリンクを飲むのがそんなにイヤ?」

 

 じわっと、ルビィの紅玉色の瞳が潤み始める。

 だからそういうのはズルイというのに。


「ぐぅ…………」

「ぐらっどぉ……」←めちゃくちゃウルウルしている


「わかった、わかったよ! わかったからそんな目で見るなって!」

「えへへ、グラッドのそういうところも好きよ♪」


 オレはルビィの掌で転がされすぎじゃないだろうか。いや、この子はそこまで考えてというより、天然かもしれないが。


 観念してストローを咥える。

 そこで気付いたのだが、このストローを咥えるには通常の物よりも顔を前に出す必要があった。

 

 それがどういうことに繋がるかというと。


「はむっ」


 反対側のストローをルビィが咥えた際に、必然的に顔と顔の距離がとても近くなるのだ。

 なるほど、適当に考え出されただけではなく、しっかり工夫もされていると。


 だがしかし、心の中で叫ばずにはいられない。


 ありがた迷惑だよこの野郎!!


「ちゅ~~♪」


 ルビィは今更ながらに恥ずかしそうながらも、とても美味しそうにドリンクを飲んでいる。

 ここで悪あがきとして、ストローを咥えただけでジュースを吸わないという抵抗を思いついた。が、ルビィのストローを赤い液体が昇っていくのが見えて不可能だと悟る。


 こうれば大人しく飲むしかないわけで。

 一応、ジュース自体は甘酸っぱくて美味しくはあった。さぞ女の子には好みの味に違いない。


 だがオレ個人の感想としては、飲んでいる間は火吹きトカゲのファイヤーブレスを受け続けているかのように全身が熱くなって大変デンジャラスだったと言っておきたい。


「美味しいね♪」

「…………うん」


 にっこにこのルビィと協力してドリンクを飲みきった頃には、精神的に疲弊していた。だがまあ、よくやったぞグラッドと自分を讃えたい。

 

 オレはこの困難をなんとか乗り切ったのだと。


 そうやってやりきった感を満喫していると、


「遅くなって申し訳ございません。ご注文のサンドイッチと――」


 ドンッ、とテーブルの上に見覚えのありすぎるでっかい飲み物(青色)が置かれた。


「スペシャルハートドリンク(青)になりまーす♪」


「わー、今度のは真っ青ね! どんな味がするのかしら」


「……ははっ」


 同じ飲み物を別種で頼んでいたことを忘れていたオレの顔色は、さぞかしスペシャルハートドリンクに近かったに違いない。

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