キメラフレイムの謎とき動画:もう一つの雷獣対決②
闇堕ちした地雷系女子というキャッチーな設定を持っているという事もあり、那須野ミクに関するコメントはまだまだ続いた。もちろん、中の妖である源吾郎もコメントを投げていた。
『きゅうび:傾国の美女だったので、ミクちゃんはサークルクラッシャーでもあるんですよね☆』
『トリニキ:クラッシュしてるのはサークルじゃなくて男子の性癖だろ』
『ユッキー☆:その通り過ぎて草も生えない』
『絵描きつね:大妖怪の化身のダウングレードがえぐくて涙が出ますよ』
『おほほなみ:きゅうび君サークルクラッシャーだったの?(無邪気)』
『オカルト博士:むしろサークルビルダーだゾ』
「やっぱり皆さん、ミクさんについてかなり興味を持たれていますね」
「殺生石の化身で闇堕ちしていてサークルクラッシャーって属性てんこ盛りだもんね。それに那須野ミクさんって、あのあやかし学園の那須野監督と同一妖物って感じもしますし……」
途中まで言ってから、ミハルは小首をかしげた。今しがた那須野ミクとあやかし学園の那須野監督を同一視してしまったが、それで良いのかと思い直したからだ。
「那須野監督と今回登場した那須野ミクさんって同一妖物って事で良かったんですかね?」
『きゅうび:そうです』
『だいてんぐ:それならそれで、あの真面目なあやかし学園を手掛けた監督という性格と、闇堕ちした悪女という性格は矛盾する気がするんですが、そこんとこどうなんです?』
『月白五尾:だいてんぐ兄貴の迫真のツッコミは草』
『隙間女:心の隙間が……広がらないだと』
『きゅうび:作風と性格が必ずしも一致するわけでは無いってそれ一番言われてるから』
『りんりんどー:ぶっ飛んだギャグ漫画を描く人が常識人ってパターンもあるしね』
『トリニキ:それってまんまきゅうびに当てはまってるんだよなぁ』
『見習いアトラ:確かに』
『サンダー:つまりぶっ飛んだ那須野ミクの設定は芸風だったと』
『オカルト博士:それまぁきゅうびほどの妖力があってやりたい放題やってたら現世は地獄やで』
『だいてんぐ:その時は僕がお話するんで大丈夫です』
『ユッキー☆:ヒェッ……』
『絵描きつね:天狗こわいなー、とづまりすとこ』
闇堕ち系悪女キャラの那須野ミクが、何故あんな真面目なあやかし学園を手掛けたのか。その内容は謎に包まれたままである。
しかし、源吾郎が息抜きの戯れとして闇堕ち系悪女キャラを演じているのではないか、というトリニキの説には穂村たちも何となく納得できるものだった。
※
視聴者たちの活発なコメントが一段落したのを見計らい、穂村は今回の雷獣対決の説明を始めた。具体的には絵師であるハチミツキとユッキー☆の得意分野、そして評価スタイルなどである。
光希と雪羽。二人とも絵を描く事が趣味である事には変わりない。しかし互いに得意分野は異なっていた。
絵師としての光希はアナログ主義であり、おのれの手を動かすデッサンの研鑽に余念がないという。従って写実的な描写を得意とするそうだ。
一方の雪羽は、弟である穂村の目から見ても、それほどデッサンやスケッチに根を詰めている気配は見受けられなかった。但し雷獣目線でも恐ろしく器用な性質であり、直線でも曲線でも円弧でもフリーハンドで歪みなく描ける特技を具えていた。
ついでに言えば、色彩や物の配置の構図を考えるのも得意としているらしく、あやかし学園ではもっぱらストーリーではなくそちら方面に貢献していたそうだ。
また、評価スタイルに関しては、現世サイドでは源吾郎が、幽世サイドでは稲尾竜胆が審査員(?)的な役割を果たす事と相成った。源吾郎が審査員になっているのは、彼が(厳密には彼の変化した那須野ミクだが)モデルになっているからだ。
しかしながら、源吾郎のみが審査員では公平性に欠けると判断し、もう一人の審査員を、幽世サイドの妖怪に依頼したのだ。その審査員に選定されたのが、少年妖狐の稲尾竜胆という訳である。
『絵描きつね:本当は俺も審査員候補になっていたんやけどなぁ……』
『おもちもちにび:らゐかはしっとしんがまさっちゃうかもだからしかたないね』
『りんりんどー:むしろ可愛い女の子がモデルだから、評価が甘くなるんじゃない?』
邪神系妖狐にして絵師でもある蕾花はこの度審査員とならなかったのだが、その事についてサラッと触れるや否や、幽世サイドでコメントが寄せられた。
一方で、きゅうびもとい源吾郎もまたコメントを入れている。
『きゅうび:やっぱり那須野ミクがモデルなので、お二人がどんなイラストを描いてくださったのか楽しみです』
『ユッキー☆:楽しみて、ハチミツキ兄貴はさておき俺の絵は大体知ってるでしょ。今回のコンペで絵を描くのにモデルとして何度か召喚したんだからさぁ』
『絵描きつね:ミクちゃんを召喚だと!!? 裏山』
『トリニキ:やっぱりこいつら仲良しだってはっきりわかんだね』
『オカルト博士:きゅうびもまぁ……身内に芸術家がいるから大体解るんじゃない(適当)』
『サンダー:芸術の善し悪しって各個人の好みによるからなぁ……ままええか』
「あ、はい。そうですね」
サンダーこと大瀧蓮のコメントに気付いた穂村は、居住まいを正して応じる。
「サンダー兄貴の仰る通り、力較べや知恵較べと違って、芸術って好みの問題ですし、正しいかどうかって無いんですよね。だからまぁ……審査員のお二人とか僕たちが評価するって言うのは結局の所好みの問題になるかもですね。それも込みで楽しんでいただければと思います」
「楽しむで思い出したけれど、ハチミツキさんもユッキー☆さんも、評価用のガチイラストの他に、ちょっとしたネタイラストも描いてくださっていました。最後にそちらも楽しむ形でどうぞ」
ネタイラストもある。ミハルの言葉は大いに受けたらしく、コメント欄がまたしてもにわかに沸き立ったのだった。
※
「――それでは絵の紹介にうつりましょう。まずはハチミツキさんのイラストです。タイトルは『まぼろしの神使・那須野ミク』です」
紹介の後、画面からキメラとサニーのアバターが姿を消した。その代わりに現れたのが一枚の絵である。
濃紺の闇、藍色の鳥居と青白い月光を背景に、那須野ミクが佇立するという構図のイラストだった。現世ではお目にかからぬであろう藍色の鳥居という組み合わせは、しかし神使の意味が解る者たちにはすぐに幽世が舞台である事は明らかであろう。
那須野ミク自体もまた、先程の写真より若干のアレンジが成されていた。細やかな装飾の多い衣裳はそのままであるが、そこから更に装飾品の類が付け加えられていたのである。白狐の面を斜めにかぶり、右手には巨大な筆を携え、更に左肩には大鷲ほどの大きさの鳥が止まろうとしている最中であった。
このイラストが映し出されてから三十秒ほど経ったところで、穂村たちが解説を入れる。
「――はい。早速クォリティの高いイラストがやってきましたね。那須野さんはもちろんの事、バックの幽世の風景も、とても美しく幻想的に描かれてあります。
ハチミツキさんによりますと、『もしもきゅうび君、もといミクちゃんが神使だったらこんな感じだろうと思って描きました』との事です。
さて皆さん、如何でしょうか?」
『きゅうび:めっちゃええやん! ミクちゃんがめっちゃ美人に描かれてるし \2000』
『トリニキ:あのスパチャはナニ?』
『隙間女:しれっと正体ばれてて草』
『ユッキー☆:視聴者は皆ミクの正体は知ってるってそれ一番言われてるから』
『ハチミツキ:正体はさておき、ミクさんも神使だったら強そうだなーって思ったんすよ』
「確かに、ミクさんはお強いでしょうね。弱冠二十五にして既に四尾ですし」
描き手である光希の言葉に、穂村たちは素直に頷いた。源吾郎の、妖怪としての強さは穂村たちも十分に知っていたからである。四尾という尾の数は既に中級妖怪クラスであり、何となれば穂村たちの父よりも上回っているほどだ。
実際問題、三尾で神童とも呼ばれている雪羽とも、戦闘訓練ではほぼ互角の闘いぶりを見せる事もあるくらいなのだから、その実力たるや恐るべきものである。
『月白五尾:きゅうび君は実際に魍魎を斃した実績もあるもんね。だけど武器は筆なんだ』
『だいてんぐ:アレは彼の体毛を使った筆ですねぇ』
『見習いアトラ:あの筆で描いた妖怪を召喚して使い魔にするんやろうなぁ』
『トリニキ:敵の筆調べを妨害するんやろう』
『ハチミツキ:どうなんだろうなー。でもさ、ミクちゃんは現実を改竄する程度の能力があるって教えてもらったんよ』
現実を改竄する程度の能力。光希はサラッと口にしただけであるが、穂村たちも視聴者たちも驚くには十分すぎるインパクトを持っていた。
『ユッキー☆:現実を改竄するだとォ! ミクニキの能力強すぎィ!』
『絵描きつね:ワイだってあらゆるものを分解する能力持ちやし、殺生石の化身だったらそんな能力があってもおかしないやろ』
『オカルト博士:もちつけ皆! 中の
『きゅうび:そうそう。あくまでもミクちゃんが持ってる能力なので、僕とは関係ないです。しかも現実改竄は等価交換プラスアルファの代償が必要なので、そう易々とは使えないんですよ』
『トリニキ:きゅうび君めっちゃ早口で言ってそう』
「等価交換プラスアルファ、とは……?」
ミハルが興味深そうに首を傾げる。すると源吾郎から更にコメントが投げられた。
『きゅうび:改竄した出来事と同等以上の損失を背負わなければならないという事です。百円の得をしようとしたら、百十円の損失でもって埋め合わせないといけないんです。もちろん、改竄しようとした出来事が大きければ大きいほど、代償も大きくなるわけでして……』
『見習いアトラ:めっちゃ詳しい解説が飛んできて草』
『隙間女:これ本当に創作なの?』
『きゅうび:あ、あくまでも那須野ミクの設定だから……(汗)』
『おもちもちにび:みんな、これはたんなるせっていだよ』
『よるは:私もにびちゃんの考えに一票。きゅうび君は創作が好きだから』
『しろいきゅうび:娘とよるはがそう言うのならそうしておこうか』
『だいてんぐ:実際にそんな能力を持っていたら、上司からその事を話せないようにしているはずですし。なので創作です』
『隠神刑部:ミクちゃんの設定についてはこの辺りにしておきましょ』
隠神刑部もとい伊予さんの言葉により、那須野ミクの現実改竄能力の言及については一旦お開きとなった。
穂村はしかし、当たり障りのない話を続けながらも、那須野ミクに付与されているという現実改竄能力についてあれこれ考えを巡らせていた。表向きは虚構の存在である那須野ミクに付与されたものであるという事だが、実は源吾郎自身にそんな能力があるのではないか、と。
しかしそうした考えも、すぐに視聴者たちのコメントと共に流れていった。元より源吾郎がそんな能力を行使するのであれば、それこそ雪羽から、穂村たちに何か連絡があるだろうと思い直したのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます