第16話 アナライズ

『あら、男の子にしては随分と可愛いらしい趣味をお持ちのようね』


 その言葉を受け、画面の中の可愛らしい少女は顔を真っ赤にする。すぐさま光に包まれ、一瞬でSFスーツな姿に変身おきがえした。ほんの数秒しか画面に映らなかったものの、カメラアングルとカット構成のおかげかで直前まで着用していた衣装が鮮明に記憶に残る。効果的な演出だった。


(……たしか傍から見る分にはにかわいい)


 てんは自室のベッドで横になりながら、自身のオースバンドに記録された配信履歴を流し見していた。これは暇つぶしというわけではなく、れっきとした調査。

 この世界の仕組みは説明だけではわからないことが多い。ある程度スターマイスをやり込んでいたかの予備知識も必要なうえ、そこから実際に自身で触れたり調べたりといった事が非常に重要だ。

 ウィンネスが言うには創世神メクロムが面白がって作った要素らしいのだが、様々な部分をゲーム仕立てにしているのならその一つ一つが攻略に関わる要素であることは間違いない。仕様の把握をしておかないとそれによって起こる問題に対処できないし、そもそも気づけなくなってしまう。


(カットされてる部分結構ある気がする)


 説明通り、全てが映っている訳ではなかった。そしてそれは今後、自身の意志でも行える。オースバンドに一時的に配信を停止する機能が追加されており、操作すれば短時間ではあるが配信を遮断できるようだ。ただ、戦闘中は強制的に配信状態になるようだ。


(話してる内容が記憶と全く違う部分もある……)


 会話の内容や発言がまるっと改変されているシーンも多い。基本的にエンタメとして処理されていて、この世界に連れてこられた際の会話、ルール説明、そういった部分は記憶と全く違う、自分たちがした覚えのない会話に差し替えられていた。他にもいわゆるメタな会話等、部分的に消されていたり差し替えられたりしている。

 しかし驚くべきことにどれも「言った覚えがないけど言いそう」な内容だ。どういった仕組みで検閲、編集がなされてるのか不明だが仮に人の手だったとしたら凄まじい有能、いや神編集者だろう。


(たぶんこれは……そういうことなのかな)


 画面右上には「■■■■■■■■■■■■」のような表示が流れるように表示されている。右下には数字、そして時折画面中ほどに現れる宝石のようなアイコン。

 恐らく、細かな内容の表示こそされていないがそれぞれは視聴者のコメント、その時の登録者数、そして投げ銭が行われたことを表すアイコンなのだろうとてんは捉えた。

 

 コメントの文面を見ることは叶わないが、コメントが流れているタイミングと量は把握できる。登録者の数字も伸びているタイミングがある程度探れる。投げ銭が送られてきた瞬間を見れば、どんなシーンで視聴者がそれを行ったのかの判断もできる。細かいデータや統計が出るわけではないため分析するための材料としては大雑把で最低限だがそれでも役には立つ。


 登録者が増えれば力になる。この言葉をその通りで捉えるなら要は経験値のようなものだ。登録者数が増えれば増える程、能力値に補正がかかり強くなれる。それならそう意識した行動も必要になってくる。


(普通に配信してたときよりもさらに、見られるのを意識しなきゃ……ってことだよね)


 何気ないシーンと戦闘の部分では明らかに画面表示の反応が違った。だがそこだけではない。てんとウィンネス、おやつが姦しい様子を見せているシーンではコメントや登録者変動の流れが激しく、件のシャワーの部分もコメントが滝のように流れ宝石が何度か画面に現れている。


(戦ってるとこと同じくらい……もしかしたらそれよりウケてる部分がある)


 ブリッジで公開された件もそうだが視聴者にもこれが見られているという事実。大きくため息を付いて枕に顔を埋める。


(やっぱりちょっとお尻映ってるし)


 本来の自分の姿ではないものの、不特定多数に臀部が晒されたという事に羞恥心と腹立ちの入り混じった感情。しかしそれだけではない複雑な気持ちもある。


(ひょっとしたらこういうの意識的に見せてかないといけないのかもしれないな……)


 身を削ればその分力になる。元々配信業はどれだけ自分という存在と時間を捧げられるかが成功までの第一条件だ。てんもある程度はそこで活動してきたし、頭では理解できる。


「うぅ~~~~!」


 わかってはいる。わかってはいるが、簡単に割り切って振る舞えるようになるにはまだ役者としての経験や覚悟が足りなかった。顔を埋めたまま枕を両手でぼふぼふと殴りつける。これは一旦別のことを考えたほうが良さそうだ。

 

 ベッドから起き上がると机に備え付けられているコンピューターを操作してみる。これも表示される内容は全て読み取れる。ウィンネス曰く、宣誓者は皆この世界での会話、読み書きに困らないよう無意識のうちに翻訳される能力が与えられているそうだ。これはこの世界の中に存在するすべてのものが対象となるそうで、仮に元いた世界で別の言葉を使っていた人間。簡単に言えば海外ストリーマーとこの先に出会った場合でも適応される。それぞれ違和感なく会話ができてしまうのだ。


 コンピューターに保存されているデータをざっと確認してみると乗艦であるナローアレイに関する情報はもちろんのこと、オフラインアーカイブにはなるが結構な量の世界情勢やニュース、星系や惑星の情報などが閲覧できる。今後は隙があればこれを漁るのにも時間を割いたほうがいいだろう。


 得てしてMMORPGというものは知識や情報が非常に強力な武器となるのだから。

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