追放女神の魂は、生まれ変わって高校生活を謳歌します!~前世は岩長姫だと気付いたから、今度こそ幸せな恋がしたい~

長月そら葉

第1章 前世からの縁

日常は続かない

第1話 いつもの朝

 ――わたくしも、あののように可愛らしい見た目をしていれば愛されたのだろうか。一度で良い。誰かに心から愛されたかった。



 何度も何度も、幼い頃から繰り返し見た夢がある。小学生くらいまでは、同じ夢を見ても怖かったという印象だけが残って内容は一切覚えていなかった。何度か怖いと母親に泣きついたことはあるが、何故、何が怖かったのかを説明することは難しかった。

 しかし、中学生、高校生となるにつれて記憶は鮮明に残るようになる。岩永星南いわながせなは、その日も同じ夢を見て目を覚ました。

 目覚まし時計代わりのスマートフォンの電源を入れ、時刻を確認して枕に突っ伏す。目覚ましをかけているのは、午前六時半。現在、五時半。


「……まだ六時前? 最近、おんなじ夢を見る回数が増えてる気がするな」


 スマートフォンを枕の横に置き、うーんと伸びをする。これから後三十分二度寝をしようかとも考えたが、寝坊する気しかしない。


「……ごろごろしてよ」


 自分の体温で温まった布団にくるまっているのは、至福の時間だ。星南はSNSを漁りながら、目覚ましをセットした時間までのんびりと過ごした。

 そして、アラームが鳴れば家全体が少し騒がしくなっていく。星南も顔を洗って高校の制服に着替え、居間へと移動した。


「おはよう」

「おはよう、星南。ご飯食べちゃってね」

「はぁい」


 居間とキッチンは繋がっており、キッチンからは母親の声が飛んでくる。テーブルを見れば、サラダと目玉焼き、そして食パン用の平皿が家族四人分置かれていた。

 星南の家は、両親と姉妹の四人家族。星南の一つ下に妹がいる。

 その妹、光理みつりは一足先にトーストにかぶりついていた。


「お姉ちゃん、おはよう」

「おはよう、光理。……今日もばっちりだね」

「ん? ありがと」


 星南が烏色の髪をそのまま流しているのとは反対に、光理は校則ギリギリの暗い茶色に染めた髪をハーフアップにしてかわいらしいピンクのシュシュをつけている。更に、同様に校則ギリギリを攻めるメイクも彼女の愛らしさを際立たせていた。


「みんな、私に注目してるもん! かわいくないとね」

「そうだね。光理は可愛すぎるわたしの妹だよ」

「当然! ――ごちそうさまでした」


 姉に褒められ得意げに胸を張った光理は、食器をシンクに持っていくと素早く諸々の支度を終わらせて玄関へ向かう。テニス部の朝練があるのだと言った。

 妹の「いってきます」を聞きながら、星南も焼いた食パンにバターとイチゴジャムをぬってかぶりつく。パリッとした表面とふんわりした中身とのコントラストがおいしい。

 ちらりと食卓を見ると、母親が向かいの席でサラダを食べている。その隣は空席のままだ。


「お父さんは?」

「お勤めをしてから来ると思うわよ。小さいとはいえ、神様をお祀りしていますからね」

「そうだね」


 星南と光理の父は、町の小さな神社で働いている。神主の次席を担っているらしいが、本人があまり話さないために深くは知らない。

 星南は時間になるまで母親の片づけを手伝い、高校へ行くために玄関を出た。


「――行ってきます」

「いってらっしゃい、気を付けてね」


 母に見送られ、星南は駅への道を歩いて行く。

 星南と光理の通う高校は、県内でも進学校として有名だ。更にスポーツにも力を入れ、特待生制度なども充実している。

 電車に乗り、降りて道を一人で歩く。星南は何となく夜に見た夢について思いをはせた。


「あの夢、一体何なんだろ……」

「変な夢でも見たのか?」

「わっ!?」


 突然視界に現れたクラスメイトに、星南は驚き声を上げる。すると相手は「でっかい声だな」と笑いながら距離を取ってくれた。


「驚かさないでよ、藤高くん」

「そんなに驚くとは思わなかったんだよ、岩永。ところで、妹は?」

「光理なら、部活の朝練。男子は違ったの?」

「俺たちのはもう終わってるよ。……じゃあ、女子テニス部を覗いてから来ればよかったか」


 至極残念そうに言うのは、藤高鷹良ふじたかたかよし。男子テニス部部長であり、眉目秀麗文武両道のイケメンだ。しかも誰にでも分け隔てなく接するため、王子とも呼ばれる。

 そんな鷹良だが、星南に声をかけるのには理由がある。


(藤高くん、光理のことが好きだからな。全く、美男美女で付き合えばいいのに)


 学校一のイケメンと美少女。誰もが納得しそうな組み合わせにもかかわらず、まだ実現してはいない。ただ鷹良のアピール不足だろうと星南は考えているが。

 部室に一度戻るという鷹良と別れ、星南は自分の教室へと向かう。二年生の教室は校舎の二階にあり、星南のクラスは二階の端に位置している。

 開いていた後ろのドアから入り、自分の席まで歩く。窓際の端の席は、目立たない自分にとってぴったりだと星南は思っている。

 しかし、そんな星南に声をかけてくる生徒が一人いた。後ろの席の佐野森陽さのもりはるだ。


「おはよ」

「おはよう、佐野森くん」

「……」


 会話はそれ以上続かない。しかし、いつものことだ。

 佐野森陽は、寡黙で表情が乏しい。名前負けだと入学当初にはからかう者もいたが、それを完全に無視し続けた結果、からかう者はいなくなった。無表情に見えるため、女子からも怖がられがちだ。

 しかし、何故か星南には挨拶をしてくれるし返してくれもする。同じ図書委員で、一緒に行動することが比較的多いせいかもしれない。


「おはよっ、せな!」

「おはよう、爽子そうこちゃん」


 カバンからテキスト類を取り出していた星南の前の席に座って体を彼女の方に向けたのは、クラスメイトで友人の阪西爽子さかにしそうこだ。ショートボブの髪は彼女が動く度にぴょんぴょんと跳ね、明るくパワフルな性格を暗示する。

 爽子は星南の一番の友だちであり、良き理解者でもあった。大人しい性格の星南と、元気の良い爽子。反対の性格だが、だからこそ合うのかもしれない。


「せな、放課後空いてる? 近くにおいしいクレープ屋さんが出来たんだって! 食べに行こうよ。というか、連れて行く!」

「最初から拒否権なしなのね」

「勿論!」


 苦笑いを浮かべる星南にウインクしてみせた爽子が、スマートフォンを取り出してそのクレープ店の公式サイトを見せてくれる。それを覗きながら、星南は「一応言っとくけど」と前置きした。


「ホームルーム始まったら、スマホ禁止だよ?」

「大丈夫大丈夫、すぐ仕舞うから!」


 その数分後、チャイムが鳴る。チャイムとほぼ同時に担任教師が入って来て、皆急いで自分の席へと戻った。

 爽子はギリギリスマートフォンを鞄に仕舞えたらしい。星南はほっとして、先生の話に耳を傾けた。

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