第4話 ウリ(お題:旅)
いらっしゃい、ロードサイドダイナーへようこそ。お客さん、この店は初めてかい。時間の許す限りゆっくりしていきな。といっても話し相手は首しかない俺だけで、料理ったってココが出せるのはオムレツとソーセージだけだが、それで十分だって他の客は言ってくれる。旅の相棒はいないか寝てるかっていうのに他の車とすれ違うこともほとんどない、店もなんにもない(ここ以外、な)ただひたすらまっすぐ走れるだけの道だからな。そこに一軒店がありゃあ、立ち寄りたくなるってもんだ。料理は選べないがコーヒーは何杯だって飲んでいけるし、何時間ぶりかの話し相手がつかまる。ご覧の通りの首だけでいいってんなら、いくらでも話していきな。
「首だけなのによくしゃべるから驚いたでしょ」
店のドアも口も開け放したままの女に、ココは呆れた表情で笑いかけた。ドアが閉まったとき彼女は中にいたので、客になった。大きな窓の向こうにキャンピングカーが見える。
「はい、コーヒーどうぞ」
首だけの彼から少し離れた位置を選んで座った。
「私、疲れてるのかしら」
「運転で疲れてるのは確かでしょうけど、彼が首だけしかないのは現実よ。ふしぎなことに」
ココが自分のカップでコーヒーを啜ると、女も同じように口をつけた。カップを置いてココと手元を交互に見る。そしてちらりと横に視線を投げてから、意を決したように疑問を口にした。
「彼は、その、どうしてああなの?」
「さあ。私はなにも知らないの。レイがいつから首だけなのか、首だけじゃない頃があったのか。なんにも。名前だって知らない」
俺に直接聞いてくれればいいのに、という声は黙殺された。
「名前? だっていま、レイって」
ああ、ココはそう呼んでる。
「みんな好きなように呼んでるだけで、彼から教えられた名前じゃないから。私も一番気に入ってる名前はどれ、って訊ねたらレイだって言うから、じゃあって」
いまはアーロンが気に入ってるな。
ココは後頭部を睨めつけながら「今さら変えないからね」と言葉を返す。
「じゃあ、あなたのココっていうのも彼だけの呼び名なの?」
「いいえ。私はココ。誰が呼ぶのもココ。あなたは?」
――私は、カマラよ。
そう告げた彼女はコーヒーを半分も飲まずに店を後にした。
「いままでいろんなところを旅してきたけど、首だけの人に会ったのは初めてだってさ」
狭い店内で他に客もいないなかでの会話だ。聞こえていないはずもない会話を取り出して、教えるように言う。
「そうであってほしいね。ロードサイドダイナーはそれがウリなんだ」
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