第8話 成績と進学


 俺は進路調査のプリントに地元の普通高校のさいたま高校と滑り止めにうちから近い私立の×◇高校の名まえを書いておいた。


 親に何も相談してはいないが、順当な選択なので何か言われることもないだろう。


 そうこうしていたら、俺のスマホが震えた。

 10年ぶりの感覚にちょっとドキッとした。

 見れば結菜からだ。

 俺の記憶では中学に入って結菜から電話など一度もなかったはず。


『わたし』

「なに?」

『ちょっと相談があって電話したの』

「俺に?」

『そう』

「言ってみろよ」

『えーと。……』


 言いにくそうにしているのは分かるが、自分から電話しておいて何なんだ?

『あのね。相談というのは、……』

 それほど言いにくいことって何だ?


『えーと、進路のこと。

 一郎はなんて書いたの?』


 俺がどこに行くことが結菜にどういった関係があるのか分からないが、隠す必要もない。

「俺はさいたま高校と、×◇高校にしておいた」

『そうなんだ。

 さいたま高校って男子校よね?』

「そうだったと思うが、それがどうした?

 おまえはさいたま女子じゃなかったのか?」

『わたしは共学の▽×高校にしようと思ってた』

「それはそれでいいんじゃないか」

『えっ? それだけ?』

「いや、おまえの進路はおまえの進路だろ?」


 何が言いたいんだ?

『わかった。じゃあいい。

 さよなら』

 それで電話はきれた。


 一体何だったんだ?




 翌朝も俺は早くに家を出た。

 どうも明るくなると目が覚める癖がついているようで今の季節早くに目が覚める。

 母さんは俺の早起きを喜んでくれているので、これからもこのスタイルでいこう。


 今日は登校途中結菜に会うこともなく登校した。

 だれもいない教室に入って見回したら結菜の机の脇にはカバンが下がっていた。

 結菜はもう学校に来ているようだ。

 テニス、熱心だなー。

 受験勉強やってるんだろうか?


 かくいう俺はまだ受験勉強らしいことは一切していないけれど、何とかなると思ってるんだよな。

 俺の頭、勇者補正ですごくよくなってるみたいだから。


 今の俺の身体能力は勇者の時と比べどの程度低下しているのかは定かではないが、結菜とテニスをしても負けることはないと思う。

 結菜に限らず、誰とどんなスポーツで競っても負ける気はしない。

 こういってはあれだが、所詮スポーツは真剣勝負の殺し合いじゃないしな。

 あんまり上から目線は良くないが、口に出さなければ内面の自由だからセーフ。


 席に座って窓からうすぼんやりとした青空を見ながらそんなのとを考えていたら、クラスメイト達が登校してきた。


「おはよう」

「ちーす」

「おす」


「おはよう」


 俺も口だけだけど一々そいつらに「おはよう」のあいさつを返していった。


 ホームルームの時間に進路調査のプリントを先生に提出したぐらいでその日も何事もなく一日が終わり、帰宅部の俺は掃除当番が終わったらさっさと教室を後にしてうちに帰っていった。


 宿題はあったが、実際俺の頭は相当よくなっているようで、サクッと宿題を終わらせることができた。

 何だか期末テストが待ち遠しくなってきた。

 今までにない余裕の感覚だ。

 学校の強者トップクラス連中も待ち遠しく思っているのだろうか?


 夕食を食べ終えてしばらくしたら父さんが出張から帰ってきた。

 風呂から上がった父さんが遅い夕食を食べていたので向かいに座った。

 進路のことを話しておくためだ。


「父さんお帰りなさい」

「おう。ただいま」

「俺の進路のことなんだけど」

「おう」

「さいたま高校と滑り止めに私立の×◇高校の二つを受けようと思ってるんだ。

 いいかな?」

「お前が決めたんならそれでいい。

 さいたま高校は進学校なんだろ?

 お前のことだからダンジョン高校に行きたいなんて言い出すのかと父さんは思ってたんだがな。

 頑張れよ」

「うん」

 父親ってそんなものだよな。


 父さんの思ってた通り俺がダンジョン高校に行きたいと言ったら父さんは何て言ったのかちょっと興味があったけど、聞いたところで何がどうなるわけでもないので聞かないでおいた。

 息子ってそんなものだよな。



 翌日。


 昼食の後の休み時間と放課後に分けて担任の前川先生にひとりずつ呼ばれ進路調査について話があった。

 ひとりだいたい5分程度。

 簡単な一言だけだ。


 俺は思った通り今のままの成績ではさいたま高校は厳しいのでワンランク下げないかと言われた。

「相当頑張らないといけないぞ」

「はい。期末テストでいい点出して先生を驚かせますから見ててください」

「本当だろうな?」

「悪すぎてびっくりさせるんじゃなくて良すぎてびっくりさせますから。

 そのときは内申書にいいこと書いてくださいよ」

「ああ、もちろんだ。

 だけど、成績が悪ければ良くは書けないからな」

「当然です」


 自分にプレッシャーをかける意味でも先生の前で大口をたたいておいた。

 ビッグマウスにだけはならないからな!



 それから2週間ほどして1学期の期末テストがあった。

 どれも簡単だった。

 テストが終わり授業が2日ほどありそこでテストが全部返ってきた。

 国語が98点で、あと数学、英語、理科、社会は全部100点だった。


 最後の授業の放課後、俺は前川先生から生徒指導室に来るよう呼ばれた。

「長谷川。お前どうしたんだ?

 よそのクラスの成績は全部は分からないが、少なくとも長谷川がうちのクラスで文句なしのトップだった。俺の理科のテストで満点は学年で長谷川ともう2人だけだった。

 一体どういうふうな勉強してたんだ?

 長谷川は塾に行ってなかったと思ったが、塾に行き始めたのか?」


「塾には行ってません。

 なんだか、頭がよくなったみたいなんですよね」

「確かに頭がよくなったとは思うが、そんなことがあるのかねー。

 まあ、長谷川が実例だし、そういったこともあるんだろうな。

 とにかくこの調子で頑張ってくれ。

 このまま2学期を終えれば、長谷川の第一志望のさいたま高校は確実だ」

「ありがとうございます」

 俺はニヘラ笑いして生徒指導室を出て教室に戻り、荷物を持ってうちに帰った。


 今のところ報われたとまでは言えないが、少なくとも10年間の苦労は無駄じゃなかった。



[あとがき]

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