第3話 初戦闘
ステータスについての理解を深めたトモヤは、今度こそルガールに向かうべく歩行を再開させる。
それから数時間後、さらに日が沈み始めたころ、とうとうトモヤは魔物と初邂逅することとなった。
「グルルゥ!」
「――――ッ」
辺りに木々が増え、時刻も相まって視界が不鮮明になってきた頃、鋭い灰色の毛並みを携えた狼型の魔物がトモヤの目の前に現れる。
それも一匹だけでなく十匹弱、正確には八匹だ。どんな魔物か知りたいの望むと、自動的に鑑定が発動する。
《グレイウルフ》、Cランク下位指定の魔物。
群れで現れた際はCランク中位にまで強さは跳ね上がるとのことだ。
「初めての相手としたら、ちょうどいいか」
Cランクという強さがどの程度を指すのか、トモヤはこれまで読んできたネット小説の知識から察することが出来た。おそらく中級冒険者の狩猟対象程度、この魔物達を倒すのにどれだけの力が必要か分かれば今後の参考になると考えた。
ステータスを意識し、敏捷と攻撃を通常状態の数倍程度高める。防御は念のため最大のままにしておく。改変を終えほっと息ついた瞬間、その隙を狙うように三匹のグレイウルフが三方向から跳んでくる。
動き自体は目で追える。すっと身を滑らせ立ち位置を変えると、先程までトモヤのいた場所で三匹のグレイウルフが頭を合わせる。なんとも無様な光景だ。
「ガルゥッ!」
「っ、ふん!」
「グギャァ!?」
その光景を眺めていたトモヤの後方から一匹のグレイウルフが跳んでくるのを確認すると、振り向きざまに拳をその大きな顔面に浴びせる。
どっしりと減り込んだ後、グレイウルフの体は勢いよく吹き飛ぶ。そのまま背中から木にぶつかるが、何事もなかったかのように体勢を整える。
(この程度じゃダメージを与えられないか……なら!)
「さらに10倍!」
敏捷と攻撃を再び高める。するとトモヤにはグレイウルフの動きが先程以上に鈍く見えた。
グレイウルフ達も三匹がかりで敵わなかったからか、今度は八匹全部でタイミングを計っていた。一斉にではなく時間をずらせて攻撃を仕掛けてくる。次々と襲い掛かり隙を生み出すつもりなのだろう。
だが、その作戦が上手くいくことはなかった。
最初の強化から合わせて数十倍にまで攻撃力の高められたトモヤの拳は、一発で一匹ずつグレイウルフを葬っていったからだ。
顔面が弾け、胴体に穴が開き、四肢は吹き飛ぶ。
その結果にはトモヤ自身驚いていた。
「Cランクの魔物って、この程度で倒せるのか。もう少し粘るかと思ってた」
呟きながら四匹目を倒し終えると、残りの四匹は勝ち目がないと悟ったのか一斉に街道沿いを駆け逃げていく。
「逃げたか……まあ戦いを経験することはできたし、別に追う必要は……ん?」
トモヤはふと気づいた。逃げ出していったグレイウルフだが、ただ逃げているようには見えなかった。
なぜならグレイウルフは木々の隙間に姿を隠すのではなく、今もなおトモヤから見える状態で街道沿いを走っているのだ。まるでその先に他の目的があるかのように。
この先に何かあるのだろうか。見たい、そう願うと脳裏に文字が浮かぶ。
――――千里眼Lv∞を発動します。
すると、トモヤの視力が一気に上がり数キロ先まで視界が明瞭になる。不思議と気持ち悪さは感じなかった。
その先に見えたのは一つの幌馬車。
御者台には燕尾服を着た男性、荷台からは金髪の少女が顔と手を出している。
馬車を囲んでいるのはなんとグレイウルフの群れだった。数は二十にも及ぶだろうか。そしてその中には、他のグレイウルフとは一線を画した大きさの魔物がいた。
自動的に鑑定が発動する。
《キンググレイウルフ》、Bランク下位、グレイウルフの上位種。
見るからに、そして鑑定の結果からもその魔物が強力であることがトモヤに分かった。
「難しい話は後だ。とりあえず助けないと」
人側が苦戦していることはトモヤの目にも明らかだった。
助けようと思い、力強く地面を蹴り駆け出す。――想像以上の速度が出る。敏捷を数十倍にしていることをトモヤはそこで思い出した。
通り様に、おそらく向こうと合流しようとしているであろう四匹のグレイウルフを叩き潰し、弾丸のような速度で走る。
数キロ先に辿り着くまでになんと一分もかからなかった。
「お嬢様は自分の身をお守りください! 私は魔法ではなく剣で戦います!」
「駄目ですルース! 自分を犠牲にしようとしないでください! もう少し粘ればきっと勝機が――え?」
「なっ、貴方はいったい……」
どうやら結構な危機的状況にあったらしい二人の前にトモヤが辿り着くと、二人は驚愕を顔に張り付けていた。トモヤが何者か分からず戸惑っているようだ。
「詳しい説明は後だ! とりあえずこいつらを倒す! 俺達の獲物だったのにとかいう文句は聞かん!」
二人に応対している暇はないと叫びながら、トモヤは構えを取る。
グレイウルフ達は突然現れた男に戸惑いながらも、一人程度なら問題はないと言わんばかりに唸りを上げる。
「ガルゥ!」
「ルガァァ!」
「――危ない!」
襲い掛かるグレイウルフを見て、荷台にいる少女が叫ぶ。だが、トモヤは焦ることなく一匹ずつ殴り倒していく。二十匹いたグレイウルフは瞬く間に壊滅する。残るはキンググレイウルフのみ。トモヤには今の状態で倒せるかどうか判断がつかなかった。
「念のため、もう10倍!」
「グラァァァアアアアア」
あっという間に通常状態の数百倍と化した拳は、一切の抵抗なくキンググレイウルフの体を貫いた。有り余ったパワーはそのままその体を爆散させる。破片が辺りに散らばっていく。
「す、すごい……」
「勝ったのか、あのキンググレイウルフに……」
その光景を見た二人は、目の前の出来事を信じられないかのように目を丸くしながら、称賛の言葉を呟いていた。
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