【完結】婚約破棄されたから静かに過ごしたかったけど無理でした

かんな

第1話 『婚約破棄』

「カトリーヌ・エルノー!お前に婚約破棄を言い渡す!!」



いきなり呼び出されたかと思いきや、そんな言葉を投げかけられた。相手は私の婚約者でもある第一王子のレオナルド・オルコット様。

そして彼の隣にいるのは、金髪碧眼の少女――マリー・アルメイダ令嬢だった。



マリー様は涙目になりながら私を見つめている。……まるで『この女に虐められたんです!』と言っているかのように。

しかし私はそんなマリー様を無視して、レオナルド様に問いかけた。



「……理由をお聞かせ願えますか?」



すると彼は待ってましたとばかりに、高らかに叫んだ。



「理由は一つだ!!マリーを階段から突き落としただろう?」



何の話をしているのか全くわからない。そもそも私がやったという証拠はあるのだろうか。階段ですれ違ったことはあるが、その時にぶつかったりなどした覚えもない。それに、マリー様とは廊下ですれ違うことはあれど会話をしたこともないのだ。



だから、私は言った。

まず、マリー様を突き飛ばしたことはないと。それから、マリー様とすれ違ったことはあれど、彼女が転んだところを見たことがないとも。



すると今度はマリー様が反論してきた。

曰く、私は階段から突き落とされたことがある、と。

けれどそれはありえないし。



「違います」



きっぱりと否定すればマリー様は顔を青ざめさせたが、



「どんだけシラを切るつもりだよ!」



レオナルド様は聞く耳を持たないらしい。……面倒くさいことになったものだ。

思わずため息が出そうになるのを堪えて、私はまた口を開く。



「あー、もういいです。私やってないですけど、もういいです。婚約破棄を受け入れましょう」



諦めの境地に達した。こんなのどうせ言っても聞かないし。

そもそもこの婚約だって親同士が勝手に決めたもので、そこに愛があるわけでもない。むしろ政略結婚なのだから、あっちが婚約破棄したいと言うのなら私は従うまでだ。



「…そうか。ならばさっそく準備をするぞ」



レオナルド様の言葉を受けてマリー様は完全に見下した視線で私を見て、彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

……ああ、なんて面倒くさいことになったんだろう。

そう心の中で呟きながら、私はその場を後にしたのだった――。

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