クスノキの下で、逢いましょう。

三浦 彩緒(あお)

一杯目 紗羽と陽太

――――紗羽さわ

 

 もう少し早く、勇気を出していたら、

 もう少し長く、一緒に居られただろうか…


 あの日、別の選択をしていたら、

 ほんの少しだけでも、

 運命は、変わっていただろうか…



ピピピピ、ピピピピ、ピピピ―――――

 

 目覚ましのアラームが、朝を告げる。

 気怠い身体を何とか起こし、寝室のカーテンを開けると、呆れるほどの秋晴れの光が、部屋一杯に広がる。

 キッチンで珈琲を入れる準備をし、テレビの電源を入れると、ランキング順に、芸能人の結婚発表や暗いニュースが、アナウンサーの口から次々と発せられている。ニュースの内容によって、アナウンサーの表情や声のトーンなどが変化し、感情表現が豊かで、プロ、なんだと思う。

 でも、このニ年近く、私は、空虚感に苛まれている――――

 電気ケトルでは、お湯が湧く音が大きくなり始め、あっという間にレバーが跳ね上がる。

 私は、ニつのマグカップにセットしたドリップ珈琲のパックに、お湯を注いだ。


「おはよう、陽太」

 やや大きめに、自分なりの、精一杯の明るい声でそう言って、リビングのキャビネットの上に飾ってある陽太の写真の横に、グァテマラの香りと湯気を漂わせながら、両手に持ったマグカップのうちの一つを置いた。

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