第6話 ダンジョン力生成永久機関(ワンポのお仕事)
「いやぁ。やっぱりラブホテルって良いよな。ラブホテルって良いよね」
昨晩ラブホテルの最上級客室に宿泊してペリニョンロゼまで注文してくれた夫婦が帰ったのをモニターで見届けたアイトは。
隣に座るヒショにそんな言葉を掛けた。
昨日はエマと接客を変わったヒショだったが。
夫婦は危険無しと判断して接客をエマに変わっている。
エマは夫婦に確りとスタンプカードを渡して説明も行っていた。
休息宿ラブホテルのスタンプカードは宿泊10回分のポイント(休憩は0.5回分のポイント)を貯めるとCランクまでの客室の宿泊が1回無料になるシステムである。
アイトの前世で多くのラブホテルが行っていた施策だが。
この世界では珍しい施策と思われるのでスタンプカードでリピーターの獲得を目指す。
「ラブホテルはラブを深めるホテルと言うマスターの言葉通りの結果でした」
ヒショは微笑みを浮かべながらアイトに答える。
アイトは割と適当に発言をするので言った事を覚えていない事もしばしばなのだが。
ヒショは細かく覚えていて過去の発言を引っ張り出してきてアイトを賞賛したりする。
ヒショは出来る秘書なのだ。
「旦那さんのげっそりした顔を見るに朝までガッツリ搾り取られたんだろうな」
ラブホテルを出る時。
夫は何歳か老けた様な顔で若干膝が笑っていた。
対して妻の方は見るからに艶っ々でナニそんなに摂取したんですかねとアイトが感想を抱いた程である。
アイトとヒショは夫婦が素肌を晒してプールで泳ぐ姿や露天風呂でイチャつく所はバッチリ観察していたが。
ベッドに移動してからの様子は流石に無粋なので見るのを止めた。
昔のラブホテルでは客室の中まで監視カメラが付いていて。
撮影したビデオが流出したなんて話もアイトは聞いた事があったが。
悪しき慣例まで真似をする必要は無いだろうと言う判断だ。
一応全部撮影して記録には残っているのだが。
後で使い道が出てくるかもしれないし。
アイトが人間として生きていた前世の世界では法的に問題のある行為だとしても。
今世の外の世界では客のプライバシーを侵害する撮影行為を禁止する様な法律は無い。
ラブホテルもそうだし監視カメラもそうだが前例が無いので法律などある筈が無い。
そもそもダンジョン自体が外の世界とは隔絶された無法痴態、、、無法地帯であるし。
ラブホテルを利用する客の反応をナマで見る事は。
今後のサービスの向上にも繋がるのだから客側としても有難い行為である。
多分。
きっと。
絶対。
「精子を作るのに必要な亜鉛を補充出来るサプリとドリンクは説明書きを添えてメニューに追加しよう。後は精力増強系のドリンクも追加したいが。飲む必要の無い人間が過剰摂取して事故を起こすのも面倒だからシークレットメニューとして出す方向にするかな」
「露天風呂でのお酒は効いていました。お酒の種類も増やした方が良いかもしれませんね。そうです。早急に増やしましょう」
アイトとヒショは昨日利用された801号室の演出とラブホテルの改善案を話し合ってから。
食事を摂って通常業務のダンジョン管理を始めたのであった。
「ちょっとバル。もっとしっかり歩きなさいよ。だらしないわね」
休息宿ラブホテルからヤーサンの街へと戻る帰り道。
森の中を歩くミキャエラと半分引き摺られた状態のバルナバス。
ミキャエラの言葉にはトゲがある様に聞こえるが。
その声質は柔らかいし表情は優し気だ。
男性は加齢と共に性欲が減退していき。
女性は加齢と共に性欲が増加する傾向がある。
若い頃には同程度の性欲を持っていたのも今は昔。
ミキャエラの性欲がマシマシ過ぎていてバルナバスの体が追い付かなかった。
男性の場合は加齢で精子の生産量も落ちるのだから。
数度の空射ちをするまで搾り取られたら抜け殻の様になってしまうのも仕方が無いだろう。
ミキャエラに引き摺られながら冒険者ギルドまで運ばれたバルナバスを見て。
蒼剣の誓いの4人だけは昨晩何が起きたのかを悟り。
今日中にも調査が終わるまで立ち入りを禁止されている塔へと出入りする許可が冒険者ギルドから出るだろうと確信し。
ギルド内に併設された酒場で祝杯を上げたのであった。
「ワンポやってるー?」
エマのいるフロント。
レイスが掃除をしている部屋と廊下。
調理オーガがいる調理場。
他にも色々とダンジョン内の施設を見回り。
アイトとヒショは換気扇がフオンフオンと音を立てる倉庫の様な階層へとやって来た。
この階層の中にある小屋、、、と言うには少々大き過ぎる小屋に住んでいるのが。
巨大で立派な体躯を持つ可愛い顔の狼である。
アイトは尻尾を振って寄って来た狼の頭をわしゃわしゃとして。
ゴロンと仰向けになった狼の腹をヒショと一緒に撫でるのであった。
休息宿ラブホテルには皆のアイドルが存在する。
その名はワンポ。
勝色の毛をした体長3mはある大型の狼であるワンポは。
ダンジョンモンスターなのに何故か夜の間は睡眠を取って。
朝から活動を開始する。
ワンポが住処にしているのは巨大な犬小屋だ。
その犬小屋があるのはダンジョンの地下階層に作られたシークレットエリアである。
このシークレットエリア。
実を言うとダンジョンの中でも一二を争う程に重要な場所であり。
ワンポはそこの管理運営を任されている優秀な狼なのだ。
ワンポの管理するシークレットエリアには数多くのモンスターが存在している。
通常のダンジョンとは違ってラブホテルは少数精鋭のスタッフ達で運営されているのだが。
実を言うと表に出ないシークレットエリアだけは例外として通常のダンジョンよりも濃い密度でモンスターが生息しているのだ。
と言うのも。
ダンジョンでモンスターを生み出し。
宝を生み出し。
罠を生み出し。
階層を生み出し。
装飾やインテリアを生み出すのにはダンジョン力と言うエネルギーが必要となる。
このダンジョン力を生み出す条件は。
“ダンジョン外の生物またはダンジョンから持ち込まれたアイテムをダンジョンが吸収する事”である。
つまりはダンジョン内で幾ら作業をしてもダンジョン力は得られないし。
ダンジョン内で何かを作れば作った分だけダンジョン力が消費される。
考え無しに使っていたら。
直ぐに素寒貧のダンジョン力貧乏である。
そんな中でアイトが編み出したのが。
ゴブリン繁殖ダンジョン力生成永久機関であった。
ゴブリン繫殖ダンジョン力永久機関、通称ゴブ繁とは。
ダンジョン内に迷い込んだゴブリンの雄と雌で繁殖を行わせて数を増やし。
寿命や雌を巡っての争いで死んだゴブリンをダンジョンが吸収して。
半永久的にダンジョン力を生み出す最強のシステムである。
アイトの前世日本の倫理観であったならば批判を受けるかもしれない。
なんちゃら愛護なんちゃらが騒ぎ立てる案件かもしれない。
しかしここは異世界の中でもダンジョンマスターが絶対の無法世界である。
例え世間から非人道的と言われようとも振り上げた拳はアイトには届く事は無い。
そもそも。
そもそもだ。
アイトは長年ゴブリンを観察した結果。
ゴブリンの生態について何処に出ても恥ずかしくないぐらいの知ゴブ家となったアイト。
そんなアイトが論文として提出した“い”ゴブリンの習性。
ゴブリンとは。
性欲>>>>>>>食欲=睡眠欲である。
圧倒的な。
圧倒的なまでの性に対する欲求。
ぶっちゃけた話。
雄ゴブリンは食事を与えずに飲まず食わずでも雌ゴブリンと盛り続けるし。
盛ったまま餓死しても全てをやり遂げエクスタシーブレイクした様に幸せそうな表情で死んでいく。
ゴブリンは大して強いモンスターでは無く。
臭い汚い気持ち悪いの3Kモンスターとして冒険者に狩られ。
楽に食える餌としてもモンスターに狩られ。
異常なまでに強い繁殖力を発揮する事無く死んでいく者も多い。
それに比べてシークレットエリアでは。
朝から晩まで大好きな交尾をし続けて。
危険を犯して食べ物を探しに行く必要も無く。
朝から晩まで大好きな交尾をし続けて。
出された食事を食みながら。
朝から晩まで大好きな交尾をし続けて。
交尾をして。
交尾をして。
交尾をして。
1年しか無い寿命を迎えるまで。
交尾をして。
交尾をして。
交尾をして。
そして外の世界ではまず有り得ない幸福な一生を送る事が出来る。
正にヤリ切って死ぬ事が出来るのだ。
雌の奪い合いに負けた場合は淘汰されるとしても。
そればかりはどうしようもない自然の摂理である。
一応雄ゴブリンにも穴はあるし何とかなる。
因みにゴブリンの出産で生まれてくる赤子の性別の割合は大体雄5に対し雌1である。
この割合だと圧倒的に雄があぶれてしまう計算だが。
ゴブリンは血が濃くなると雌が生まれる割合が上がる。
初めは5対1だった割合が。
数十年に渡って繁殖を行い血が濃くなった今では3対1にまでなっている。
加えて。
これは発表したら世間に衝撃を齎す事実だが。
ゴブリンは血が濃くなると上位種が生まれる可能性が高くなる。
ゴブリンの上位種とは剣を使うゴブリンソルジャーや弓を使うゴブリンアーチャーなどではない。
あれらは普通のゴブリンが武器を拾って使っているだけなので実質的な上位種とは言えない。
ここで言う上位種とは。
魔法を使うゴブリンマジシャン。
体格が普通のゴブリンの倍はあるホブゴブリン。
ホブゴブリンに一本角の生えたホーンゴブリン。
ゴブリンを統率する能力を持つゴブリンジェネラル。
滅茶苦茶子供を産むゴブリンクイーン。
そして全てのゴブリンの王とも呼べるゴブリンキングだ。
随分と話が逸れたがラブホテルのアイドル、ワンポのお仕事は。
これらの上位種が生まれた時に食い殺す事である。
ダンジョンのモンスターとして見たら有用に思えるこれらの上位種は。
ゴブ繫をする上では非常に厄介な害獣である。
例えばホブゴブリンやホーンゴブリンは力でもって交尾をしているゴブリンを殴り殺して雌を奪い。
気が立った時には貴重な雌でさえも殴り殺すぐらい気性が荒い。
ゴブリンジェネラルはゴブリンに規律を齎すのでゴブリンの数が増えると勝手に一人っ子政策を始める。
ゴブリンキングは全ての雌がゴブリンキングに群がってしまい。
実質的な繁殖速度が落ちてしまう。
非常に厄介な上に普通のゴブリンよりも寿命が長いので。
放置すると一気にゴブリン達の秩序が乱れてしまう。
そこで賢い犬ワワワンワンポの出番である。
ワンポはワンポなどと言う可愛い名前を付けられているが。
その実態はサタンウルフと言う災害級のモンスターである。
もうゴブリンキングぐらいだと遭遇した瞬間に泣いて小便を垂らすレベルのヤバい奴である。
ゴブリンの上位種も生まれた時の姿は普通のゴブリンと変わらないのだが。
ワンポは鋭過ぎる嗅覚で上位種の存在を察知し。
赤子のゴブリンを小屋へと運び。
食いでのある大きさになるまで育ってからガブリと頭から捕食する。
ゴブリンの上位種はもうガタガタに。
ガッタガタに震えながら只食われる時を待つばかり。
これに関してはゴブリン虐待だと言われても仕方の無い所業ではあるが。
あくまでも可愛いワンコがやっている事なので大目に見て貰えるだろう。
今も小屋の中で震えるゴブリンが4体ほど見切れているが。
ダンジョンモンスターが食べた物はモンスターの腹に収まった後でダンジョンへと吸収される。
つまりワンポが食べたゴブリンの上位種はダンジョン力に変換され。
ある程度育ってから吸収した方が取得出来るダンジョン力は大きくなり。
全く以てワンポは賢いワンちゃんである。
逃げたら即食われるので大人しく震えるばかりのゴブリンを放っておいて。
巨大アイアンフリスビーで遊んであげるヒショと。
床に座って見ているだけのアイト。
アイトにはあんな重い物投げられないのだ。
暫くするとワンポが小屋に入って寝てしまったので。
アイトは内線を繋いでオーガに餌やりの指示を出した。
すぐさまシークレットエリアにやって来た数体のオーガは。
透明なゼリー状の物をゴブリン達に与える。
野生であればオーガの存在に怯えるゴブリンだが。
最早飼い慣らされたゴブリンには餌をくれるお兄ちゃん達ぐらいにしか思われていない。
因みにゴブリンは雑食である。
食べ物が無ければ木の皮ぐらい平気で食べるぐらいの雑食である。
そんなゴブリンに与えられる餌はスライムの肉。
ラブホテルの料理なんて贅沢な物は与えない。
何故なら性欲>>>>>>>食欲=睡眠欲だからだ。
スライムはゴブリンと同様に。
寧ろゴブリンよりも早いペースで個体数を増やす。
スライムに意志は無く。
水さえ与えていれば勝手に分裂して勝手に増えていく。
このスライムも元はダンジョンに迷い込んだスライムだ。
そこから分裂によって個体数を増やし。
今ではゴブリンの餌と増え過ぎた時に間引いたスライムがダンジョン力へと変わっている。
アイト始めダンジョンでスライムを食べた事があるのはゴブリンだけだが。
触り心地はミズクラゲみたいなものなので別に不味くは無いのだろう。
そもそも性欲>>>>>>>食欲=睡眠欲だから食えれば何でも良い疑惑すらあるし。
オーガ達の餌やりを見届けたアイトとヒショは。
ワンポを一撫でしてからシークレットエリアを後にした。
今日も雌の争奪戦からあぶれた悲しき雄ゴブリン達は。
尻とナニかで繋がって円を作り。
悲しきミステリーサークルと言う永久機関の一部となっていた。
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