その未来の先に何があるのか

春夏秋冬

第0話

 あいつはいつも公園にいた。誰と遊んでいる様子でもなく、また誰と待ち合わせをしているわけでもなく、ただ一人で砂場に座り、遊んでいた。


 おれはある日、あいつに声をかけてみた。あいつは、最初はオドオドと慌てふためき、しどろもどろに話すものだから、会話に全然ならなかった。しかし、おれが何度もそこへ足を運ばせ、声をかけつづけたことで、筋のある会話が出来るようになったのだ。


 あいつはおれの事をすごく警戒していた。それが壁となり邪魔をしていたのだが、あいつと打ち解けたことにより、その壁が薄くなったような気がした。やがて、おれはあいつの笑顔を見られるようになった。あいつが笑いながら会話をする。それはおれに心を開いてくれた証拠である。おれはそれが嬉しかった。


 あいつは砂場で泥団子や山をよく作っていた。だからおれもそれらを真似て、一緒になって作った。幼稚園の頃を思い出し、懐かしい気分に襲われた。


 あいつは笑うようになったが、自分の事をなかなか話そうとしなかった。何か言えない事情があるようなのは雰囲気で感じ取れていた。だから、おれはその事には触れなかった。頼られていないようで寂しい気はしたが、言いづらい事を無理に話させる必要もない。おれはやがて向こうから話してくれるだろう、と、それを待っていた。


 あいつと遊ぶようになってから幾月が流れた頃だった。俺の同級生がおれとあいつの輪の中に入った。おれが誘った。いつも公園であいつと遊んでいる事を話したら、ついてきた。それから、三人で遊ぶようになり、あいつの笑顔もさらに増えていった。


 あいつは最初何というのか、生気のない顔と言うのか、まるで心のない人形のようで表情が無愛想の一つしかなかった。しかし、それも今や見る影もなく、感情が多彩になっていった。喜怒哀楽、それらの感情を表現できるようになった。


 ある日のこと。あいつはおれにとある秘密を打ち明けてくれた。おれはついに自分から話してくれたのか、と、嬉しかった。ようやく本当のあいつを知れたような気がした。しかし、話してくれたのは全部ではない。ひと部分のことだけだ。おれはそれでもよかった。信頼という名の絆が確認できたことだけで十分だった。


 あいつが、この秘密を話すのにはとても多くの勇気が必要だっただろう。今までの関係が崩れ去ってしまうかもしれない、そういう恐怖があったことだろう。それでも、話してくれた。


 おれはあいつの不幸に心をひどく痛まされた。あいつの境遇を聞いていると、心の内の底で憎悪が芽生え、そいつが乱心し、暴れまわる。


 おれは彼女の周りの人たちに憤りを感じていた。何故人は人を区別し、差別し、とにかく分けて、避けたがるのだろうか。それをこの時強く思った。その時におれはあいつの傍であいつをずっと守っていたい、そう心に決めた。


 おれは、自分で作ったおまじないをあいつと二人の時にやった。おまじないは単純といおうか、とにかく安易なものだった。おれは「必ず傍にいて守ってやる」と、我に返ってみると羞恥が込み上げてくる約束をあいつに取り付けた。


 それからだ。あいつがいなくなったのは……。


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