第4話 Jeune fille du champ de bataille 戦場の乙女

 前回のあらすじ。

 ツバキが言ったある一言に対し、嬉しさのあまり気絶してしまったアニエス。 アニエスさん、ツバキ君のことが大好きなんですね。

 そして案内人コンシェルジュ、シンゴ イカリ氏とのお話し中にフワフワと浮かぶピコンさん。 どうやら最終形態へと進化する前触れのようだ。

 

 その後、部屋へと案内をされ、アニエスとのチョメチョメも無く、1人寂しく就寝するツバキ君であった…。

 明朝、かわいらしい声に起こされるツバキ。 そこには最終形態となったピコンさんがいた。




      *




 少しグレーな色合いで、ツノがある。 そしてお腹は真っ白だ。

 てか、ウサちゃんっすか?


 後ろ足がとてつもなく可愛いっす!

 後ろ足をナデナデしたいっすな!


「マスター、ピコンだよ! 私を抱っこして、後ろ足をナデナデしてももいいよぉー!」


 やばいっす! 心を読まれたっす!?

 てか、これは異世界カワユスナンバーワンっすな!


「ツバキ。 私の体でしたら、どこをナデナデしてもいいんですよ。 なんならモミモミでも…。」

 いつの間にか起床していたアニエスはそう言ってモジモジとしている。


「あはは…。 そういうことは朝からする事じゃないよ。」

「では! 今夜! 今夜こそチョメチョメですわね! そしてハメハメ…。」


 ゴツン!


 ものすごい音と共にアニエスが倒れ込む。

 どうやら、ピコンさんがアニエスの頭を叩いたようだ。


「こら、アニエス! 女の子がハメハメとか言うんじゃないわよ!」


「痛いですわ! 痛いですのツバキ。 ピコンさんに叩かれた頭をハメハ…チョメ…ナデナデして下さい!」

 アニエスは俺に抱きついてきた。


 えーっと。

 なんだろう…。

 俺も男だし? 女性に好かれるとか、バリバリ嬉しいし? でもさ…。 なんて言うのかな…。 こうじゃない感がすごいんだよな…。


「えーっと、アニエス。」

「はい、ツバキ。」

「あのね、俺はアニエスのことが大好きだよ。 でもね、女の子が男性に対してガツガツくるのはダメだと思うんだ。」


「マスターピコンだよ!」

「うん、わかっているよ。」

「ピコンは最終形態になったから、ボーナス特典の無料名前変更チケットがあるよ。」


 マジか?

 アニエスとの会話が中断されたじゃないか…。


「ツバキ。 私はフシダラでしたんですね? ツバキとチョメハメを所望しますが、これは私の心に閉まっておきます。」


 アニエス? チョメハメって…。


「それでねマスター。 私の種族はアルミラージだよ! 可愛い名前をつけて欲しいの!」

「ツバキ。 そろそろ朝食に行きませんか?」

「マスター、可愛い名前ね!」

「ツバキ?」

「ねえねえ可愛い名前!」


「あー。 2人ともちょっと静かにしてね。 2人同時に話しかけられても厳しいんだけど…。」


 2人とも鼻息がとてつもなく荒い。 この部屋の全てが吹き飛ばされそうな鼻息だ。


「とりあえず、朝食に行かない?」

 ピコンさんが言う。

 あまりの豹変ぶりに呆れる俺とアニエスだった…。


 ん?

 高級ホテルの食堂に、ペット同伴はOKなのだろうか?


「ねえねえマスター、ピコンだよ!」

「う、うん。 わかっているよ。」

「ペット同伴は屋外テラスだから大丈夫だよー!」

「そ、そうなんだ。 ありがとうピコンさん。」

「ウェーイ! マスター、ウェーイ!」


 そんなこんなで、朝食に向かう俺たちだった。




      * *




 予想どおり、屋外テラスへと案内をされた俺たち。


 テラスから見える庭園はきれいに整っていた。

 前世での青紙家あおかみけの庭は庭師が入り、こことは別な感じの優雅さがあった。 いまになって思うと懐かしさがこみあがってくる。


 

 モーニングメニューを食し、食後のお茶をいただいていた時、シンゴ氏が現れた。


「おはようございます、ツバキ様。 昨夜はゆっくりとできましたでしょうか?」

「はい。 おかげさまで旅の疲れも癒されました。 朝食もすばらしいですね。 日本のレストランにも負けず劣らずのメニューでした。」

「ありがとうございます。 シェフにもそう伝えておきます。 きっと喜ぶことでしょう。」

 

 シンゴさんの話し方は丁寧だなぁ。


「ところでツバキ様、そちらのアルミラージはピコン氏でしょうか?」

「はい、無事に最終形態に進化したようです。」

「そうでしたか。 おめでとうございます。 ピコンさん、主様より素敵な名前を頂いてくださいね。」


 ピコンさんはシンゴ氏に向かい手を挙げている。

 おそらく、ピースサインか親指を立てているのだろう。 だがウサギに人族ほど指の関節が発達していないので、ただ手を挙げた状態になっている。

 それはそれで可愛い仕草だ。


「シンゴさん。 これからギルドに行ってパーティーの登録を行こうと思っております。 シンゴさんのジョブは何でしょうか? あと登録名をお聞きしてもよろしいですか? 本当は一緒に来ていただけると有難いのですが。」


 シンゴ氏は驚き、固まってしまった。

 左手を胸に当て、深い深呼吸をしている。

 そして、フンッ! っとりきんだ後に話し始めた。


「ありがとうございます。 私もご一緒します。 当ホテルのオーナーは私の素性を知っております。 すぐにでもツバキ様と合流できます。 これからよろしくお願いいたします。」

「とんでもないです。 こちらこそよろしくお願いいたします。」



 シンゴ氏との話が終わり、俺たちは部屋へと戻った。


「ねぇねぇマスターピコンだよ!」

「うん、わかっているよ。」 

「可愛い名前をお願い!」


 あぁ。 そうだった。 新しく名前を授けるんだったな。

 名前かぁ…。


「ツバキ、アニエスです。」

「ああ、うん。 てか、この流れ、めんどいから、2人とも普通に話しかけていいよ。」

「え? でもツバキの対応が可愛いからやめません。」


 意味がわからない…。


「ところでアニエスはどうしたの?」

「はい、ピコンさんの名前に提案があります。」

「何か可愛らしい名前でも思い浮かんだ?」

「はい、畜生ちくしょうなんていかがか…。」


 バコン!


 ピコンさんの飛び蹴りが、アニエスの顎にヒットした。

 アニエスは何回か回転した後、フカフカの絨毯にうつ伏せとなった。


「ピコンさん、マジ蹴りはダメだよ! アニエスが気を失っちゃったじゃん!」

「だってマスター! こいつ最近、調子こいてるぅ!」


 あぁ、確かにピコンさんに対して何かとマウントとっているな。


「アニエスには俺から話をしておくから、暴力はダメだよ。」

「うぬぬぬぬ…。 わかった…。」


 腑に落ちない様子のピコンさん。

 とりあえず、今のピコンさんを鑑定解析してみるかな。


「ピコンさんを鑑定解析するけどいいかな?」

「うん、いいよぉー! 見て見て!」


 そう言ってピコンさんは仰向けになった。

 いや、別に普通にしていていいんだけど…。


「よし! それじゃ鑑定解析! うぃん うぃん うぃん…。」


 ほうほう、種族名は臣下ヴァッソ。 ん? 臣下って種族なの?

 スキルが、人化ひとか(仮)。カッコ仮? とValkyrieヴォルキーってヴァルキリー? ピコンさん女子か? 戦場の乙女ってやつかい? かっこいいなオイ!

 あとは瞬足? やば! 某メーカの小学生用のシューズじゃん? 

 そうか、ウサギだから素早いんだな?

 そして最後に、familiarファミリア? 家族? なんだろ。


 ステータスはっと。 うわ! 魔力ヤバみ! てか、全体的にステータス高いなオイ! 確かにアニエスを一撃だもんな…。

 使える魔法は水と風だな? 付与魔法も出来るみたいだ。

 これは可愛い名前を付けてあげなきゃだな。


「よし! 女の子ならIrisイリスなんてどお? 神々の使いって意味だよ。」

「イリス? うん! 可愛い! ありがとうマスター!」


 お礼を言うと同時に輝きだすピコンさん、もといイリス。


 イリスの輝が収まったので再度、鑑定解析をしてみた。


 あまり変わってはいないな。

 あっ。 人化のカッコ仮がなくなっている。



「マスター! イリスだよ!」


 イリスはツノの生えた女の子になって俺の前に立っている。


 これ。

 アルミラージになったのは意味があるのか?


 しかもイリスさん?

 マッパですよ?。



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