第3話 Agnès アニエス

 


 前回のあらすじ。


 ギャー! ギエー! といった感じの、魔獣 ヒュドラ との対決は呆気なく幕を閉じた。

 アニメとして見ると、おそらく5分とかからないだろう…。 といった感じの戦闘シーンも終わり、一息ついたツバキとピコンさん。 

 そんな中、健康的な? 小麦色の肌をした女性。 ピコンさんの言い方では 虫の息 の女性が話しかけてきた。

 これはもしや、レジストに表示された

『♀に弱い』

 が発動するのだろうか!?

 これはワクワクだぁ!



「あの…。 助けて頂いて…ありがとうございます…。」

 小麦色の肌の女性は話をするのもやっとのようだ。


「えっと。 怪我をされていますよね? 具合を見せてもらっても良いですか?」


 ピコン!

「さすがマスター、女性に弱いですね?」

「いやいや、怪我人を目の前にして知らんぷりはできないでしょ?」

「ですがマスター。 この女性、哺乳網 雑食目 魔科 魔属 の魔族ですよ?」

「だから? 困っているんだから助けるよ。」


 その魔族の女性は下を向き、息を切らしている。


「えっと、ステータスに創造魔法ってのがあったよね。 これで医療魔法と言うか、回復魔法みたいのはできるかな?」

 ピコン!

「マスター。 本当にこの魔族を治療しますか?」

「うん。 だって僕は無敵でしょ?」

「マスター。 了解致しました。 それでは創造魔法のお手伝いを致します。」

「ありがとう。」

「それではマスター。 目を閉じて下さい。」


 ピコン!

 ピコン!

 ピコン!


 ピコンさんの意識が僕の中に入ってくる。

 複雑な文字の配列が意識の中を駆け巡る…。


 ピコン!

「解析…結合…融合…。 配列確認…。 完了まで20秒…。 時間短縮…。」


 ピコン!

「回復、及び肉体の損失、欠落部の補給が行える魔法完成。 魔法名、蘇生回復魔法が完成しました。」

「ピコンさん、ありがとう!」


 ピコン!

「マスター。 この女性は魔族です。 神の使徒でもある天空人族が魔族を助ける意味を今一度、考えて下さい。」

「りょ。」


 僕は魔族さんの元に行き、深く被ったフードをめくりあげた。

 キラキラと輝く銀色の髪。 綺麗な髪をかき分けるように伸びる尖った耳。そして、透き通るような赤い瞳。 その瞳が力無く僕を見ている。 


「お待たせしました。 今から回復魔法を使うからね。」


 僕の言葉に、小さくうなづく魔族さん。


「パーフェクトヒール。」


 勝手に口から出た魔法名。

 それと同時に白い光に包まれる魔族さん。


 魔族さんはそのまま上を向き立ち上がった。


「すごい…。 全身の骨がほぼ砕けていたのに…。 ありがとう! ありがとうございます!」

 魔族さんはそう言って僕の前で膝を付いた。


「ところで魔族さん、何でこんな所にいたの?」

「それは…。」


 魔族さんはそう言って僕から目を逸らした。


 ピコン!

「マスター。 彼女は奴隷のようです。 首に付けている輪は奴隷の首輪です。 胸元に見える紋は奴隷紋です。 かなり強力な者の支配下になっているようです。」

「奴隷? 今時そんなのが存在するんかーい!」

「マスター。 彼女のような奴隷はたくさん存在します。 魔族領では少ないのですが、人族領ではたくさん存在しています。 特に魔族や獣人族の魔力の弱い者が奴隷となってます。」

「魔力の弱いって…。 じゃあ何で魔族さんはこんな危険な森にいたの?」

 

 僕の問いかけに下を向く魔族さん。


 ピコン!

「魔族のお嬢さん。 マスターが聞いていますよ?」


「ゲームです…。」

 魔族さんが震える声で言う。


「ゲーム?」

「アイツらは私たちをオモチャのように使い潰す。」

「うーん。 言っている意味がわからないけど、とりあえず、その首輪は外そうか?」


 魔族さんは呆れた顔をして僕を見た。

 そんな呆れた顔をよそに、僕は首輪に手を触れた。


「リムーブ。」

 

 パキンッ!

 金属の折れるような音と共に首輪が粉々になる。


 壊れた首輪を見て、魔族さんは尻もちをついた。


「首輪が…。」


「あとはその奴隷紋だね?」

「奴隷紋だねって…。 流石にこれは…。」


 僕は彼女の胸元の奴隷紋に触れた。

「パス…アウェイ…。」

 僕の呪文と共に、その奴隷紋は水蒸気のように黒い煙と共に消え去った。


「今のは持っていかれたー! めちゃくちゃMP持っていかれたっす!」

 僕もその場に尻もちをついた。


 ピコン!

「マスター。 普通、あの奴隷紋を消すことはできませんよ? さすがマスターは無敵ですね。」

「いやー。 僕の凄いところに気づいちゃった? ウェーイ!」

 ピコン!

「最初から知っていましてけど? ウェーイ!」


「あの!! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 魔族さんが座り込んだ僕の左足に抱きつき、涙を流しながらお礼を言っている。

 何度も何度も言っている。

 その行動は相当に辛い思いをしてきたんだと、僕に思わせることができた。


「お礼なんていいよ。 これからは自由だよ。 魔族さんの自由に生きれるよ。 頑張ってね。」


 僕は立ち上がり、その場を去ろうとした。 が、魔族さんは慌てたように僕の足にしがみついてきた。


「待ってください! 私を配下にしてください!」


 絶望の眼差し…。

 彼女はそんな顔をして、僕にしがみつく。


「配下って…。 魔族さんはもう自由だよ? これからは自分のために生きてください。」

「自分のためと言うなら尚更です! 死に向かう運命をあなた様に救っていただきました! この命、あなた様のために使うことをお許しください!」


 重ーーーい!


「いえいえ…。 どうか僕のことなど気にせずに…。」

「お願いします! 貧相な身体ですが、夜伽の方も…。」


 ピコン!

「ウェーイ! マスター、ウェーイ!」

「ピッピコンさんや? 何ですか!?」


 ピコン!

「マスター。 腹を括ってください。 彼女をここに置き去りにしたら、すぐにあの世行きです。」

「あの世行きって…。」

「彼女はおそらく、悪趣味な人族のオモチャとして、ヒョドラと戦わせたのだと思います。 今の状況も映像として人族に観られていると思います。 今は彼女を連れ、この場を離れることを優先するべきかと思います。 そして夜にはウェーイ!」


「…。」


 ピコン!

「急ぎましょうマスター。 ウェーイ!」


 こいつ! 言葉使いが流暢どころか、僕をからかい始めやがって!


「それじゃあ魔族さん、ちょいと失礼しますよ。」

 僕はそう言って、彼女を無理やり背負い、その場を去る事にした。


「キャ!? あなた様! これでは!」


 全速力で走り始める僕とピコンさん。


「魔族さん、名前を聞いても良いかな?」

「は、早すぎです! あなた様!」

「もうちょっとの我慢だよ。 で、名前は?」

「ご、52番です! は、早い!」


 僕は走るのをやめ、その場で止まった。


「52番って、番号じゃなくて君の名前を聞いたんだけど?」

「名前などありません。 私は身体も成熟せず。 貧相なので、人族にとってはただのオモチャです。」


 平気な顔をして何を言っているんだ?


「それじゃ、僕が君に名前をつけても良い?」

「あなた様に名付けをして頂けるのですか?」

「あなた様はやめて? 僕はツバキだよ。 ツバキ・アオカミ。 僕の事は君の好きなように呼んでくれて構わない。」

「ツバキ様…。」

「あ、様はいらないかな。」

「そんな!」

「んで、君はアニエス。 今日から君の名前はアニエスだよ。」

 僕が彼女に名付けをすると、アニエスは突然、輝きだした。


 ピコン!

「マスター、ピコンです。」

「知っています。」

「マスターからの名付けにより、魔族の彼女は、天空魔人てんくうまびと族へと進化しました。 肌の色も変わり、魔族特有の赤い瞳も、マスターと同じ碧眼となりました。」

「マスターツバキ様。 名付けを頂きありがとうございます。」


 僕をマスターツバキと呼ぶ彼女、アニエスは髪の色はそのままだが、小麦色の肌から、透き通るような白い肌へと変わっていた。

 そして、瞳の色も僕と同じ碧眼に…。


「って、ワシは碧眼なんかーい!!」


「かーい!」


「カーイ!」


「…。」

 

 

 


 

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