8 犯人が自供した理由

 吉田数子よしだ かずこは、警察署の取調室での自供の後、そのまま逮捕された。

 殺人罪に問われるかは、現時点では不明だ。

 彼女が故意で被害者を殺したか、が争点になるだろう。

 自供の話をそのまま受け取ると、故意に殺害をしようとしてはいなかったと思われるが、被害者の局部を切り取る行為は故意で行ったわけで…もしかしたら、彼女が嘘をついている可能性もあるわけだし…私からはこれ以上、何とも言えない。

 取調室を2人の警官に連れられて出る直前、ドアの前に立ち止まり、彼女は私の方を見た。眉をハの字にして目には大粒の涙を浮かべている。少し間を置いて、彼女は口を開いた。

「私があなたが家に訪れた後、すんなりと警察署までついて行って自供した理由を知りたいですか?」

 私は暫しその質問に対して答えるのに躊躇ちゅうちょしたが、

「まあ…言いたいなら言えよ」

 と言った。私も1人の人間として真実を知りたかったのだ。

 彼女は悲痛な笑みを浮かべながら大声で叫び始めた。

「アイツを殺してから、私は、死に近づき、呻き声をあげるアイツの声や表情がどんなときも、ふと脳裏に浮かぶことがあったんです。アイツは私を男性恐怖症に陥れたどころか、私にトラウマまで与えた。アイツの死に顔を思い出す度に、自分がアイツを殺したことに対する罪悪感が、私の心におりのようにどんどん溜まっていく!!アイツに対して私がやったことを全部、誰かに打ち明けなければ脳みそが破裂しそうだったんです!!!」

「そんな心境のときに、ちょうど自分が家を訪ねてきて、事件の真実を全て吐き出したくなったわけか…」

 彼女は、自分の感情を吐露とろすることができてスッキリしたのか、涙が止まり、少し口角が上がっていた。

「はい。この度はありがとうございました。」

 彼女はそう言い、顔を前に向き直し、取調室を後にした。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る