第8話 岩崎 龍一

 俺の名は岩崎龍一だ。


 幼少期に両親が離婚し、親権を得た父親も蒸発し、父の実家に預けられた。


 小学校及び中学校とも特に友達ができず、遊ぶことといったら山で動物狩りをすることだった。 


 実家は猟師業を営んでおり、動物を狩るための刃物には事欠かなかった。


 動物に刃物を突き立て、血とともに命が流れ出す感覚がたまらなく好きだった。


 相手の生殺与奪を握っているという全能感に身を焦がしていた。


 そんな行動をしていた俺への哀れみと恐れからか家の中での会話なんて殆どなく、家にいないも同然の扱いを受けていた。


 当然、中学卒業後は体の良い厄介払いとして、家を追い出されて仕事を転々としたが、結局どれも長続きはしなかった。


 そんな俺だったが、転機があった。


 アルバイトでクラブのスタッフをしていた時に酔っ払いに絡まれて店の外に連れださたときだった。


 路地に連れ出されると酔っ払いがいきなり殴りかかってきたので、俺は軽く足を払ってやり、相手がこけたところをサッカーボールを蹴る要領で顔面を蹴ってやった。


 ぐしゃりと音を立てて相手の顔が陥没し、酔っ払いは苦悶の声をあげた。

 

 その一部始終を影から見ていた男に俺は声をかけられた。


「全く躊躇せずに暴力を振るえるんだね。君に向いている仕事があるんだが、話でも聞かないか。」


 そう言って男は俺を誘った。


 話を聞いてみると、ある組織御用達の殺し屋にならないかということだった。


 俺は自身の内にある暴力衝動を抑えられなくなってきていたので、迷わず”イエス”と答えた。


 そして、俺はどこかの山奥に連れて行かれ、殺しの訓練を受けた。


 訓練内容は多岐におよび、ナイフを使った近接格闘術、ライフルを使った長距離狙撃術、果ては拷問訓練までも行った。


 俺はその中でもナイフを使った近接格闘術に高い適性を示し、殺しの実働部隊への配属を命じられるようになった。


 組織が殺害対象の情報を寄越せば、そのターゲットが老若男女誰であれ、殺した。


 場合によっては、殺害対象とされていないターゲットの家族にまで手を下して、殺した。


 人を殺すのは動物を殺すより更に格別の体験であり、俺にはこの仕事が天職に思えていた。


 あの絶望に歪んだ顔をこちらに向けながら、是が非でも助かりたいために泣いて命乞いをする顔見ると己の股間が勃起して仕方がなかった。


 だが、俺は許しを請われても嬉々としてターゲットの首を狩り取り続けた。


 いつしか俺は仲間内からも首狩りの二つ名で呼ばれて、畏怖の対象とされた。


 そんな日々が続いた後に、組織から俺は初めて複数名での任務を告げられた。


 任務内容は港湾内にある倉庫である取引が行われるとのことなので、その取引を行っている者たちを皆殺しにしろというものであった。


 なるほどな、流石に複数名の組織の人員が動員がされる任務だけあって、大規模なものだった。


 そして、現場へと移動した俺は突入の合図と同時に倉庫内に押し入った。


 しかし、倉庫内には誰もおらず、物すら置いていなかった。


 そこで、後ろから仲間のはずの男にいきなり斬りかかられたが、間一髪で俺は回避することができ、返す刀で相手の頸動脈を断ってやった。


 それからも俺を殺そうと他のやつが飛びかかってくるのをいなして、何とか倉庫から脱出した。


 おそらく、俺を危険因子とした組織が殺処分対象としたんだろう。


 くそっ、組織から狙われて逃げられる可能性はほぼない。


 どうしようかと考えながら歩いていたところ、急に見知らぬ男に声をかけられた。


 その男はハットを被っており、切れ長の鋭い目つきが印象的だった。


「お困りのようですね、組織からの逃走にお手をお貸ししましょうか。」


 男は慇懃無礼な態度で言った。


「いきなり見知らぬ怪しげな男に話しかけられて、その誘いに乗ることなんてねえだろう。」


「いきなりですいませんねえ、でもあなたには選択肢がなく、おそらく私の手を取らないと組織とやらの人員に殺されてしまうでしょう。」


「ぐっ、、、。俺を助けて何か望みでもあるのか。」


「そうですね。逃走が上手くいった暁には1対1で行われる殺し合いの場に参加して欲しいのです。そういうのお好きでしょう。」


「ああ、この上なく好きだぜ。そんなことで良いのであれば頼む。」


 そうして切羽詰まっていた俺は謎の男に匿われて、何とか組織の手から逃れた。


 その後、謎の男からギフトという能力を教えてもらい、闘いの場へ備えて戦闘訓練を行って当日を迎えた。



















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