6月25日/疑惑の牧師4
「この子が?」
「明日架だ。まちがいない」
「ひとたび受信メールを開くと、送受信ボックスにあるすべてのメアドに、このCGと音楽が添付ファイルで転送される」
吉沢は、手にした缶コーヒーをぐいと飲み干した。
「警察と教育委員会は怪しいメールが来たら開かずに削除するように通達したが、おそかった。ネズミ算式にこの映像が全国に流れて、6人もの女の子が自殺した。警察は翌日になってあわてて牧師館の銀行口座を閉鎖したが、すでに大きな金額の身代金が振り込まれてその日のうちに全額引き出されていた」
「まさか、少女を誘拐した牧師がこんな映像をホームページにあげるはずもないよね」
というと、
「ありえないよ。牧師館のホームページもメアドも乗っ取られたにきまってる」
吉沢はひとを小馬鹿にしたような顔でいった。
「それでその女の子はまだもどらない?」
「まだだ」
「防犯カメラとかはどうなってるの?」
気を取り直してたずねると、
「牧師館の前の通りにカメラはない。明日架が牧師館を出るのを目撃したひとは誰ひとりいない。もっとも、日が暮れるとあの辺りは街路灯もほとんどなく真っ暗で、ひともほとんど通らない」
吉沢はにべもなく答え、
「では、だれが誘拐した?」
「登場人物がふたりだけの密室ミステリーだ。これほど簡単な謎解きもないよ。明日架がいなくなった夜に母親が警官を呼んで牧師館の中をくまなく見て回ったが、乗ってきたチャリも鞄も携帯もなかった」
「ふ~ん、どこへ消えたんだろう」
「明日架は牧師に殺されてどこかに埋められている。・・・そいつをいっしょにさがさないか」
吉沢の話は、結局そこへもどった。
「こころ当たりは?」
「なくもない」
と吉沢は自信ありげにいった。
・・・自信があればひとりでやればいいではないか。
どうして、失踪少女の死体を吉沢とさがさなければならない?
吉沢とはそこまでの仲でもない。
・・・乗り気にはなれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます