Chapter2:シュヴァルツ・アシェ

Different 2 カイト 【覚醒】

 おまえのせいだ!!


 おまえのせいでみんな死んだ!!


 おまえのせいで!!


 おまえのせいで!!


 顔がつぶれたすすだらけの人間たちが俺を指さしてわめき立てる。

 それを聞くのが嫌で、俺は耳をふさいでその場にしゃがみ込む。

 しかし、罵声ばせいは大きくなり、耳をふさいでも聞こえてくる。

 ごめんなさい……ごめんなさい……と謝り続けていると、急にわめいていた無数の声がピタッと止んだ。

 直後、聞き覚えのある女性の声が響く。


「カイト」


 俺は恐る恐る顔を上げる。


 腰まで伸ばした長い黒髪の女性……母さんだ。


 母さんは泣きそうな顔で俺を見つめながら、手に持った拳銃を自分のこめかみへあてる。


「……ごめんね、カイト」


 俺に謝った母さんは拳銃の引き金を――。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 ゴンッ!!


 鈍器で固い物をたたきつけたような大きな音で、俺は夢から目覚める。

 辺りを見回せば、ヴィルトゥエルのコックピットではなく、なにか大きな乗り物のなかにいた。

 聞き覚えのあるバラバラとプロペラが回る音を聞いて、大型ヘリだと察する。

 軍用っぽい感じだが、毛布や服、食用ダンボールを見てしまうと、軍というより一般の生活感が満ちていた。

 ふと、俺は自分に掛けられたジャケットがクロガネの物だと気づく。


(そういえばクロガネはどこにいるんだ?)


 クロガネを探そうと立ち上がったとき、前方……操縦室のほうから言い争う声が聞こえてきた。


「頭蓋骨砕けそうになったんだけど!!」

「やかましい!! 勝手に世界政府の依頼を受けやがって!!」

「しょうがねぇだろ!! 金がなかったんだから!!」

「酒を控えろ!!」

「やだ!!」

「やだ、じゃねぇ!!」


 クロガネと知らない老男の声と、またゴンッ!! という音が耳に入る。

 俺は恐る恐る操縦室のほうへ近づく。入口に来てなかを覗いてみる。クロガネと、赤茶色の短い髪をした筋肉質のゴツいおっさんがいた。


「それで、どうするんだ? 世界政府に坊主を引き渡すのか?」


 世界政府。

 それを聞いて、俺の心臓が大きく脈打つ。

 クロガネは世界政府に雇われた傭兵。

 わかっていたことじゃないか。

 俺はクロガネを利用して施設から脱出できた。

 あとは隙をついて逃げるだけ……。


「あ? 引き渡さねぇよ」


 クロガネの返答に、俺は目を見張った。

 同様にゴツいおっさんも驚いている。


「……惚れたのか?」

「ちげぇよ!! なんでそうなるんだ!!」

「女恐怖症のおまえが遂に男にはしったかと思ってな」

「そんなわけあるか!!」


 クロガネは声を荒らげて否定する。

 でも、クロガネ。初めて俺と目が合ったとき、キスしようとしていたような……見間違いか?

 とりあえずクロガネの話を聞こう。


「カイトが所持してる機体……ヴィルトゥエルか。あれを世界政府に渡すのは危険だ。もし量産されたら人類は確実に滅ぶ」

「それがおまえの理由か?」


 ゴツいおっさんがクロガネに問いかけた。

 クロガネはいぶかしげに問い返す。


「ほかに理由があるか?」

「本当の理由はとか……」


 ゴツいおっさんに言われ、クロガネは黙ってしまう。図星……か?

 口を閉ざしたクロガネに、ゴツいおっさんは話を続ける。


「世界のことなんておまえにとっては二の次だろ。俺が来るまでなにがあったか知らねぇが、坊主に護衛依頼されたんだろ。依頼された仕事は責任持ってやり遂げろ。いいな」

「……ああ」

「それはそうと、坊主が目を覚ましたみたいだぞ」

「――はあ!?」


 ゴツいおっさんの発言に、クロガネは声を上げて驚く。

 俺は声を出さなかったが、内心はびっくりしている。


(俺が起きていること、いつ気づいたんだ?)


 不思議に思っていると、操縦室の扉が開き、クロガネが出てきた。


「起きたなら声をかけろ」

「怒られていたから声をかけなかった」


 俺が声をかけなかった理由を言えば、クロガネは頭を抱えて聞く。


「そのときからいたのか?」

「うん」

「そうか……」


 クロガネはため息をつくと、俺の手を引いた。


「依頼の件もあるが、おまえに聞きたいことがたくさんある。後ろで話をしよう」

「わかった」


 俺はクロガネの指示に従うことにした。

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