第7話 王女、力を解放する

「~~~♪~~~♪」


 フィエナは胸に手を当てながら、羽根を大きく広げ、透き通った声で歌唱を始める。

 声は船上全体を包むように響き渡り、聞く者すべてを奮い立たせ、闘志をたぎらせていく。


「これが……フィエナ様の力……!」


 その壮麗な歌声は仲間の傷を癒し、内から力を呼び起こすと同時に、魔物の動きを鈍らせる、非常に強力な能力である。

 『天空の女神』の加護は王家の血筋にしか宿らない力と言われており、彼女もその貴重な使い手の一人だった。


「たああああああ!」


 力を増幅したアヴェンスは剣を構えながら大きく跳躍し、舟艇を掴んでいるクラーケンの触手に目にもとまらぬ速さで斬撃を浴びせる。

 1本、2本と次々と触手が真っ二つに裂け、うめき声をあげながらクラーケンは体を揺らめかせる。   

 フィエナの力もあるとはいえ、『剣神』の加護を持つアヴェンスの卓越した剣術だからこそ出来る神業だった。

 他の兵士たちも束になりながら残された触手を攻撃し、確実にダメージを与えていき、少しずつ敵を追い詰めていく。


「よし、これならいけるぞ……!」


 先ほどまでとは比べ物にならないほど軽々とさばけるようになったことで 勢いに乗ったアヴェンスは、クラーケン本体に一気に畳みかけようと前に詰め寄る。


「キェエエエエエエエエエエエエッ!」

「!」


 しかし、そのタイミングを狙ってたかのように、クラーケンはアヴェンス……ではなく、少し離れたところで歌声を響かせるフィエナの方を見据え、それを打ち消すかのような奇声で威嚇する。


「しまった、前に出過ぎたか……!」


 彼女が力の源であると気付いたクラーケンは、動きの鈍った触手を無理やり動かしながら、フィエナに向かって叩きつけようとする。


「フィエナ様、危ない!」


 アヴェンスは咄嗟に剣撃で触手の数本を切り飛ばすが、僅かに手数が足りなかった。

 すり抜けた触手はフィエナのすぐ傍にぶち当たり、周辺をえぐっていく。


「きゃあああああ!」


 舟艇の一部が倒壊しバランスを崩したフィエナは、船上から投げ出され海面へ落下する。


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