不思議なセカイ集
赤羽九烏
もみじ かおる ティータイム
夏の匂いが、だんだん だんだん、向こうに行ってしまう
夏が大好きな神様が、この村に、あの街に、縫い付けた夏の香りは
次にやってくる季節の抵抗に、ほつれ、またほつる 🐾
🐾
(すずしくなってきたねぇ)
(そうだねぇ すずしくなってきたねぇ)
秋を誘う風は、灼熱の夏を乗り越えた木々、葉々、川、リスをなではじめ
のっそりと垂れた実を色づけようと、またもう一つ、吹きつける
🐾
(アントシアニンがたまってきたねえ)
(そうだねぇ 苦しくなってきたねぇ)
(ほうら つま先の感覚が なくなってきたよ)
🐾
夏の思い出を共に紡いだ、その香りと、その糸と
全部を掃いてしまった秋の風よ
🐾
林檎を赤らめ、桃を赤らめ
果汁がおもわず、子どもの手のひらで、繁吹く
🐾
さすが人気投票第1位、秋
ただ梨は手強いようだ 黄色に留まる
🍂
柿もそれに従うが 黄色よりちょっと負ける
風流だねぇ
(あぁ もうだめだ くるしいよう)
(僕も もうだめだ) 🍁
(でも にんげんたちが僕らを撮り始めたよぅ)
(喜んでいるよぅ)
(うれしいねぇ)
キンと貫く冷たさを、時々感じ
私はついコートを羽織ってしまう
🍂
それは懐かしい肌触り、長さ、重たさを呼び起こし
去年の秋に思いを馳せる
(あそこにめがけて飛んでいこう) 🍂
(さむいからねぇ)
(ぼくは あそこをめざすよ)
(さむいからねぇ) 🍂
(いいや 僕はそうじゃない)
(おいしくなるからだよ)
(ふうりゅうだからだよ) 🍂
🍂
私はおばあちゃんの家のこたつに、命を吹き込もうとがんばる
あぁ
夏の生活の埃が、狭くて畳臭い部屋に充満する
畳を開けなくちゃ 🍁
窓を開けなくちゃ 🍂
「お茶のんでぇ、休んでねぇ」
手にかわいく収まる湯飲みに
ストレスのない息を ふぅ と触れさせ
みどりのお茶が 穏やかに波を見せる
その時不意に、もう立派な秋の風が、木々、葉々、川、鹿をなで、
赤く染まったもみじが
私の湯飲みにそっと落ちた 🍁
あぁ 風流だねぇ
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