第27話 集結


 長い死闘にも遂に終わりが見えてきた。足元フラフラの竜操士。対照的に、死霊術師は満面の笑みを浮かべて眼前の死闘相手と対峙している。どちらが勝者かなど、一目瞭然である。



 「・・・今日ここで、貴様との因縁を断つ。そう意気込んで臨んだのだがな」



 諦めたように、槍を手放す竜操士。



 「因縁?そんな大層な繋がり、竜操士ちゃんとわたくしの間にあったかしらん?」



 死霊術師は全身をクネクネしながら、武器を手放した竜操士を油断なく見つめる。



 「・・・覚えてないか。貴様にとっては取るに足りない事柄だったんだろうな」



 嘆息する竜操士。なんだか傍目から見ていても疲れ切っている。



 「今回はここまでだな。最低限の目的は既に果たした」



 「あらん?もう帰っちゃうのん?もっとゆっくりしていってよん」



 逃がす気はない。そう言わんばかりに死霊術師が身構える。



 「生憎と忙しい身でな。一年近くもここに掛かり切りだった。そろそろ貴様の相手を、他の円卓メンバーに任せるとしよう」



 竜操士が手放した槍に魔力を注ぎ込んでいる。なんだ?何かの媒介にしようとしている?



 「元々ワシは橋頭堡を確保するのが役目。貴様の命などついでに過ぎん」



 半分、負け惜しみにしか聞こえない。けれど、本来の役目は果たした。そう言いたいのだろう。追い詰められているのは竜操士のはずなのに嫌な予感がする。勝ちを確信している?この状況下で?



 「本当はワシ自身の手で貴様を葬りたかったが・・・仕方ない。結果的に貴様が死ねば、ワシとしては満足。そう割り切るとしよう」



 注ぎ込まれた魔力が槍から溢れ出ている。このままだと壊れるんじゃないか?



 「この槍はクロウリー様から下賜された宝具級の一品。その特性を、貴様は知っているか、死霊術師?」



 「・・・知るわけないじゃない。竜操士ちゃんだって、わたくしが下賜された宝具級の指輪の特性効果、知らないでしょ?」



 「ああ。知らんな。それが普通だ。円卓の誰もが下賜された特性を本人以外、知りえるはずがない。クロウリー様以外は」



 ・・・・・・あの槍の特性?・・・そうか、それが狙いか!そういうことか!



 「死霊術師、その槍を壊させるな!」



 「えっ?どういうこと?」



 壊せならわかる。だが、壊すなとは?死霊術師がそう言いたいのが、表情を見るだけでわかってしまう。ああ、オレだって何も知らなければ、そんな間抜け面を晒すだようよ!



 「これが、その答えだ」



 最後の仕上げとばかりに、竜操士がありったけの魔力を注ぐ。そして・・・槍が砕けた。

 別に槍自体が崩壊と同時に都市一つ丸ごと大爆発するとか、そんな自爆要素満載な代物ではない。精々が宝具級の槍。そこまで無茶苦茶な性能はない。・・・だが、腐っても宝具級。使いようは幾らでもある。使い道を誤らなければ、鬼手に化ける。竜操士がやったのは、その類だ。

 槍が砕け散ると同時に、その欠片が触媒となり、複数の魔法陣が展開。これは詰んだかもな。



 「これは・・・転送の魔法陣?」



 死霊術師、正解だ。だが、わかったところで時すでに遅し。発動された時点で、負けは確定。・・・・・・ただし、負け方くらいは選ばせてもらうけどな。

 魔法陣の数は・・・五つ。事前に死霊術師から聞いていた数と一致する。勢ぞろいかよ。魔法陣の向こう側から招待された五人が、アークワンドに降り立つ。



 「・・・・・・・・・うそん」



 死霊術師はその一言だけを辛うじて絞り出した。ああ、オレも同じ心境だよ。視線の先には復活派の円卓メンバーが勢揃いしていた。誰がどの円卓かも、特徴はすでに聞いてある。

 一人目は、この場に復活派を勢揃いさせた功労者の竜人、円卓の竜操士。



 「時間が掛かってスマン。個人的な用件で予定より遅れた」



 二人目は、クロウリーを様々な面でサポートする役目を担うエルフ、円卓の巫女。



 「いいのですよ、謝罪は。我々は同格。むしろこちらが感謝しなくては。この空中都市に我々が来れたのは貴方のおかげです、竜操士」



 三人目は、二人存在する切り込み隊長の片割れである虎の獣人、円卓の狂戦士。



 「おせえよ、竜人。待ちくたびれたぜ」



 四人目は、肌が病的に白い吸血種、円卓の吸血鬼。



 「我々、復活派がこうして一堂に会するのもこれが最初で最後かもな」



 五人目は、素肌が一切見えない漆黒の全身鎧を着た、円卓の黒騎士。



 「・・・・・・」



 そして六人目。復活派の実質的な筆頭にして、魔王であり魔神であるクロウリーの実子にして後継者、円卓の魔人。



 「ここが空中都市か。こんなものが存在するとは驚きだ。創造神の御業はとんでもないな」



 それぞれが好き勝手にアークワンドを見渡している。まるで我が物顔だ。ここを復活派の新たな拠点にする気か。持ち主はオレなんだが・・・奪う気満々だな、この様子。



 「久しいな、死霊術師。息災そうで何よりだ。ここは良い所だな」



 「・・・貴方も相変わらずで何よりですねん、魔人」



 快活に話しかけてくる魔人に、死霊術師は笑顔で応じる。圧倒的に不利な状況なのに肝が据わっているな。

 周りには復活派の円卓メンバー計六名。最早このアークワンドは半ば敵の手に落ちたも同然。・・・ほとんどの円卓メンバーはオレの存在なんかスルーしてるのに、黒騎士だけはやけに見て来る。やべえ、気まずい。オレなんか見てないで、死霊術師に構えよ。あんなに目の敵にしていた奴が目の前にいるんだぞ。

 平時とは違う黒騎士の様子に気付いた吸血鬼が、話しかける。



 「どうした、黒騎士?・・・あの娘が気になっているようだが」



 いいぞ、もっと話しかけろ吸血鬼。オレなんかのこと忘れ去るくらい、会話に熱中しろ!



 「・・・・・・何でもない」



 「・・・そうか?」



 あっさりと会話を終わらせやがった。・・・なんか吸血鬼の視線も追加されたような?



 「さて、婉曲な物言いは嫌いなんだ。死霊術師、この都市を我々復活派に捧げろ。拒否権はない。ただ、お前の退去は許す。生きてこの場から帰れるんだ、不満はないだろ」



 実に一方的な要求である。だが、それが許される武力が魔人の背景にはある。死霊術師がチラリとオレに視線を向ける。オレはただ黙って頷いた。



 「・・・・・・わかりました。大人しく退去させていただきますねん。見送りは結構ですよん」



 「悪いな。だがここは魔王陛下が再び降臨する地となる。復活した暁には、またこの地に戻ってきてくれ。そしてまたその力を魔王クロウリー様の為、役立ててくれ」



 魔人の言葉にピクリと反応する死霊術師。おいおい、抑えてくれよ。ここでやり合っても勝ち目はないぞ。・・・オレの危惧は杞憂に終わった。死霊術師がこちらへ歩いてくる。魔人の手前、誰も仕掛けてくる気配はない。少なくとも、今のところは。



 「で、どうするのん?このまま大人しく立ち去る?」



 密着するくらいに接近してきた死霊術師が、小声で問いかけてくる。



 「とりあえず今はな。何より死にたくないし」



 少しでも復活派から離れる為、警戒しながら慎重に歩き始める。



 「ここはアーシャちゃんの所有物だから、わたくしがどうこう言える立場じゃないけど、本当にいいのん?奴ら、碌な使い方しないわよん」



 「心配しなくても、そうさせない為の手は打ってある」



 「そう?ならいいんだけどねん。・・・それより、そろそろ来るかも」



 「やっぱり、ただでは帰してくれないか?」



 「魔人が許しても、他のメンバーが許すかは別ねん。魔人が見てない場所なら、問答無用で襲ってくるかも。心当たりが二、三人はいるし」



 恨まれてるな、この筋肉だるま。



 「とりあえず、このまま地下へ向かおう。迎え撃つにしろ、地上に降りるにしろ、避けては通れない道だ」



 「あらん?もしかしてやる気なのん?」



 「向こうから襲ってくるんならしょうがないだろ。・・・魔人と巫女はあまり好戦的ではなさそうだったが、除外してもいいのか?」



 「そうねん。その二人はいいかも。竜操士ちゃんも、今回は消耗してるから参加しないかも」



 竜操士は切り札である宝具を失った。仮に襲ってきても全力は出せまい。・・・まあ、その代償が空中都市の入手に繋がったんだ。派閥の長である魔人が代用品を用意するか。竜操士本人としては使いたくなかっただろうからな。だが、あのタイミングがあの宝具の最高の使い方だった。槍を媒介にしての味方の集団転移。突破力のある竜操士に相応しい。一回限りとはいえ、敵陣深くまで竜操士が単独で切り込めば、無傷の味方をそのまま敵大将にぶつけられる鬼手。今回はそれを見事にやられた形だ。



 「吸血鬼ちゃんは・・・五分五分?けっこうな気分屋だからねん」



 「狂戦士と黒騎士は?」



 「確定ねん。地下に入った途端に来るかも」



 アークワンドを脱出するだけでも、危険が盛沢山か。退屈しないな、この世界は。




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