第16話 情報


キラ視点



 意識が・・・朦朧とする・・・・・・ここは・・・どこだ?



 「気付いたか?」



 唐突に声をかけられ数舜、反応が遅れる。視線を向けた先には、どこか満足げな小娘の姿。それを見て自身の敗北を認識した。だが、それを素直に認められない自分もいた。



 「お前・・・!?」



 どうやって負けた?いや、本当に俺は負けたのか?ここはどこだ?幾つもの疑問が次々に浮かび、すぐに消える。どうでもいい。負けた。だが、死んではいない。ならば、挽回も可能。この場で小娘を殺せば俺の勝ちだ。 



 「大人しくしろ」



 だが、小娘が言葉を発すると同時に全身から力が抜ける。これは・・・支配者(ドミネータ)スキル!??厄介なものを・・・!

 心は反抗しているのに、体がそれを許さない。・・・抵抗する意思そのものを奪う類じゃないだけまだマシか。こんな小娘の操り人形など絶対にごめんだ。



 「抵抗は無駄。アンタの首には服属の首輪がはめられている。ちなみに主人はわたし。傷つける行為は一切禁止だ」



 宝具級の魔剣といい、支配者スキル付きの首輪といい、なぜこうも希少なアイテムを幾つも持っている?何者だ、こいつは?



 「さて、幾つか聞きたいことがあるんだけど。まずは一つ目、なんでアンタがここにいる?黒騎士団がこの魔法都市に何の用?」



 「・・・・・・」



 小娘に答える義理はない。その必要も。・・・服属の首輪とやらも、どうやらそこまで強制力があるアイテムではないみたいだ。どういう判定かは知らないが、どうやら黙秘は許されているらしい。ならば黙秘を貫く。



 「・・・・・・黙秘か。やっぱり便利なようで不便なアイテムだな」



 「・・・・・・」



 参ったなと呟き、小娘がため息を吐く。俺はそれに沈黙で応える。



 「・・・一方的に情報を抜かれるのはお気に召さないか?まあ、誰でもそうだよな。わたしも同じ立場なら喋らない。なら・・・協力し合わないか?」



 協力・・・だと?胡散臭い提案だ。十中八九、罠の可能性。しかしこのままでは何も進展しないのも明らか。・・・・・・救援も期待は出来ないしな。まずは内容を聞く。それだけならお互いにメリットもデメリットもないはずだ。



 「興味ありそうな反応だね。話くらいは聞いてやってもいいって感じ?」



 「・・・上下なし。対等の関係か?」



 「とりあえず現段階では」



 「ならこの邪魔くさい首輪をとってくれないか?話はそれからで・・・」



 「却下。それ外した途端、わたしを殺す気でしょ?」



 「・・・・・・」



 当然、殺す。問答無用で殺す。俺の駄々洩れの殺意に、当然だが小娘は気付いている。



 「・・・だから、外す選択肢はない」



 「それで対等といえるかな?」



 「こちらから無理強いする気はない。首輪はあくまで保険。あれこれアンタに命令する気はないよ。そもそも聞かないだろ?」



 それもまた当然。あくまでそれを勝者の権利として要求するなら、俺は死を選ぶ。



 「覚悟が決まっている顔つきだな。こちらとしても不毛で無駄な作業に時間をかける気はない」



 「・・・それで、内容は?仲良しこよしで過ごしましょうとか眠たい戯言を聞く気はないよ。具体的に言ってくれないかな?」



 これ以上のやり取りは無駄か。次のステップに進める為、小娘の協力とやらの具体性を聞き出そう。



 「発言が前向きになってきたな」



 いちいち小うるさい小娘だな。



 「内容は?」



 幾分か、機嫌が悪そうな声を意識しながら続きを促す。



 「お互いがwinーwinな関係。どちらが有利、不利ではなくどちらにも利益ある関係性」



 中身がねえな、この小娘の言葉には。少しばかり苛ついてきた。



 「表面上のお為(ため)ごかしはいいんだよ。煙に巻くな、具体的に言え。お前はどこぞの商人か」



 「アンタの目的に力を貸してもいい。だからアンタもわたしの目的に力を貸せ」



 「なんだと?」



 こいつ、いきなりなにを?



 「ここに来た目的があるんだろ?まさかただの観光に来た、なんて冗談はなしだ。それこそ寝言は寝て言え」



 「・・・・・・」



 こいつ、何が狙いだ?そもそも・・・こいつは信用できるのか?脱走者だぞ。力になんてなるのか?・・・しかし、宝具級アイテムを幾つか持っているのは確かだ。その点が気になる。この小娘、この二年間どこでなにをやっていたんだ?・・・・・・探る為にも協力するのはあり、か?

 どの道、俺一人じゃ任務達成は困難だ。・・・・・・・・・決めた。一時的な協力ならありだ。団長も許してくれるはず。・・・半殺しくらいには。



 「ふうー・・・・・・わかったよ。こちらに協力するなら、俺もそちらに力を貸すよ。だが、これだけは言っておく。黒騎士団に不利益になる事は出来ん。どんな些細な事でも。それだけは許容できない」



 飛びつく形ではなく、渋々妥協した体(てい)を装う。同時にこちらの許容できる最低ラインも伝える。



 「それを破った、もしくはこちらがそう判断したら俺は自害する」



 そういう事態に陥れば、結局俺は団長に殺される。ならば楽に死ねる方を選ぶさ。



 「そこまで言い切るか。忠誠心がすごいな。・・・とりあえず交渉成立だな。ただ、こちらも出来る事と出来ない事はある。そこら辺の条件はこれからすり合わせていこう」



 勘違いしているみたいだが、わざわざ訂正する気はない。



 「期待しないでおくよ」



 少なくとも今は。不確定要素が多すぎて、計り知れないのが本音だ。



 「やれやれ、負けたくせに態度がでかいな」



 「小娘風情が・・・!」



 「アンタの怪我を治したのはわたしだよ。礼くらい言っても罰は当たらないと思うけど?」



 ようやくそこで気付く。小娘にやられたはずの火傷がないことに。特有の鈍い痛みも感じない。後遺症すら治す回復薬を持っているのか?それに・・・・・・信じがたいが、水龍にやられた傷も完治している。これほどの効果がある回復薬の等級はレアどころではない。まさか、宝具級!?



 「おいおい、剣呑な雰囲気だな。首輪がなかったら奪う気満々だったろ」



 ・・・ちっ、バレたか。正直、そんな物を持っているなら奪い取りたい。それこそ喉から手が出るほどに欲しい。それは偽りなき本心だ。試しに聞いてみるか。



 「・・・それを取引する交渉の余地はあるかな?」



 「あるよ」



 あっさりと認めやがる。子憎たらしい小娘だ。この余裕さ・・・かなりの在庫を貯めこんでる?



 「俺に提供できるのは武力と斥候スキルくらいだよ。・・・あとは多少の情報」



 「充分さ。あてにしている」



 「・・・手始めに情報を提供するよ。報酬は俺を治した回復薬五個だ」



 「内容次第かな。一個は最低でも保障する」



 けっ、小娘のくせにしっかりしてやがる。



 「俺がここに来た目的は円卓の死霊術師の拠点を潰す為だよ」



 「死霊術師・・・まだ円卓同士でやり合ってるのか」



 小娘は呆れているが、こちらとしては譲れないものがある。殺し合ってる理由を知らない奴から見ればそういう反応も理解できる。だからこそ苛つくがここは無視する。



 「ふん、どちらかが死ねば嫌でも終わるさ。話を戻す。団長がこの魔法都市に死霊術師がいるという情報をつかんだ」



 「本当にいるのか?本人であるという確証は?」



 「・・・半々というところだ。奴は秘密裏に動くのが得意だからね。それに影武者も複数、用意している。だが、ここに拠点があるのは確実だ」



 それも、恐らく死霊術師本人が立ち寄るくらい、重要度が高い拠点が。



 「断言するほどの自信があるんだな」



 「それについては確証がある。奴はここで研究の為の希少な素材の調達や、死体の収集をしている。そこを潰せば奴にとってはかなりの痛手になるはずだ」



 今まで幾つもの拠点を潰し、苦労して集めた確度の高い情報だ。これが誘い出す為の罠だとしたら手が込み過ぎてる。損害を度外視し過ぎだ。・・・奴本人はいないにしても、重要拠点はある。そしてそこには奴の影武者か、幹部クラスの部下もいるはず。死闘は避けられない。相当な修羅場になる。そう確信している。



 「・・・・・・死体の収集?」



 しかし、小娘が何か引っかかるのは死体収集の方らしい。明らかに怪訝な反応。そこまでか?奴の本業を鑑(かんが)みれば当然だと思うが。



 「ああ、ここには魔法学園があるだろ。大陸中から魔法の素養が優れたガキんちょ共を集めてる。将来有望な人材だ」



 つまりは希少価値のある材料でもある。



 「つまりは・・・そういうことなのか?」



 小娘に疑問に、俺は頷く。



 「集められた大部分は魔法技術の発展の為。大々的に広告している通りさ。しかし・・・極々一部はニエさ」



 死霊術師との取引に使われているかは知らないが、どうせ碌な使い道ではないだろうな。



 「・・・贄ね。その証拠は?まさかただの噂話じゃないよな?」



 なんだ、これに関してやけに突っかかってくるな。それにどこか焦っている?気のせいか?気にはなるが・・・あの回復薬は欲しい。しかも最大量。ならば出し惜しみはしない。こちらが掴んでいる情報を教えるとしよう。



 「一年に一人だ」



 「なに?」



 「必ず一年に一人。学園から失踪している。行方不明のまま」



 「・・・・・・見つかった者は?」



 わかっているだろうに聞くなよ。答えは一つだろう。



 「いない。一人もだ」



 それこそ死体すら見つかっていない。忽然とその姿を消すのだ。ある日唐突に。学園内では呑気なことに七不思議の一つとして、まことしやかに囁かれている。いわく、悪魔に連れ去られたと。



 「・・・それが死霊術師の仕業だと?」



 「正確にはどうだろうね。まさか死霊術師本人が学園にまで乗り込むなんてあり得ないだろ?」



 「・・・・・・まさか」



 気付いたか。



 「そう、おそらく十中八九、学園の関係者・・・それも上層部が絡んでいるに違いないね。ただの平教員には出来ないだろうし。単発ならあり得る。だが、それが毎年続くとなると無理だ。奴もそんな雑魚連中と取引すらしないだろうし」



 なんせプライドが高いからな。魔王の器でもないのに次期魔王の座を今も着々と狙っているらしい。無駄なことを。あんな奴に従う者など、それこそ死者くらいだ。団長を含む円卓メンバーは、誰一人として認めないだろう。



 「・・・なるほど。早速お互い協力し合えるようだな」



 「そうかい?情報が気に入ったようで何よりだよ。それで報酬は?」



 「希望通り、五個渡す」



 予想以上の手応え。こちらにとっては大した情報ではなかったが、小娘にとってはどうやら違ったらしい。



 「他に有益な情報はあるか?もしくは学園内の死霊術師の協力者リストとか、詳細な内容とかは?」



 追加報酬のチャンスか。しかし・・・



 「どれも確証はないね。怪しい奴の目星はあるが・・・それくらいだよ」



 「・・・・・・必要とあらば潜入するしかないか」



 潜入?今、潜入と言ったのか?



 「誰が?」



 本心からそう聞いた。



 「わたしが」



 ・・・・・・・・・なるほど。



 「あり、だね。そう言うからには魔法の素養はあるんだろ?」



 「一通りの下級魔法なら使える」



 「文句なしだ。合格確定」



 事前の調査がてら、魔法学園の合格ラインは把握している。下級魔法が一つか二つしか使えないなら論外だが、攻撃・回復・補助系すべてを満遍なく使えれば間違いなく合格できる。魔法によって得意、不得意はあるだろうけど、魔力量でごり押しすればいいだけだ。・・・それが至難の業なんだが。

 下級魔法は基礎だ。基礎さえしっかりしていれば上級魔法にも至れる。そして更なる高みにも。そう考えると小娘の潜在能力は凄まじいな。前衛、後衛を使い分けできるのか。どちらも達人級になれば万能だ。・・・夢物語だが。



 「そうなると・・・わたしは学園内部から。アンタは外部からの調査って感じでいいかな」



 「了解、問題ないよ」



 魔法学園は外部に対しての警備は大陸でもトップクラスで厳重だ。しかし内部なら、ある程度は自由に動けるはず。



 「・・・まるで計ったかのようなタイミングだな」



 小娘が誰に聞かせるわけでもなく独り言を呟いた。聞き取りにくかったが確かに聞こえた。けれどその内容までは理解できない。どういう意味だ?



 「アンタは運命って信じるか?」



 小娘からの不意の問いかけ。それを俺は鼻で笑う。



 「お前、運命論者か?乙女らしい一面があるもんだね」



 「茶化すな、答えてくれ」



 下らんことを聞いてくるからだ。茶化したくもなる。



 「運命の一言で片付くなら、誰も彼も真剣に生きないよ。それが答えだ。満足したか?」



 「・・・・・・・・・」



 小娘は無言で立ち去っていく。ふん、この程度で迷うか。やはりガキだな。



◆◇◆◇◆◇ 



 NPCに諭されるなんて・・・人生ってわかんないもんだな。とりあえずはなってみますか。魔法学園の生徒とやらに。




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