ゴリラ令嬢は小さくなった第二皇子に恋をする~まさか、高い高いでこんなに怖がられるとは思っていませんでした~

兎束作哉

プロローグ

渾身の高い高いを見せてあげる




「可愛い……何この生き物!」

「あの……ステラ令嬢。一応第二皇子ですから。その……」



 目の前にちょこんと座っている、小さな男の子を見て何故こんなに心がドキドキしているのだろうか。

 周りの人の目なんて気にしないで、ただその銀色の髪の、大きなサファイアの瞳を輝かせている男の子に私は釘付けになっていた。

 だって! すっごく可愛いんだもん! 思わず抱きしめたくなる可愛さよ?  しかしここは我慢だわ……。

 私は深く深呼吸をする。



「……ステラ?」

「う゛っ」



 小首を傾げ、私の名前を呼んだ男の子の破壊力に私の心臓は飛び出しそうになった。やばい。これはもう犯罪級だよ!  いけない、いけない。落ち着け私。

 いくら子供でも相手は男の子よ? それに相手はこの帝国の第二皇子……幾ら魔法の作用で『小さくなった』としても中身は、十八の成人男性なのよ。

 私がそう自分に言い聞かせて心を鎮めようとしているというのに、第二皇子ユーイン・ウィズドム殿下は私の方へとてとてと歩いてきて、ドレスの裾を引っ張った。上目遣い、潤んだサファイアの瞳を見ていると、どうしても頬ずりしたい衝動に駆られる。



「ねぇ、ステラお姉ちゃん遊ぼうよぉ」



 ああぁあぁ!  無理ぃいいぃい!  何これ!?  反則でしょう?  こんなに可愛いなんて聞いてないわよ!


 相手は、帝国一の大魔道士と言われている冷徹の皇子ユーイン様。でも、その面影は全くなく、目の前にいるのは幼気な少年。中身まで幼児化しているみたいで、私の事なんて覚えていないようだった。こっちとしても、面識はあっても言葉を交したのは数回程度だし。

 覚えていないのなら、好都合。


 私は、ユーイン様をひょいと持ち上げた。



「殿下、高い高いでもしましょうか?」

「高い高い?」

「す、ステラ令嬢ダメです。貴方は――――」



 周りにいた、騎士達が慌てて制止にはいったが私はそれらを全て無視して、「うん」と満面の笑みで頷いた殿下の腰をグッと掴んでそのまま上へと放り投げた。



「ぎゃああああああー!」



 楽しげな声をあげて空中に浮かんでいる殿下。楽しそうな声……というよりかは、悲鳴に近い気がするけど。



(まあいっか。楽しんでくれているみたいだし)



 それを下から見上げていた私はついつい笑顔になってしまう。そして、またすぐにキャッチする為に手を伸ばす。

 腕の中にすっぽり収まった殿下は、白目を剥いて泡を吹いていた。よっぽど楽しかったんだろうと思う。

 しかし、周りは騒然としており、口が開きっぱなしになっていた。そこで、私はようやく自分のしでかしたことに気がつく。



「……あ、あはは」



 私が笑えば、ビクッと騎士達は苦笑いを浮べる。

 また力量を間違えた。



(はあ……何でこうなるんだろう)



 私は、殿下の意識が戻ってくるように背中をさすりながら、自分の力に肩を落とす。

 私、ステラ・ウィースは、周りからゴリラ令嬢と呼ばれている怪力令嬢なのだ。



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