第21話

 S級装備品【精霊宝珠の樹杖】。正直こいつを使いこなすには、まだフェルネスのレベルでは足りないが、見殺しにするよりはましだ!


 「フェルネス! それを使え!」


 フェルネスは、短杖から突き刺さっている【精霊宝珠の樹杖】を引き抜き持ち替えた。


 「この杖?······何だろう······すごく、きれいで、手に、馴染む」 


 「グゥ、グァァァァァァ!」


 ゴブリンキング・メイジは杖を地面に叩き付け〈砂の束縛サンドバインド〉強引に抜け出した。


 「フェルネス! 杖を構えろ! ゴブリンキング・メイジは拘束を抜けたぞ!」


 「あ! はい!」


 フェルネスは、ムクロに言われ杖を構えた。


 油断、した······とっさに防御魔法をかけたけど、ムクロがくれた装備品じゃなければ、防ぎきれず、死んでいた。ムクロからは魔法攻撃するって聞いていたのに、私は······


 フェルネスは自分の事を悲観し始めると、目の前が真っ暗になっていった。

 

 「フェルネスっ!」

 

 「はっ!」


 「反省は後! 目の前の敵に集中!」


 ムクロの言葉にフェルネスの真っ暗になっていた目の前が戻った。


 そうだ、今は目の前の敵に集中するんだ! 私はもう······逃げたくない! 負けたくもない! 


 フェルネスは杖を横に振り構えると、フェルネスの背後から4つの魔法陣が現れた。


 「噓っ!? あれって?」


 ムクロはフェルネスから現れた魔法陣に驚愕した。


 「マイマスターあの魔法陣はいったい?」


 「あれは、【聖魔女学院の聖装】の装備スキル〈術式編集〉の発動エフェクトだ」


 「〈術式編集〉ですか?」


 「そうだ。まさかあれを使うなんて」


 【聖魔女学院の聖装】の装備スキル〈術式編集〉。魔法スキルの効果を編集することができるという装備スキルだが、時間がかかり編集している間は他のスキルは使えず、効果によってSP消費が増減する。


 フェルネスには〈術式編集〉は、ある程度教えたけど、詳しい使い方までは教えていない······まさか、ぶっつけ本番で使うなんて。


 「セン、クロ、万が一のために用意しておけ」


 「主殿?」


 「用意に越したことはないからな」


 どう乗り越える? フェルネス。


 「んっ、行きます!」


 フェルネスは杖両手で持ち替えて、ゴブリンキング・メイジの周りを走り出した。

 

 今の私のじゃあ、あのモンスターは倒せない、私が覚えている魔法の中で一番火力が高い〈火球ファイアーボール〉でも、あんまり効いていない······だったら。


 フェルネスが考えていると、4つの魔法陣がゆっくりと周りだした。


 この〈術式編集〉は、時間はかかりそうだけど、相手をよく見て、攻撃を回避しながら行えば。


 「■■■■■■!」


 ゴブリンキング・メイジは杖から魔法をフェルネスに向かって放った。


 さっきの魔法攻撃!?······落ち着いてよく見れば、速度は大したことはない。焦らずに攻撃を避ければ──


 フェルネスはゴブリンキング・メイジの魔法攻撃を冷静に避けた。


 ──大丈夫。ちゃんと見えてる。


 「グ? グァァァァァァ!」


 ゴブリンキング・メイジは魔法攻撃をやめて再び、距離を詰めて杖による物理攻撃に変えるが、フェルネスは攻撃を避け続けた。


 もう少し······後、もう少しで、出来、上がる。 

 

 攻撃を避け続けるフェルネスを見ていたムクロは、先ほど発動した〈術式編集〉を気にかかっていた。


 フェルネス······〈術式編集〉で、あれを狙ってるのか? だとしたら······


 「セン、念のため用意をしとけ」


 「なんだ? 気になるのか?」


 「あぁ、恐らくフェルネスは、次の魔法スキルを放った時、動けなくなる」


 そうこうしている内に、ゴブリンキング・メイジは攻撃が当たらないことに苛立ち、杖を掲げると杖先から火の球が現れた。


 「はっ!?」


 魔法が来る! 一度、後方に──


 「■■■■■■!」


 ゴブリンキング・メイジが唱えた瞬間。火の球から小型の火の球が四方八方に放れた。


 「噓っ!?」


 一発ずつだと当たらないから、今度は数での攻撃に変えた!? これじゃあ、後方に下がっても、数発は攻撃を受ける。どうしたら······


 一瞬の刹那の中、フェルネスは次に取るべき行動を模索していた瞬間。背後に展開していた魔法陣の回転が止まった。


 「できたっ!」


 その瞬間。フェルネスは走り出し、ゴブリンキング・メイジの魔法攻撃を回避しながら一気に、距離を詰めた。


 簡単なことだったんだ。最初から······広範囲系の攻撃は、攻撃者自身が被害を受けないために、安全圏があることに······そこに入れば私も、攻撃を受けない。


 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 フェルネスは魔法攻撃を回避しながら走り、そしてゴブリンキング・メイジ数メートルへと近づいた。


 「ここがあなたの安全圏です!」


 フェルネスは杖を構えると、背後の魔法陣が杖に収束された。


 「これでおしまいです!──〈術式編集・火球ファイアーボール〉!」


 フェルネスが唱えると、先ほど放った数倍大きい〈火球〉がゴブリンキング・メイジの顔面へと放ち、爆発が起こった

 

 「うぐっ······ぐっ!? きゃ!?」

 

 爆発で生じた爆風が起こり、近くにいたフェルネスは数メートル飛ばされ、煙幕が立ちのぼった。


 「······ハァ、ハァ、ハァ」


 フェルネスは自分の魔法の爆風で飛ばされたが、杖をついて立ち上がった。


 すごい······威力、今の私が出せる最大威力······さすがに、無事じゃあ──


 「グァァァァァァァ!」


 えっ!?


 煙幕を薙ぎ払って現れたのは、顔面に火傷を負ったゴブリンキング・メイジだった。


 噓でしょ? 今の魔法を受けて、まだ立てるの?


 ゴブリンキング・メイジは先ほどの〈火球〉のダメージが入っているのか、ふらつきながらフェルネスに向かった。


 「だ、だったら! もう一度──」


 突然、フェルネスは足に力が入らず、膝から崩れ落ちた。


 「あれ? 体が、言うこと聞かない? なんで?」


 フェルネスは杖を使って立ち上がろうとするが、力が全く入らなかった。


 「お願い! 立って! 早くしないと──」


 立ち上がろうと必死になっていると、数メートル正面にゴブリンキング・メイジが立ち止まり、杖を振り上げた。


 ······やっぱり、私は、ここで、終わるんだ。


 フェルネスは首を前に下げて目をつぶったと、同時にゴブリンキング・メイジは杖を勢いよくフェルネスに向かって振り下げた。


 「全く、無茶はするなって言ったろ」


 フェルネスは聞きなれた声を聞き、自然と首を上げ前には、黒くボロボロ外套を纏った。ゴブリンキング・メイジに腕を前に出すムクロが立っていた。


 「ム······ムクロ」


 フェルネスは安堵したかのように泣き始めた。


 「シグマ、ノワール、フェルネスのこと頼む」


 「承知致しました」


 「任せてください主君」


 シグマとノワールはフェルネスに近づき、ゆっくりと立ち上がらせた。


 「······あれ? ムクロ、それって?」


 フェルネスはムクロが前に出している腕の先をよく見ると、半透明な壁がようなのがあり、それがゴブリンキング・メイジの攻撃を防いでいた。


 「ムクロ、それって防御魔法? ムクロは魔法使えたの?」


 「ん? あっーこれ違う、これは【魔法石】に込められている〈魔法盾マジックシールド〉って言ってね······って! 説明は後でするから、早く下がって! 痺れを切らしたセンが──」


 突然、ムクロの前をセンが飛び越え、そのままゴブリンキング・メイジの顔面に右ストレートのパンチを食らうと、勢いよく十数メートル吹っ飛び後方の崖へ激突。センは地面に着地した。


 「主、あのモンスターは任せていいか? 中々面白そうだからな」


 「あぁ、全く、あまり本気はだすなよ」


 「心配するな······ただ、遊ぶだけだ」


 振り向いたセンの目の色が変わっていた。


 あっ、ダメだ。これ······本気出す目だ。


 ムクロはセンの目の色を見て、悪い予感しか感じなかった。

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