第5話

 「──クロ······ムクロ」


 誰かに名前を呼ばれて目覚めるとそこには鎧とコートを掛け合わせたような防具を身に纏い中性的な顔たちの見知った顔が上から覗いていた。

 ギルド『十三人の死神たちサーティーンデスズ』のギルドマスターにしてゲーム内最強プレイヤーの一人"偽英雄"ジャスティだった。


 「ジャスティ!? ここは?」


 「寝ぼけてるのか? ここはうちのギルドの談話室だろ」


 ムクロはソファから起き上がりそのまま腰を掛けて片手で頭を抱えていた。


 「俺······別の場所にいたような気がするんだ」


 「まったく、しっかりしてよね。いずれ僕の後継者になってもらうんだから」


 ムクロは後頭部を搔きながら不機嫌そうにジャスティを向いた。


 「······その呼び方は嫌だって言ったよな、それに俺はお前の後継者になるつもりはない。第一なんで俺を勧誘したその日にギルドマスター代理にするってどういう意味だよ!」


 「ん? ハハハッ、それはだな──」


 突然にモヤがかかりだし、話が途切れてしまった。


 ◆◆◆


 目が覚めるとムクロは森の中で横になっていた。


 なんでここに? そうか、俺は異世界に来てたんだ。あの後歩いても森から抜けられず結局野宿してそのまま寝たんだっけ、半分吸血鬼でも睡魔ってあるんだな······なんであいつの夢を見るんだかな──んっ?


 ムクロは後頭部に妙な柔らかさを感じた。


 何か後頭部に柔らかいものがあるの──かッ⁉


 シグマが覗き込こんできた。それに驚きムクロは勢いよく起き上がった。


 「おはようございます。マイマスター」


 「お、おはようシグマ、もしかしてだと思うけどさっきシグマがやったのって──」


 「はい、膝枕です」


 やっぱり! なんでそういう状況になった? 


 「俺、昨日の近くの丸太で寝た覚えてがあるんだけど? もしかして昨晩からしてたの?」


 「はい、正確には5時間43分28秒前から膝枕をやっております」


 時間細か⁉ いやいやいやそう言うことじゃなくて


 「その、疲れないのか?」


 「私は自動人形オートマタですので疲労はございません。もしかしてお気に召しませんでしたか?」


 「いや、そうじゃないんだ。あんまり、みんなの前でやることじゃあって、あれ?」


 辺りを見渡すと他のみんなの姿はなかった。


 「シグマ、他のみんなは?」


 「はい、ノワール様とクロ様は周囲の探索に、セン様は上にございます」


 「上?」


 シグマの言う通りに上を見てみるとセンは木の幹の上で横たわっていた。


 「セン、寝ているのか?」


 「起きてるに決まってるだろ」


 「センは探索には行かないのか?」


 「探索ならノワールとクロだけで事足りる。それに我は今、


 「動けない?」


 「今、我は〈明鏡止水〉を使っているからな」


 戦士職【サムライ】が持つスキル〈刀術:明鏡止水〉は視覚以外の感覚を研ぎ澄まし気配の感知ができる。

 スキルを発動している間はその場に動けなくなるのが欠点だが半径10メートル以内であれば敵が隠れて近づいてもすぐに感知できる。


 「今の所、目立った気配は感じられない」


 「そうか、引き続き頼む」


 「言われなくても従魔としての仕事はやる」

 

 センって時々反抗的な言い方するよな······さてと、本格的に俺がやる事がなくなってしまった。


 ムクロは自分に何かできないかと考えていると、ムクロの腹の辺りからグーと鳴った。


 そう言えば昨日から何も食べていないっけ……何か食べるか

 

 「〈アイテムボックス〉」


 ムクロは〈アイテムボックス〉を開き探り出した。

 

 「マイマスターいったい何を?」

 

 「腹減ったから何か食べようと思って、シグマもどうだ?」


 「いえ、私は自動人形オートマタですので食事は不要です。ですがもしよろしければ【SP回復薬ポーション】をいただけますでしょうか?」


 「え? 別にいいが」


 ムクロは〈アイテムボックス〉から赤いリンゴを二つと青い液体が入った小瓶を取り出した。


 「はい、シグマの【SP回復薬ポーション】」


 ムクロはシグマに【SP回復薬ポーション】を手渡した。


 「ありがとうございます」


 「食事は不要なのに【SP回復薬ポーション】は必要なんだ?」


 ムクロは思った事をふと口にしてしまった


 「あっ、すまないシグマ」


 「いいえ、問題ありません。本来の自動人形はSPをエネルギーに変換して体内に保管しています。ですが私は欠陥のディフェクト自動人形オートマタ、常にエネルギーが放出している状態ですので、通常の数倍エネルギーを消費してしまうのです」


 シグマの種族欠陥のディフェクト自動人形オートマタは失敗作の自動人形が暴走した種族。通常の自動人形よりエネルギーの消費が激しいのが欠陥自動人形というモンスターとしての設定。恐らくゲーム時代のモンスターの設定もこの世界では反映されているか。


 「シグマ、その······どのくらい動ける?」


 「そうですね、現在のSP量でしたら······一週間くらいですかね」


 一週間か······【SP回復薬】の在庫は残っているが、戦闘せずに森を抜ければいいんだが。


 「シグマ、もしもエネルギーが切れそうだった時は気にせず俺に言ってくれ」


 「え? ですが、それではマイマスターが……」


 「【SP回復薬】はまだまだ残っているから問題はない、だからシグマも遠慮なく言ってくれ」


 「······かしこまり、ました」


 シグマは返事をすると渡された【SP回復薬】を飲み初めた。


 シグマも少しは気軽に言ってくれればいいのに、まだまだ少し距離があるような感じだな。


 「セン」


 取り出していたリンゴの一つをセンに投げ渡した。


 「少しは食べとけ」


 「······ありがたくいただいておく」


 センは横になったままリンゴを食べた。


 さてと、俺も食べるか。


 ムクロもリンゴを食べ初めた。


 ······うん、今さらだけど食べられる。ゲームだとどこにでも手に入る食材系の素材アイテムだけど、これでしばらく食料が尽きることはなさそうだが、早いところ森から抜け出したいな。


 黙々とリンゴを食べていると背後から視線を感じた。


 「ッ!」


 ムクロは立ち上がり背後を振り返った。

 

 誰かがこっちを見てる? クロかノワールかいや、違う一体誰だ?


 「やはり主も気づいたか」

 

 センは木の幹の上から降りてムクロに近づいてきた。

 

 「セン、まさか気付いていたのか? 一体いつから?」


 「主から、木の実を貰った時だ」


 「できれば、その時に報告してほしかったよ」


 「気配も弱々しかったから、別に報告することではないと思ってな」


 「弱々しい? 小型のモンスターか何か?」


 「いや、恐らく人間だ」


 人間?······こんな森の中に? それにセンが言ってた「弱々しい」ってのも気になる。


 「セン、シグマ念のため警戒の体制を取れ」


 シグマも立ち上がり、セン、シグマは警戒の体制を取った。


 「そこにいる誰か! 出きてくれないか! 出来れば危害を加えたくはない、だから素直に出てきてくれ!」

 

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