ダンジョン配信者を助ける配信やってます。~ウチの箱のメンバーはやることは地味だけど強いです~

あおき りゅうま

第1話 俺の仕事はダンジョンに潜って人を救うことです ~ダンジョン配信の裏表~  

「行くぞ。新人」

「は、ハイ!」


 最近、ウチの事務所に入ってきた小柄な少女、メルディ・キャスターに声をかける。


「でもセンパ~イ……私たちのグループがやってる配信って地味じゃないですか?」


 光る鉱石が散らばる洞窟の中を俺とメイディは進んで行く。


「あ? 何がだよ?」


 手元のスマホを頼りに目的地を目指す。


「なんって……いうか……メインストリームじゃないっていうか……流行りじゃないって言うか……」


 杖でコンコンと岩を叩きながらメイディは不満を言い続ける。


「だって私たちの配信———ダンジョン内で死んだ冒険者を蘇らせて地上に転送することでしょう?」


 紺色のシスター服を身にまとった僧侶、後輩のメイディはそう言う。

 俺は「確かに地味だな」と言いつつ、ドローンについているカメラを叩く。 

 魔法エネルギーを使ったドローンで魔力結晶体———マテリアルが埋め込まれた壺型のもの。ダンジョンが日本に発生する以前に販売されていたドローンとは全く形状が違うものでそれしか知らない前世代の人間にとっては、「こんなものドローンじゃなくて人工衛星だろう」と言うだろう。

 つぼ型のカメラに、底にあたる部分に四つの羽が付いてそれが高速回転してハチドリのように空中に静止している魔法マジックドローンカメラ。


「倍率がまた高すぎる……アップになりすぎだっつーのこのポンコツカメラ」


 スマホに配信画面を映し続けているそれは少し調子が悪く、スマホからの命令を上手く受信してくれていない。

 魔法マジックドローンカメラはスマホと電波が繋がっていて、遠隔で操作できるのだが、それがどうも最近調子が悪い。


「お、映った映った」


 真っ白な髪に目に十字の痣がある武術家、俺の姿を映している。


【お、見えた】

【チッス、ハルさん】

【チィ~ス】


 オンライン配信プラットフォーム『DanTube』の配信画面。俺の姿を映すライブ画面の隣にあるコメント欄に、文字が並ぶ。


「チッス」


 短く返事リアクションをする。


「せんぱ~い……聞いてるんですか?」

「あぁ? 何が?」

「もっと派手な企画やりましょうって話なんですよ~……私の方の視聴者さん、可愛いメルディちゃんが誰も見たこともないようなボスを倒す! そんな企画を望んでるんですから! 私のメルディ教徒たちは!」


 そう言って、メルディは俺に自分のスマホの画面を突きつける。


【メルディちゃんかわいい~!】

【もっとメルディちゃんの可愛さが伝わる配信して~!】

【応援しているよ~!】


 と、そんなコメントばかり流れている。


「あのなぁ、メルディ教徒ってファンの名前怪しいから変えろって何度も言ってるだろ?」

「メルディチャンネルのファンは私の信奉者だからメルディ教徒。可愛いじゃないですか? 先輩なんてハルチャンネルのファンネームは〝ダチ〟って普通過ぎてて全然パッとしない」

「いいんだよ。そんくらいが男らしくて」

「だからいまだにチャンネル登録数十万人いかないんですよ。視聴者に媚びないし、こんな地味な企画ばっかりやってるから」

「うるせぇ。もうすぐ目的地に着くぞ」


 ダンジョンの中を進んで行く俺達。


 グルルルルルルル……!


 唸り声が聞こえる。


「いましたね。狼の王ウルフキング……この第54階層のボス」


 クマの三倍は優に超える巨体を持つ白銀の狼。

 それが唸り声をあげてぽっかりと開いたドーム型の空洞を徘徊している。


「あれが、要救助者ですね……?」

「ああ」


 その足元にはわき腹から血を流して倒れている鎧を着た男女四名がいる。 

 ピクリとも動いていない、死んでいるようだ。

 俺はスマホを操作し、万が一にでも死体が配信画面に映らないようにカメラの位置を調節する。


【メルディちゃんカワイイ】


 おっと、映すものを間違えた。

 お調子者の後輩をアップで映しても仕方がない。これは俺のチャンネルであって、同じ光景をあいつのチャンネルで映しているはずなのだから。

 適当な地面でも映しておこう。


「よし……狼の王ウルフキングに気づかれないように行くぞ」

「えぇ~……戦いましょうよ! 倒しましょうよ……! せっかくなんだから!」

「ばぁ~か、それは俺達のコンセプトじゃないだろ」


 俺は腰に下げた小袋から煙球を取り出し、遠くの方へ投げる。

 ポ~ンと放物線を描いた球は硬い地面に落ちると自動発火し、煙を上げる。

 それに狼の王キングウルフは反応し、牙をむき出しにして煙の中に突撃していく。


「じゃあ、お仕事始めますか」

「はい、センパイ」


 俺とメルディが岩陰から飛び出す。


【キタ—————‼】

【頑張れハルさん、頑張れメルディちゃん】

【草】

【やっぱり戦わないんすね。ハルさん】

【臆病者め!!!!!!!】 


 うるせ。

 好き勝手に書き込むコメントに内心ツッコミを入れながら、直ぐに四人の冒険者たちの死体の元に辿り着くと、


蘇生リィン・バース!」


 復活の魔法をメルディが使い、四人の冒険者たちの傷が癒えていく。


「……あ。俺達死んだはずじゃ」


 そして、彼らのリーダー格っぽい男の目がパッと開いた。


「死んでたよ」

「え? あ、あんたは……救助配信しているっていうグループの……名前は……」

「覚えなくていいそんなん。いいから一旦地上に戻って自分のチャンネル復活させろ。ダンジョン配信者は配信中に死ぬと一時的にチャンネルが凍結させられるんだから」

「あ、あぁ……」


 『DanTube』では万が一グロかったりエロかったりする映像が配信されないようにAIが常に監視し、そういった光景が映りそうになった瞬間配信者のチャンネルを凍結し、配信画面をシャットダウンする対応策を取っている。

 恐らくここにいる彼らも、狼の王ウルフキングにやられる寸前に配信がバンされているはずだ。


転送テレポート!」


 メルディが転移の魔法を唱えると、彼らの足元に魔法陣が出現し、一瞬で姿が消える。


「ふぅ……これでお仕事完了ですね。お疲れさまでした、センパイ」

「おい」

「何です?」

「一人残ってる」

「え……?」


 パーティーのリーダー格っぽい男。

 さっき俺に話しかけていた男がまだこの場に残り続け、「俺は?」と言いたげに自らを指さしている。


「メルディ、こいつもさっさと転送しろ」

「あ~……すんませんセンパイ。魔力切れです……」

「はぁ? じゃあとっとと魔力回復薬エーテルでも飲んで……」

「すんません……あたしあれ味が嫌いで持ってきてないんですよ……」

「いや、味が嫌いとかそういうのじゃ……!」


【メルディちゃんカワイイ!】

【ドジっ娘……ダネ☆】

【あざとくていいぞぉ~、メルディ】


 ふざけた後輩に対してコメント欄がわく。

 いや、ホントふざけんな。


「おい! 救助配信者の人! ボスがこっちに気が付いたぞ!」


 男が狼の王ウルフキングを指さす。

 煙球の効力が切れ、奴は俺達を既に発見していた。

 牙をむき出しにして、俺に対して敵意を向けている。


「どうすんだよ‼ あんたらまで殺されるぞ⁉」

「うるせぇ、少し黙ってろ」


 そう言ったのに、男の口は止まらない。


「黙ってられるかよ! あんたら所詮は救助隊なんだろ⁉ ここは五十層超えてんだ! Bランク認定冒険者でも死ぬ可能性があるところなんだぞ! あんたらそんな上級冒険者のなりそこないだろ⁉ だから、救助配信何て変な配信やってんだろ⁉」


 お~、お~言うねぇ。


「何が言いたいんだ?」


 ———ガァァッッ‼


 口を開けて猛烈な勢いで俺に向かってくる狼の王ウルフキングから目を逸らす。


「前見ろってッッッ⁉ どうせ、あんたら弱いんだろォ⁉」


 パニックになっている男を見つめながら俺は———、


 ———キャンッッ⁉


「弱いわけねぇだろ」


 裏拳で狼の王ウルフキングを殴り飛ばした。

 顔の側部をノールックで打ち抜かれた狼の王ウルフキング は吹き飛び、壁にぶち当たると生命力ライフポイントが尽きたのか、全身が黒ずみ灰になってその体を朽ちさせる、


「わ、ワンパン……俺達があれだけ苦戦した……狼の王ウルフキングを一撃で……」


 茫然と呟く男。


「ダンジョンで魔物に負けた人間を助けに行くんだ。その魔物を退ける強さを持っている奴が救助配信者やってねぇと、話になんねえだろうが。ミイラ取りはミイラになんねえんだよ」


 とにかく、相棒の僧侶が魔力切れを起こしやがったんでこの男は俺が背負って運ぶしかない。

 彼に向けて手を伸ばす。


「あ、あんた名前を教えてくれよ……やっぱり名前知りてぇよ……」


 男は俺の手をとりながらそう言ってきたので、別にいいのにと思いつつも名乗る。


「ハル・エンドー。配信者救助グループ『レスキューライブ』の第三期生で、武闘家キャラとしてやってる。まぁ———俺はお前たちダンジョン探索者が表舞台の花形だとすれば……裏方うらかただ」


 しっかりと彼の手を握りしめ、彼の身体を背に乗せた。

 さて、これから五十四階———一人の人間を背負って上りますか……!

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