第4話幹部会議

 俺を含めた七人が、一つのテーブルを囲うように座った。

 テーブルの上には、たくさんの料理が置かれている。この料理は、玲央が作ったもので、それを食べながら会議を行うのが恒例だ。

 ちょうど、お腹が空いていたところ。

 俺は、テーブルに並べられた中の、肉料理を口に運んだ。

 

「ボス、どうですか?」


「ああ、やっぱりお前の料理は美味いよ」


 いつものことながら、料理の味は最高に美味い。

 玲央の料理人としての能力の高さは、俺が見てきた中では一番だ。それに加えて、強くてイケメン。これだけならば、俺も何も思わず安心して一緒に居られただろう。

 だが、この男には致命的な点がある。それは、性格だ。

 俺に対して少しでも失礼な奴がいると、ソイツのことを徹底的にボコボコにしてしまう。そのせいで、周りにどれだけの被害が及んでも本人は全く気にしない。

 他の奴らも同じように致命的な点がある。まず、クレア・オベール。彼女は、このギルドで一番の功績をあげているが、戦闘狂ゆえに、大抵のことは戦って何とかしようとする。次に、斎条ミツハ。彼女はモデル業などの活動も行っているのだが、俺に対する執着が凄すぎる。それが原因で、迷惑を被ったことは数えきれない。そして、鶴喰玄祥。彼は、このギルドで一番の年上でありながら、何かと酒を飲むことが多く、それが原因で起こることなど想像に難くない。最後に、御神ネオ。彼女は、十四歳という若さでありながら、ギルド内では俺に次ぐ実力を持っている。だが、寝るか食うか以外のことをすることがなく、ギルド内では一番仕事をしていない。

 

「さぁ貴方たち、大人しくしてなさい。会議を始めるわよ」


 会議の進行は全て麗音に任せている。というか、何を話すのかが分からない。それに、コイツ等をまとめるなんて俺には無理だ。

 俺に出来るのは目の前にある料理を美味しく食べることだけ。他の奴等も食べ進める中で、麗音だげは食べずに話を始めた。

 

「まず、ボス以外の皆に話すけど、ついさっき、ボスが火使いの男を仕留めてくれたわ。その時に、出会った女性を新たにギルドのメンバーに向か入れることにしたから、頭に入れといて」


「はぁ?ボス、女を連れてきたって本当なの?」


「丁度良かった。彼女、まだ自分の力を操れないようだから、ミツハが教えてあげなさい。貴方も似た系統の力を使うんだから」


 流石は、麗音。仕事の出来る女だ。しっかりと、風華のことまで考えていてくれたとは。ミツハは納得していないのか騒いでいるが、麗音は一切反応することなく次の話へと移った。俺を含めた他の奴等も、いつものことだからと反応することはしなかった。

 それにしても、やっぱり玲央の料理は美味いな。また腕を上げたか?食べ進める手が止まらない。

 ナイフとフォークが当たる音、麗音が喋る音、ミツハの騒ぐ声。ミツハの声は少し五月蠅いが、今のところ静かな方だ。果たして、このまま終わるのだろうか。

 そう思いながら食べ進めていると、麗音が全員に何かが書かれた紙を配った。


「それが、今回の会議の中で一番大事な内容だから、しっかり頭に入れておいて。そこに書かれているのは、ある犯罪ギルドのメンバーの情報よ。調べた限りだと、メンバーは約百五十人。そのうち、六人の幹部とリーダーの一人が『超越者』なのは間違いないわ」


「なるほどね、愚かにもこの街で犯罪ギルドを構えたコイツ等を根絶やしにしようっていうわけね」


「ええ、そう。どうやら、裏の世界だと少しは名が通っているようだから、壊滅させたら良い抑止力になるんじゃないかと思ってね。ただ、一つ困ったことがあるの」


「困ったこと?一体何に困っているんだよ」


「見たら分かると思うけど、リーダーの顔だけは分からないの」


 たしかに、配られた紙には、幹部たちの名前と顔写真が載っているが、リーダーは名前しかない。組織というのは、頭を叩かない限り、何度だって復活する。だから、リーダーの情報は何より大事だ。

 とはいえ、この程度の相手なら、ここにいる中の二人か三人でも送れば何とかなるだろ。一先ず、俺はこの件に関わる気はない。

 それに、俺は今、食事を楽しんでいる最中だ。


「リーダーのことが分からないなら、とりあえず他のメンバーだけでも潰して、そいつ等から聞き出せばいいじゃない」


「そうね。だから、ボスと他二名明日にでも攻め込んでもらいたいと思っているの。ボス、いかがでしょうか?」


「そ、そうだな。実は俺、明日はどうしても外せないようがあるんだ。だから、ここにいる中の二人に任せたいと思っている。こんな相手なら、二人でも多いくらいだ」


 危ないところだった。まさか、俺も加えられるとは思わなかった。とっさに吐いた嘘だが、麗音は信じてくれた。

 いや、嘘ではないかもしれない。明日の俺の予定と言えば、学校に行くこと。普通の生活を求める俺にとっては、任務よりも外せない用事だ。

 もちろん、そんなことは麗音には言わない。言えば、任務の方を優先させられる。

 

「では、誰に任せますか?」


「ネオとクレアに任せれば問題ないだろ」


「ちょっと待ってよボス。こんな後先考えない馬鹿クレアよりも、私の方が良いに決まってるわ」


「おいミツハ。ボスに選ばれなかったからって僻むな!」


 始まってしまった。

 クレアとミツハが喧嘩を始めた。だが、誰も止めようとはしない。これが、いつものことだからだ。

 そんな状況でも、麗音は無視して話を続けて、他のメンバーは黙って聞いている。

 結局、静かに話し合いとはいかなかった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る